100話記念 盛大なネタバレ
50話同様に過去編です。 完全なネタバレに当たるので、考察勢の皆さんはこれから書くであろう最終章を見てからの方が良いかも?
「やあやあエルちゃん!! ひっさしぶり~~!!」
「………。」
「お? エーーールちゃーーーーん!!!!」
「……!? あぁ、ロムですか」
図書館のような場所。 銀髪の女性が1人で静かに本を読んでいると、どこからともなくボーイッシュな金髪少女が現れ、女性の耳元で叫ぶ。
「久しぶりだねエルちゃん!!」
「ええ、久しぶりですね。 それで何の用ですか?」
女性は本を読む手を止め、少女の方に向き合うと、温和な表情で話しかけた。
「ふっふっふー、この度は私ロムちゃん!! 好きな人が出来ました――――!! ドンドンパフパフ~!!」
「ふふっ、それはおめでとう。 その上で此処に来たということは世界の記録を閲覧しに来たんですかね? 私に言わずともあなたなら過去・現在・未来のいずれも閲覧の許可は許されていますけど」
「何言ってるのエルちゃん? 神王とは言え運命神であるロムちゃんを舐めちゃいけないよ!? 好きな人の運命なんて分かってるに決まってるじゃん!!」
図書館だと思われたその場所は世界の記録を閲覧する場所であった。 女性と少女と思われた2人も神王様と運命神様らしいが、そんな2人も好きな人について話し合うことがあるらしい。
「それでは何故?」
ただの報告のためだけに訪れるような場所ではないだろうと神王は考えたのか、運命神にもう一度尋ねる。
「全能神様の記録を閲覧出来ないかなと思ってね。 エルちゃんが隠してるから見れないけど、相当数奇な人生を歩んで来たんでしょ? エルちゃんの夫になるぐらいなんだから」
「……それが知りたいということは…」
真面目な顔で話し始めた運命神に、神王も同様に真面目な表情で答える。
「うん。 僕が好きになった人の人生も酷いの一言じゃあ表せないね。 多分このままいったら直ぐに死んじゃうと思うよ」
「なるほど……それならまあいいでしょう」
神王の言葉を聞き、運命神の目はキラキラと輝く。
「ということは!?」
「ええ。 閲覧の許可を出しましょう。 あなたが言うぐらいなんですから、無理だったんでしょう? こちらから運命を変えようとしても」
運命神は苦い顔をしながら頷いた。 それを見た神王は椅子から立ち上がり、代わりに運命神を椅子へ寝そべらせた。
「少し待っていてください。 今持ってきますから」
そう言った瞬間、その場から神王の姿が消えた。
「お待たせしました」
数分待った後に神王は本棚の奥から現れた。
「意外と時間かかったね……っていや厳重過ぎない!?」
よいしょこらしょと運んで来た神王の手の上には鎖でガッチガチに巻かれた一冊の巨大な本があった。
「解除するのに時間がかかるので始まりだけ先に見ておいてください」
「あびゃっ!? 叩きつけないでよ!?」
顔面に叩きつけられた小さい本で鼻を強打した運命神は椅子の上でゴロゴロと転がった。 そして痛みが治まった後、手元の小さな本の表紙をペラリと捲った。
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其処は何も無い空間…永遠に変化のない空間…
いつから…何故…そんな疑問すら存在しない何も無いはずだった其の空間に…唯一つだけぼんやりと発行する球体が現れる…
どうして……そんなことすら考えられないほどの時間がまた過ぎ去り…
“無”の空間にたった一つの“有”の存在が確立された…
“有”の存在が確立されたのもつかの間……また変化の無い無限に等しい時間が経過する………
無限に変化せず…たった一つの“有“すらも”無“になりかけていたある日…
「ここは…?」
何もないはずだった空間に突然、人型の物体が姿を現した。
「どこだ…?」
その者は辺りを見回すと、近くにぼんやりと光る球体を見つけた。
「君が俺を……」
その人型は球体に自我を与えた後、自分のことを全能神と名乗った。 だが、もちろん球体は自我…自分自身という概念を与えられただけであって、自分で物事を考えるということすら出来なかった。
そのことを察した全能神はまた球体に智慧を与えた。 全能神が持っていた知識を与えた。 感情を与えた。 そして……全能神と同様の人型を与えた。
そしてまた無限にも等しい時間が経ち……ただの球体だったモノは“女性”へと変貌した。 そのことに喜んだ彼女は、全能神と名乗った彼にこのことを伝えようとした。
彼の姿が何処にも存在しないということに気付くまでは……
彼の姿は何処にも存在しなかったが、しかし彼女の記憶の中には確かに彼は存在した。 だが、この何も無い空間でそれを証明できる手段など無かった。
それならば残そう。 彼の存在を忘れないためにも。 もう二度とこんな気持ちを味わうことが無いように……すべての物語を…すべての記憶を…
「愛している彼のために」
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「読み終わりました? それがこの世界の始まりの物語です。 それと同時に、彼と私の長いながーい物語の始まりでもあります。 それでは続きをどうぞ」
「ふぅ~~~。 満足感が凄いね!!」
すべての物語の閲覧が終わり、背をグイ~~っと伸ばした運命神はそう言った。
「何か参考になることはありましたか?」
「う~んそうだね!! 一つだけ思いついたことならあるよ!!」
運命神は人差し指をビシッと神王へと見せつける。
「ほう? それは何でしょうか?」
「簡単だよ簡単!! これまでは運命神が自分で運命に介入しようとしていて失敗してたんだよ!! それで失敗するなら、僕の姿じゃない僕が介入すればいいんだよ!!」
それを聞いた神王はクスッと笑い、激励を送った。
「その結果に辿り着いたようでよかったです。 次に会う時はあなたの彼氏を連れてきてくださいね。 “ニコル”」
「了解なのじゃ!! ってね!!」
姿を変えた運命神は、ツクル達が良く知っている彼女だった。