50話記念 過去編 若干の鬱注意?
まさか50話まで続けることが出来るとは(驚愕) そんなわけで今回の話は50話記念の過去編です。 魔法学園編と繋がりはないので、学内戦の続きを期待していた人は申し訳ありません。
……なんで私は生きているんだろう。
普通の人生はつまらないなんて言う人もいる。 でもそんなことを言う人は幸せな人生を歩んでいるからこそのその言葉だろう。 普通。ということがどれだけ幸せなのか理解していないのだろう。 私のようにこの世界の何処にも居場所なんてない…なんて考えている人が何人いると思っているのだろうか。
「○○~、今日は部屋から出てきちゃダメよ~?」
この女はまた別の男を連れ込むんだな。なんて思いながら私は首肯する。
「○○? 聞いてるの!? はい。は!?」
また殴られた。 自分の考える反応をしなければ癇癪をおこす…そんな人間でも体さえよければ異性からモテる。 ふざけた世の中だ。
「はい。」
「分かってるなら最初から言いなさいよ!! 本当に鈍間なんだから。」
自分が世界の中心だとでも思っているのだろうか。 他の人の事なんて一切考えていない。
だがそんな親の下に生まれてよかったと思うこともあったりする。 この女はどんな癇癪をおこしても、私を殺すことだけは絶対にしない。 他の人間を気にしない代わりに、分かりやすく自分の汚点を作るということだけは絶対にしないからだ。
それに男をとっかえひっかえしているからか、お金も不自由にならないぐらいにはある。 食べるものも無い…なんてことにはなったりはしない。 貧乏ではない…それだけで私は幸せだと思いたい。 思わないと生きていけない。 貧乏でも幸せに生きている人はいるのに。
そうして毎晩毎晩耳障りな喘ぎ声を聞きながら最悪な日々を送っていた私に転換の日が訪れる。
「ふ~んふっふっふ~ん♪」
その日の女は何故か異常に機嫌が良かった。 珍しいこともあるものだなんて思いながらも、私は何も言わない。 どうせ何か言ったらまた殴られる。
「あぁ!! ○○!? 今日から子供が家に来るからね!! あんたが対応しなさい!!」
「はい。」
目障りな子供が増えるのに機嫌がいいのは何故なんだろうか。 まあどうせクソみたいな理由だろう。 その子供を哀れに思いながらも、同類が出来て良かったなんて思ってしまった。 私もクズだな。
「あなたが勇輝さんの息子ね? あなたのお父さんには世話になったわ。 おもてなしはあんまりできないけれど、私の娘と仲良くしてあげてね。」
女の気持ち悪い態度に吐き気を覚えながら、私はその子供の方を見た。
そして私はこのクソみたいな人生で初めての衝撃を感じる。
その子供の目は私と同じ目をしていた。 人生に絶望をした目。 人を信じるということが出来ない、濁り切った眼。
「造と言います。 よろしくお願いしますお姉さん。」
「あら、お上手なんだから!! ○○、一緒にお話ししてきなさい。 3階は自由に使っていいから、造君も自分の家だと思っていいわよ!!」
早くも猫を被れなくなってきたのだろう。 私に押し付けて、自分はリビングへと小走りで逃げていった。
「……ついてきてください。」
同類として話せることもあると思い、私は自分の部屋へと案内した。 特に何もない私の部屋へと。
「率直に聞くけど、虐待されていたりする?」
私の部屋へと案内された造君は目の色を変えた。 あぁ、訂正しよう。 造君とやらは私とは違う。 人生を諦めてなんていなかった。 あくまで予想だが、この人の目が濁り切っているのは、両親がどちらも亡くなって親族を振り回されたとかだろう。 親の遺産が残っている場合なら、大人の悪い面しか見ていなかったのだろう。
「これを見れば分かりますよね?」
私は着ている服を全て脱ぎ捨て、傷と青あざだらけの体を見せつける。 恥ずかしさ?そんなものあるわけないだろう。 こんな体を見て欲情するのはそういう性癖を持っている変態だけだ。
「言っちゃ悪いけど…最高だよ。 そんな君なら親なんていらないだろ?」
「もちろん」
そして造君は私の体を抱きしめ、耳元に語り掛ける。
「君ならこういう方がいいだろう? 口だけにはなるが、“契約”だ。 今日から俺は君の兄となろう。 ただ一人、絶対に君を裏切らない家族になろう。 その代わり君は、俺が君のお母さんにやることに口を出さないでくれ。 それに、少しだけ我慢をしてくれ。 訴えられるほどの証拠を俺が集めきるまで。」
この人は異常に優しい。 私は出そうになる涙をこらえながら、そう考える。 あなたと同じ目をしている私に“契約”なんて持ち掛けなくても了承することは目に見えていただろう。 自分を使ってまで契約なんてもちかけるほどでもないだろう。 だが、そんなあなただからこそ私は信じることが出来る。
「よろしく。 兄さん。」
「あぁ、よろしくな。 “美羽”」
あの“契約”の日からは死にたいなんて思いもしなくなった。 そしてその日から私の人生は大きく変化することになっていった。 女は偶々前科持ちの男を彼氏にした時に警察の御用となった。 弁護士さんが言うにはもう会うこともないらしい。 それからは親を訴えた兄妹として親族から敬遠され、運よく優しい老夫婦に拾われることとなるまでは少し大変だった。 でも、兄さんと二人だけで過ごした大変な日々にこそ私は生きているという実感を持つことが出来た。
ようやく“普通”の人生というものを送れるようになって早数年。 兄さんは配信者として自分の家を持つようになり、多少の寂しさを感じていた。 それでも週に一回は必ず兄さんと会う日を設けていて、今日はその日だ。
「兄さん!! 愛しの妹が会いに…き…たよ?」
おかしい。 人のいる気配がしない。 いつもなら、兄さんがバタバタと出迎えてくれるはずなのに。
「兄さん!? 兄さん!!」
兄さんの部屋に行くが、いつもは妹物のエロ本を隠している押入れが少し開いた状態になっている。
「ど、どこに…に、兄さん…」
私は目の前が真っ暗になったような気がし…いや物理的に目の前が黒いぞ?
『ようこそ神界へ。 “斎藤”美羽。 お主の兄は異世界へと転生したのじゃが…お主はどうする?』
「な…ロリ!? どういうこと!?」
気が付いたら目の前にはロリがいて、そいつが言うには兄さんは異世界へと行ったらしい。
『は? ロリじゃな…くない!? お主らの思考はどうなっとるんじゃ!?』
「どうでもいいけど、私も異世界に行くに決まってんじゃん!! 兄さんがいるならね!!」
ロリだとかロリじゃないとかは関係ない。 兄さんが異世界にいるなら私も行くしかないだろう。 それに異世界なら…
「そういえば異世界ならハーレムとかってどうなの?」
『ん…? 一応あるにはあるが…』
異世界……最高だぁぁぁぁぁーーー!!
「ほらさっさと異世界に行くよ!! 君も兄さんのハーレムに加えてあげるから!! 妹の私も合法でグヘへへ」
ハーレムなら妹がいてもおかしくないだろう。 私は異世界に送ってくれるらしいロリに全力で感謝をした。




