どれだけ強くても個人では集団に勝てない?
ドゴォォン!! ドガァァン!! ドゴォォン!!
翌日の朝。 突然王都に着弾の音が響き渡った。 主人公達も想定していない事態に慌てたが、何故か直ぐに音は止まり、代わりに王国民の慌てた声が城下から聞こえてきた。
「どういうことだ????」
「……なるほどの。」
ベッドから飛び起きた主人公は何やら思いついた様子のニコルを見る。
「攻め方を変えてきたんじゃろ。 催眠をかけた状態の兵士じゃと、占領しつつの進軍がし辛くなる。 だからこれまでは王都に向けて真っ直ぐ進軍することしかせんかったが、前回の戦闘で正面からでは英雄には勝てないと学んだんじゃろ」
「……てことは、今の砲撃はアランさんや俺を王都に留めるための陽動か?」
「ま、あくまで予想じゃ。 当たってなければそれでよい。 ただ…当たっていた場合……これから面倒になるの」
ちなみに爆発音が一瞬だったため、他3人は爆睡している模様。
「とりあえず最低限の人数に集まってもらったが、議題は先ほどの爆撃についてだ。 幸か不幸か国民に被害はなかったが、門の一部が多少崩れたな」
先の対応に追われている部署を除いて、会議室に集まったほぼ全員が焦った様子を浮かべていた。
「では私から。 あの時間に警備をしていた門番からの話ですが、あの仮称・戦車は一機のみ現れたようです。 何もないところから突然現れたため、最初は寝ぼけていたのかと思ったらしいです。 そして何発か門に向けて砲撃をした後に、まるで最初から何もなかったかのように消え去った…とのことです」
「果たして一機しか転移させられないのか、一度の転移にも時間制限があるのか、何回も転移させることが可能なのか…ううむ…」
「……そう思わせてアランさんか無貌の英雄のどちらかだけは王都に留める作戦という可能性もありえるか」
そう考えるラインに対してアランも同じように思っているらしい。
「仮にブラフだと分かり切っていてもどちらかは残さないといけないだろうな」
『そうだろうなぁ……』
全員が悩んでいる中、主人公もニコルが考えたことを共有するようだ。
「俺からもいいですかね? 前回の戦いでアランさんとむ…無貌の英雄///が帝国軍を2人で撤退させましたよね。 それが前提の話とはなりますが、このタイミングで王都にどちらかを留めるような作戦を使った意味って何でしょうか?」
『ふむ……?』
「あぁ!! なるほど…。 ははっ…英雄の存在が裏目に出ることがあったか」
一人は気づいたようで、額に手を当てている。
「どういうことだ?」
「簡単な話です王子。 帝国軍は催眠にかけられていたからこそ複雑な動きがさせづらく、王都に向けて進軍していたのですよ。 しかしアラン様と無貌の英雄様によって正面切っての戦闘では勝てないだろうと察しました。 ということは?」
「……戦力の分散と王都ではなくその周りから占領…ということか」
『なっ!!??』
全員が驚くのもつかの間、会議室に兵士が突入してきた。
「大変です王子!! 辺境から順に農耕地帯が占領されていっています!! しかも一部隊ごとの数が少ない代わりに、同時に何か所も攻撃されていて全てを対処は出来ません!!!!」
「…嫌な予感が当たったな」
「こちらも戦力を分散…」
「いや、それだと魔法部隊の数が足らんの。 こちらの人数を削ってしまうとあの兵器は受けきれんぞ」
もちろん主人公にはこれを対処できる心当りはあった。 しかし、自分の生徒を戦争に巻き込んでいいのかという気持ちと、そうしなければ王国は負けてしまうという気持ちに挟まれて発言できずにいた……が、よく考えると、その考えを生徒会長の兄であるラインが考えないわけがなかった。
「出来れば動員したくはなかったが……負けてしまってはしょうがないな。 アランさん。 妹と魔法学園の生徒を連れて前線に行ってくれるか?」
「なっ!? ラインさん!?」
「……了解した」
「アランさんも!?」
「悪いなツクル。 教師としては生徒を動員したくなんてないだろうが、これは戦争だ。 負けたら学園の生徒なんて目じゃないほどの数が死ぬ。 同時にお前を前線に出せない理由も分かるよな」
「…………。」
冷静に放たれたその言葉を言い返すことも出来ず、主人公は口をつぐむこととなった。
「それでは、魔法部隊は学園の生徒と共に前線に向かえ。 一応言っておくが、あの魔法学園の生徒だ、侮りはするなよ? だが、あくまでも学生だ。 可能な限り魔法部隊だけで対処しろ」
「「はっっ!!」」
「それでは解散!! 各々帝国軍の対処に戻れ!! あぁ、ツクルだけは残ってくれ。 話すことがあるからな」
『了解!! 「…了解」』
全員が会議室から出ると、主人公はラインに迫り、首元を掴む。
「なぜ俺を前線にやらなかった?」
「ぐっ…当たり…前だ。 ツクル…最悪の場合…お前に生徒を切り捨てることが…出来るか? できないだろう? ……ゲホッゲホッ」
「ちっ、そうだな。 俺なら何が何でも守るだろうよ」
主人公は掴んでいる手を放しながら椅子に座りなおす。
「それに先ほども言ったが、アランさんかお前のどちらかを残さなければ国民が心配するだろう? 昔は教師でも今この時は無貌の英雄なのだからな」
「はぁ…そうだな」
会議室から出ていったラインを横目に、主人公はそのまま椅子に寄りかかった。




