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ハート・ハード

試しに投稿してみます

 


 俺がこいつを拾ったのは少し前の事だ





 あれは()()発見された"遺跡(いせき)"を調査していた時だ。その遺跡は数百年以上は前のものらしく、"トレジャーハンター"の俺はいつもの様に「金になるものがあればいいな」程度の軽い気持ちでその遺跡に()()った。

その遺跡は一本道(いっぽんみち)で、奥に大きな部屋があるだけのあまりにも単純な作りのものだった。しかもパッと見てその部屋には本ばかりで金になりそうなものは全然なかった。


 「この遺跡はハズレだったか?」と思ったその時、俺は部屋の壁に"ハート型の王冠"の様なマークがある事に気が付いた。

 そのマークは人差し指に隠れるほど小さい物で、自分でもよく見つけたなと感心するくらいだ。

 自分の目線より少しだけ下にあるそのマークを念のため手帳にスケッチする。

 こういう見た事のない模様(もよう)やマークはたまにある隠し部屋を開く為の(かぎ)や暗号のためのヒントだったりする事がある。だから俺はそういう物を見つけた時は必ずスケッチするようにしている。

 スケッチを終えた後、そのマークが書かれている壁を念入りに調べた。さっきも言った様に隠し部屋があるかもしれないからな。

 そして俺は試しに壁のマークを指で強く押してみた。


「おお!」


 すると面白い事にその壁が消えて、人が1人(ひとり)は十分に通れるほどの通路が現れた。

 壁が動いたとかではなく、壁が消えたんだ。突然ふっと、最初からなかった様に消えた。

 俺の今までの記憶を(さかのぼ)ってもこんな隠し通路は見たことがなかった。

 "魔法"か・・・はたまた目の錯覚などを使った"技術"か・・・。

 この時、俺の中でハズレだと思っていたこの遺跡は一気ににアタリへと変貌(へんぼう)した。

 

 俺は期待に胸を膨らませて隠された通路を進んで行った。

 隠し通路も最初の部屋への通路と同じで一本道だった。少し下り坂になっていたくらいで基本はひたすらまっすぐ行くだけの通路だ。

 しばらく歩くと明かりが見えてくる。ようやく隠し部屋にたどり着いた俺はその部屋の異常さに思わず声を上げてしまった。


「なんだ・・・これ!?」


 まず目に入ってくるのは"少女"だった。

 部屋の中心に設置されているカプセルに入った全裸の少女だ。

 薄い緑色の得体(えたい)の知れない液体が入っているカプセルに入れられた少女がそこにはいた。

 まず目に入った物から調べていく様にしている俺の足は自然とそのカプセルに向かって行った。


 近づいた事でこの少女は()()()()()()事が分かった。なぜならその少女の股には生殖器がなかったからだ。

 本来は有るハズのものが、"人間"には必ず必要不可欠な器官がその少女にはなかった。

 だがゆっくり他に気になるところがないかを見てみるが、生殖器が見当たらないだけで―――胸は少し膨らんでいるし―――人間の少女にしか見えない。


「・・・裸の少女をじっくり見ている所を"カノン"に見つかったらボコボコに殴られてたな。今回ほど一緒じゃなくて良かったと思う事はないぜ」


 ふと冷静に自分の今の様子を客観的に見てみると変態にしか見えない事に気が付く。

 そのせいでたまに一緒に仕事をする女性の事を思い浮かべてしまい、ついでに彼女の重い(こぶし)の事も思い出す。

 思い出しただけで体が縮み上がりそうになった所でこの少女の事を見るのを止めた。結局いくら見ても生殖器の有無ぐらいしか不思議に思う所はなかった。

 分からない物は後回しにする。俺は本来の目的を達成する為に視線をカプセルから部屋全体に移した。


 改めて部屋の中を見渡す。部屋の中はかなり散らかっていて、見たこともない道具や器具、本などが散乱していた。さらに部屋全体がものすごい(ほこり)を被っており何百年も手付かずだった事が一目で分かる状態だ。

 試しに近くに転がっていた本を一冊手に取ってみる。

 埃を手ではたき落とし、本の表紙を見てみると隠し通路を見つけた時にあった"ハート型の王冠"のマークが刻印(こくいん)されていた。それにそのマークのすぐ下に俺には読めない記号か文字が書いてある。

 そしてその本を開いて中身を確認すると、中も全て俺の知らない言語で書かれているようだった。


「初めて見る文字だ・・・」


 他の本も確認してみると、この部屋に散らばっている本は全部俺の知らない言語、共通言語である"ディワルド語"以外の言語で書かれていた。

 俺は今まで様々な遺跡に入って、様々な過去の遺産(いさん)に出会って来た。だがこの部屋にある物は何一つ見た事も、聞いた事もない遺物(いぶつ)ばかりだ。

 

「こりゃあ、大当たりだな」


 この部屋にある物をその手の奴に見せればかなりの買値が付くだろう。正直()()でこの部屋の物を全て持っていきたい所だが流石にそれは無理だ。


「往復して全部回収したいが・・・戻って来る間に誰かに持っていかれる可能性があるしなぁ」


 トレジャーハンターは何も俺だけじゃない。

 実際に過去に何回かあった。あの時は本当にショックだったなぁ・・・。


 とりあえず俺はこの遺跡を往復することも考えに入れながら、まずは今回持ち帰る物の選別を始めた。

 選別と言っても一番金になりそうな物を選ぶだけだ。目ぼしい物を一か所に集めてそこから今回持って帰れるギリギリを持ち帰るつもりだった。

 

 部屋の物を色々と物色していると、再び少女の入ったカプセルが目に入る。

 今いる場所は入って来た入り口の反対側で、そこからだと少女の入ったカプセルを裏側から見ている事になる。だからか最初に見て気が付かなかったものに今更気が付いた。

 カプセルの下の金属部分。そこに何か文字が掘ってあった。

 しかもその文字はこの部屋にあった物とは違い、俺たちが日常的に使用しているディワルド語(共通言語)で書かれていた。


「アイ、リス・・・?」


 この少女の名前だろうか?

 少女の名前らしきものを呟いてからもう一度少女を見た。少女は目をつぶり、眠っている様にしか見えない。

 何故だか異様にこの少女の事が気になったが、この場所に長居は出来ない。もしかしたら今にも同業者がこの遺跡に入って取り合いになるかもしれないのだ。

 俺は意識を作業に戻し、選別を続ける―――だが。

 

「っ!!な、なんだ!?」


 作業をしていると突然、遺跡全体が揺れだしたのだ。


 ―――ウゥゥゥゥゥゥ


 さらに遺跡中に聞いた事もない甲高い音が鳴り響いた。


「まずい!」


 嫌な予感がした。

 何か特別な事をした覚えはないが、この遺跡の何かしらのセキュリティに引っかかったようだ。

 時間制限か、埃を払ったせいで何かしらのセンサーが起動したか・・・?。いずれにしても時間は残されていなさそうだ。

 俺は大急ぎで遺跡を出る準備を進める。


 すると揺れのせいなのか少女が入っていたカプセルが突然音を立てて割れた。

 当然、中に入っていた緑色の液体と一緒に少女は流れ出て来る。


「・・・お、おい!」


 生きているか死んでいるのか、そもそも人間かどうかもわからない少女だが、俺は何もせずに放っておくような外道ではない。

 俺は恐る恐る近づいて声を掛けたり揺すったりしてみたが少女に反応はなかった。

 何百年も放置されていた場所だ。反応がない様子から「この少女はすでに死んでいるのではないか?」という考えが強くなっていく。

 だが無慈悲にも。そうしている間も揺れはだんだん酷くなっていき、ついには天井が崩れ始めた。


「くそッ!!」


 それを見た俺はこの遺跡がすぐにでも崩れる事を悟った。

 急いで一か所に集めていた遺物の中から適当な物を袋に詰め込み、出口を目指す。

 この隠し部屋を出ていく際に一瞬だけ振り返ると、少女の事が目に入ってしまった。


「・・・ッッ!」


 考える時間はなかった。既に崩壊し始めている遺跡から今すぐに脱出しなければならないという、 本来は何もかも無視して出口を目指さなければいけない状況だ。命は何物にも代えられない。

 だが、しかし。俺はあの少女の事が気になって仕方がなかった。


 俺は次の瞬間には少女の身体を担ぎ上げていた。急いで脱出をしなければいけないという焦りがあったせいか、そもそも一秒すら無駄に出来ない極限状態だったせいなのかは分からない。

 その時に何を考え、何を思ったのかは覚えていないが、とにかく俺はがむしゃらに行動していた。

 そうして俺は正体が何なのかもわからない少女を担ぎながら、来た道を全速力で引き返し何とかその遺跡を脱出したのだった。


 ―――ドゴォォォン


 勢いよく俺が脱出した瞬間に遺跡は大きな音を立てて崩れさった。本当にギリギリだったようだ。

 振り返ると遺跡は既に瓦礫(がれき)の山に変わり、もう見る影もない。

 俺は激しく呼吸をしながら、遺跡だったものを見て大きなため息を吐いた。


「はぁ、くそ・・・最悪だ、あんまり盗れなかったな」


 手持ちの荷物の中を見て確認すると、そこには使い方も用途もわからない道具が数個、読めない本が数冊だけだ。それに何故か持ってきてしまった謎の少女。

 荷物になるどころか、こんなものを持ち帰ってどうすればいいのか・・・。


「遺跡は潰れてしまったし・・・もう、帰るか」


 本来はもっと色々な物を盗りたかったのに、非常に残念だ。後はこれらにいい値が付くことを祈るしかない。

 俺が少ない荷物を整えていると、連れ出して来てしまった少女の事に意識が向く。

 つい流れで遺跡から連れ出してしまったが、()()をどうするか・・・。

 脱出の際に抱えた所、重さは普通の少女と同じくらいだったためそこそこの重量がある。

 これを持ち帰るのは少々手間であるしそもそも―――


「持って帰っても・・・な」


 念のため脈を確認した所、脈がなかった。つまりこの少女は最初から死んでいたのだ。

 俺はわざわざ死体を持ち出してしまった。

 生きているのなら話が変わるが既に死んでいるのなら持ち帰っても俺にメリットは一切ない。

 勝手な事をして申し訳ないがこの少女の遺体はここに置いて行く事に決めた。


「勝手に連れ出して悪かったな・・・」


 両手で少女を抱えると俺は瓦礫の影になっている所に少女を隠す事にした。

 崩落した遺跡に全裸の少女の死体が堂々と有ったら、見つけた奴は魔物の仕業じゃあなく必ず人間の仕業だと思うだろう。そうすると事件性が出てきて、もしかしたらそこからこの遺跡に最後に入ったのは俺だと突き止められてしまう可能性がある。

 だがまぁ、これは念のためだ。そもそも崩れた遺跡を調べようとする奴なんていないだろうしな。

 

 少女をいい感じに影になっている所に置く。

 勝手に連れ出した手前、野ざらしで放置するのも忍びなかったので俺はカバンから大きめな布を取り出し少女に掛けてやった。

 その時だ―――

 ピクッと少女の指が動いた。


「なにっ!生きてるのか!?」


 俺は慌てて少女の身体に触れる。だが相変わらずその体は冷たく、死体のようだった。

 呼吸を確認するも、呼吸はしていない。脈拍も確認するが、脈もない。

 人間なら生きているとは思えない状態だ。


 ―――だが、先ほどから指先は微かに動いている


 鼓動も呼吸もしていない。だがこの少女は生きているのだ。


「そういう"亜人"の類いか?」


 "エルフ"やら"ドワーフ"やらの亜人は人間に近い種族だが人間とは違う。

 だが亜人の研究なんてほとんどされていない為、亜人と人間の違いについて詳しい事は誰も知らないのだ。

 だからこそ俺はその少女が亜人の可能性があると思った。鼓動も感じ取れず、呼吸も確認できないがその二つは亜人だからという理由があれば納得できる。

 亜人だから体のつくりが人間とは違う。亜人だから呼吸は必要ない。

 分からないからこそ色んな理由が想像できるし、どんな理由でもある程度は納得できる。


「生きてるなら話は別だ。とりあえずは・・・連れて帰るか」


 亜人なんて実際に見るのは初めてだが、彼女がこうしてここにいる原因は俺にある。

 まずは彼女を連れ帰って、そのあとどうするかは後で決めよう。

 俺は再び彼女を抱き抱えると、連れてきていた馬に乗った。

 そして俺達はそのまま俺の拠点である街"アシトス"に戻った。






 検問を潜り抜け、やけに人の視線を気にしながらやっと自分の家に到着した。

 自宅に帰って来るとまず少女をソファに寝かせて、それから机に本日の成果を並べていく。

 俺が持ち帰った物は本が5冊と使い道の分からないなぞの道具が4つ。それだけだ。しかも悲しい事にその4つ道具の内一つは同じ物なので実質3種類だ。

 並べた道具は横から順番に"真っ黒い球"、"ガラスの様な素材の薄い黒い板"が二枚、"両端に金属が付いている紐の様な物"だ。

 黒い球と紐は材質が解からないがこの黒い板だけはガラスに近い材質に観える。ガラス細工はそこそこ貴重なもので金属ほどではないがいい値が付くハズだ。しかも黒いガラスなんて物は俺は見た事がない。もしかしたら物凄い値打ちが付くかもしれない。

 

「まぁ今はそんなことよりこいつをどうするか・・・だな」


 パッとみただけの簡単な査定を止めて連れ帰ってきた少女に目を向ける。

 俺は一人で暮らしている為、女性用の衣服なんぞ持っている訳がない。

 なので少女は未だに全裸の状態だ。まぁ流石にそのままだと目線に困るので大きめの布を掛けておいた。


「おい、聞こえるか?」


 実は戻る道中に何度か少女に話しかけたが、反応は一切帰って来なかった。

 家に着き、一旦落ち着いたのでもう一度改めて声を掛ける。だが少女が反応することはなかった。


「どうしたもんか。医者の所にでも連れていくか?・・・いやダメだな。珍しい亜人が昏睡状態なんて研究者に知られたら実験動物にされかねん」


 そもそも亜人を治せる医者なんていないか。

 俺は少女をみながらこれからの事を考える。

 その時ふと、遺跡で少女の名前らしき文字を見たのを思い出した。

 

「たしか・・・アイリスだったか」


 ずっと少女と呼ぶのも不便だ。名前があるのなら彼女も名前で呼ばれたいだろう。

 俺は先ほどの記憶から引っ張り出し、彼女の名前を呟いた。


 ―――すると少女が突然起き上がった。


「!?お、おい!起きたのか!」


 俺は直ぐに声を掛けたが直ぐには返事は返って来なかった。

 言葉が通じてないか?と思った俺はどうすればいいのか分からず、仕方なくしばらく様子を見ている事にした。

 しばらくしてその少女がようやく口を開いた。

 

「コード:アイリス起動―――メインシステムオールグリーン―――データチェックを開始―――記憶データに破損あり、修復を開始します―――エラー。修復不可能。そのままシステムを実行します。武装システム、オールグリーン。アイリス起動します」


 一応ディワルド語(共通言語)の言葉だったが、言葉の意味は理解できなかった。

 突然の出来事に俺は唖然としていたが、しばらくしてず少女が再び黙ったのでもう一度声を掛けてみた。


「だ、大丈夫か・・・?」


「貴方は・・・誰、でしょうか?」


 するとどうだ。さっきとは違い、ちゃんとした反応が帰ってきた。


「あ、ああ。俺の名前は"カイト・ムーンライト"だ。遺跡の中でお前を見つけたんだが、遺跡が突然崩れ始めたから逃げる時にお前を連れて来た」


「遺、跡・・・?」


「何か覚えている事は無いか?」


「私が覚えている事ですか?データを検索します。・・・いえ今の私は何も記憶がありません」


「・・・そ、そうか」


 少々意味の分からない言葉があったが、要するにこいつは記憶がないって事だろう。

 正直できる事ならあの遺跡について色々と聞きたかったが記憶がないんじゃあ仕方ない。

 それでだ・・・これからこいつをどうするか。

 やはり、彼女を連れ出したのは俺の責任でもあるため俺が面倒を見るのがいいだろう

 家の事を色々とやってもらったり、将来的には俺の仕事のサポートをさせてもいいかもしれない。


「何か出来る事はあるか?」


「出来る事・・・ですか?」


「魔法が使えるだとか、何か得意な事があるとか」


「いえ、申し訳ありませんが私は魔法も得意な事もありません」


「そうか」


「ですが―――何かを教えていただけるのでしたら完璧に覚えられると思います」


「なるほどね。とりあえずこれからしばらくは俺がお前の面倒をみる。色々と教えてやるからその空っぽの頭にしっかり入れといてくれ」


 まぁいつかこいつにもやりたい事が出来るだろう。その時までなんとか面倒を見ますかね。


「分かりました。よろしくお願いいたします」


 そう元気よく返事をした少女は返事と同時に立ち上がった。

 立ち上がったことにより彼女の体を隠していた布がハラリと床に落ちる。


「・・・まずは服を買うか」


 彼女の裸を見て思い出したが彼女の用の服がない。

 ずっと全裸でいさせるわけにもいかないので俺が服を買ってこないといけない。


「確か女の服って色々と採寸しなきゃならないんだよな・・・アイリスこっちに来てくれ」


「はい」


 前に聞いた事のあるうろ覚えの女性知識を元に採寸を行う。

 紐状の測りを持って来て上から順番に測っていく。

 あ、別に俺が不能だから何も反応しないという訳でないぞ。しっかり女性には欲情するしそういう欲望はある。だが流石に今のこの状況ではそういう気分になれないだけだ。


 

 そんな時だ。家の玄関の扉が開く音が聞こえた。


「カイト~いるー?」


「!?」


 それが誰なのかは声で分かった。そもそもこの家の鍵を持っている時点で()()()以外ありえない。

 人の家に当たり前の様に入ってくる女に小一時間ほど説教をしてやりたいところだが、今はまずい。まず過ぎる。


「や、やばいッ!!あ、アイリス!今すぐそこの机の下に―――」


 急いでアイリスに隠れる様に指示をしようとしたが、時すでに遅かったようだ。


「な~んだ。いるじゃん、カイ、ト・・・」


 彼女の声が途切れた所で全てを察した。

 声のする方向を見ると既にこの状況を見られた所だった。


「ま、まて!これには事情があるんだ!まずは話を聞いてくれ」


「・・・このッッ!変態!!」


「おい!?ま、まて!」


―――ぐわあああああああああ!!!!


 俺の静止の声は届かず、彼女の(こぶし)が俺の顔面に襲い掛かる。

 細い腕のどこにそんな力があるんだ!?というツッコミは今更だ。

 俺は空中で少し回転ながら自分家の壁にぶち当たった。







「で、どうしたのよ、この娘」


 カノンが布をアイリスに掛けながらそんな事を聞いてきた。


「いや、その質問は殴る前にするべきだろ!?」


 俺はズキズキと痛む頬を抑えながらなんとか立ち上がり、椅子に座った。


「はぁ、こいつは遺跡で拾ったんだよ」


「拾ったって・・・誘拐したの間違いじゃないの?」


「まぁ見方を変えればそうとも言えるが・・・ただ、俺が連れ出さなきゃこいつは今頃生き埋めになっていた」


 まぁそもそも俺が遺跡に入らなきゃ遺跡が崩れる事がなかったけどな。

 正直アイリスには悪い事をしたと思っている。俺は今回、彼女の家ともいえる場所に勝手に侵入したと言ってもおかしくない。

 そういう罪悪感から、自分が彼女の面倒を見なければいけないという強い気持ちを抱いているのだろう。

 俺はカノンに事情を説明する為、遺跡での出来事を要約して話した。


「ふーん。それで、この娘はどうするのよ」


「俺が面倒をみるつもりだ」


「はぁ!?」


「こいつは記憶がないらしくてな。常識もなければ、一人で生きていく能力もない。だから・・・少なくともしばらくは誰かが面倒を見なくちゃならない」


「記憶がないって・・・でもあんたが面倒をみる必要はないんじゃない?」


「彼女の居場所を壊したのは俺だからな。俺が面倒を見るのは当然だろう」


「それは・・・そうかもしれないけど」


「まぁ孤児院とかに預けるのも考えはしたんだけど・・・」


「だけど?」


「彼女は恐らく亜人だ。それを隠して孤児院に預けたとしてもいつかバレるかもしれない。バレた後は速いぞ?直ぐに引き取り先が見つかるだろうな。研究者って肩書を持つ奴らだが」


「・・・」


 俺の説明で信用がある奴じゃないと彼女を預けられないというのが分かっただろう。

 カノンはしばらく考え込んだ後、俺を見ながら大きな溜息を吐いた。


「はぁ、分かったわ。私も少し手伝うわ」


「は?なんでだ。いいよ、お前に迷惑かける訳にはいかない」


「え?あんた何言ってんの?あんたが女の子の面倒なんて見れる訳ないでしょ?」


「?。人一人の面倒を見るくらい別に難しいとは思わないが?」


 俺だって今まで一人で生きて来たんだ。それがもう一人増えた所で変わりないと思うが・・・。


「服とかどうするのよ」


「どうするって・・・普通に買いに行けばいいだろう」


「それって女物の服屋にアンタが入って女物の可愛い服を選んで買うって事になるわよ」


 そう言われて俺はそんな自分の姿を想像する。

 そこにはキョロキョロと周囲の目線を気にしながら女性物の服を買うやべぇ奴がいた。


「・・・ま、まぁそうなるけどそれも最初の内だろう」


 大丈夫大丈夫。一回だけなら俺の精神は耐えられる、たぶん。一回で全て教えて今後は一人で買いに行かせれば問題ない・・・ハズ。


「下着は?」


「・・・さ、サイズがあってれば後は自分で・・・」


 下着も同様に最初の一回だけだ。おれ、ダイジョブ。


「・・・生理用品」


「すみません。手伝ってください」


「よろしい」


 流石にそれは無理ですね。はい。

 それに関する知識は全くのゼロだから俺では説明どころかその売り物を探すだけでも様々な苦労をするだろう。

 

「アンタねぇ、女は男よりも必要な物が遥かに多いのよ?よく覚えておきなさいよ」


「はぁ、女って色々と面倒なんだな。俺は男で良かったよ」


 今までそんな事を考えた事はなかったが、今心の底から思う。

 俺、男で良かった・・・!


「あ、もしかしてさっきは服の為に採寸しようとしてたの?」


「そうだよ。てか今更かよ」


 俺は別にヤラシイ事をしようとしてたわけじゃない。しかし殴られた。

 これをなんていうか知っているか?免罪だ、免罪!


「・・・カノンこの後って暇か?」


「まぁそうね。仕事も無いし、暇っちゃあ暇ね」


「そしたら、こいつと街をブラついてきて常識とかその他色々と教えてやってくれないか?」


「別にいいけど、まさかカイト。あんた全部あたしに押し付けようとしてるんじゃないでしょうね?」


「ちげぇよ。せっかくお前が手伝ってくれるんだ。ここは分担して効率よくやった方が良いだろう?」


 俺はテーブルに並べてある遺跡から持ち帰った物の一つである黒い球を手に取った。


「俺はこいつの遺跡に有った物を見てもらい言ってくる」


「へぇ。もしかしてここにある物全部?」


「そうだ。こいつと一緒に遺跡から持ち出したものだ」


「って事はあの女の所に行くのね・・・」


 カノンが何やらボソッと言ったが、その事に言及する事はしない。

 発言の内容からして触れるのが怖い。ここは聞かなかった事にするのがベストだ。


「まぁそういう事なら分かったわ」


 知らん顔して黙っていると、なんとか納得してくれたようだ。


「えーっと。まずは自己紹介からね。私は"カノン・タオファム"。気軽にカノンって呼んでいいわよ」


「わかりましたカノン様。私はアイリスです」


「アイリスちゃんね。これから色々教えることになったからよろしくね」


「こちらこそよろしくお願いします」


「じゃあ私はアイリスちゃんが着る用の服を取りに一旦家に戻るわ」


 特にそんな話はしてなかったが服を貸してくれるらしい。

 やっぱりなんだかんだ言って気を使ってくれるな。これで怪力とすぐに手を出す癖さえなければ良かったんだけどな・・・。


「あいよ、それまでは待ってるよ」


 俺が返事をするとカノンは玄関に向かって行った。

 だが玄関のドアノブに手を掛けるとその場で立ち止まり、こちらの方に振り向き何故かジトッとした目を俺に向けて来た。


「・・・なんだよ


「・・・私が居ない間にアイリスちゃんに変な事するんじゃあないわよ?」


「しねぇよ!はよ行け!」


 そんなやり取りを終えた後、しばらくしてカノンがアイリス用の服を持って来た。測ってないのにサイズはぴったりだった。女ってすげぇ。

 カノンが持ってきた服を着終わると二人は街に向かった。

 

 しばらくして俺も家を出る。

 俺のカバンには遺跡から持ち帰った物が入っている。

 知りたいのはこれらが何なのか、だ。これらの売値ももちろん知りたいところだが、それ以上に用途や材質といったもっと根本的な方を知りたい。もしかしたらアイリスが()なのか、分かるまではいかなくてもその手掛かりになるかもしれない。それに遺跡の事で気になる事はいくつかある。

 だから俺は遺物の専門家である、行きつけの鑑定士の彼女の所に向かった。






 

 その日は仕事で色々とあり、帰りが遅くなってしまった。

 家に着くと明かりが点いていて、更に自分の家からおいしそうな料理の匂いもしてくる。

 ドアを開けるとアイリスが待っているのだろうな、と少し先の未来を予想しながら俺は玄関のドアを開けた。

 すると案の定そこにはアイリスが俺の帰りを待っていた。

 俺がアイリスと出会って"三ヶ月"。正直色々とあった。主にアイリスへの教育の事でだが、まぁなんだかんだ楽しめた。

 今では家事を覚えて俺が仕事に言っている間に色々としてくれている。

 ずっと一人で暮らしていたからか、帰ったら家に待っていてくれる人が居るのは新鮮で正直悪くない。


 悪くないの、だが―――

 

「おかえりなさいカケル様。随分遅かったですね?またあの女の人の所に行っていたのですか?・・・スンスン。カケル様の体から女性の匂いを検出しました。やはりあの女性の所に行っていたのですね。・・・まぁいいです。それより夕飯の準備が出来ていますよ?私が頑張って用意しました。レシピ通り完璧に作ったので失敗はしていません。ですから全て美味しくできたと思いますが、カケル様の味覚は私とは少し違いますし、好みの問題もありますのでもしかしたら美味しくない物もあるかもしれません。ですがその時は残してもらっていいです。私が頂きますので・・・もちろんカケル様が租借した物でも大丈夫です!()()のアイリスが責任持って頂きますのでご安心を。ささ、早く家に入りましょう。夕飯が冷めてしましますよ?」


 ・・・どうしてこうなった。




元々全話書き終わってから投稿する予定でしたが、一話目がなんか切りよくが終わったので試しに投稿しました。ですのでもしかしたら一度消して、もう一度投稿するかもしれないです。その時はまたよろしくお願いいたします。

誤字報告などありましたら気軽に教えていただけると嬉しいです。

またもしよろしければ感想などを頂けると今後の執筆に励みになりますのでよろしくお願いいたします。

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