咲魂早姫の謎を紐解いて 前編
前半部分は姉との会話です。
後半部分で咲魂さんと対話しますが…。
3月15日の5時。目が覚めた僕は、1階に降りた。すると姉さんがいた。
「おはよー。ちょっと肌寒いよねぇ。」姉さんはちょっと震えながら言った。
「温度は…15℃です。まぁ…寒いね。…ところで姉さん、全然関係ないんですけど、水に慣れました?」
「いや、全然?水って、プールとかの方だよね?」
「はい。」
「どーもね、水は慣れない。今は背が高いほうだけど、プールとかの水に入ったら多分動けないと
思う。ほんとに水はやだ!」
姉さんはプール…というか姉さん自身、水に浸かることが大っ嫌い。まだ風呂は大丈夫らしいけど、
プールとなると、一気に怯えだす。小中高大学で、1回もプールの授業を受けた日が無い。昔、水に
慣れるため、父さんと、僕と、姉さんとでプールに行ったが、姉さんは拒絶反応を起こした。まぁ、
僕の手をぎゅっと握ってなら入ることはできたが、それでもダメらしく、ものの数秒であがった。
「水に浸かるのは嫌い。遙申に支えてもらおうが、浅かろうが、絶対に入らない。」
「なんでそこまで嫌いなんですか…?」
「………。」姉さんは黙った。なんか禁忌に降れてしまったか…?
「姉さん…?」
「…、昔母さんに水で殺されかけたんだよ。…遙申はまだ産まれてなかったから知らないと思うけど、
冬の寒いときに、冷たい水に顔を浸けられて、呼吸できなくなったもん。」
ぞわっとした。…母さんが姉さんを虐待していたのは知っていたが、そこまでとは…。
「冷たいから体温も奪われていくし、身動きが全然取れなかった。だから、その時は死を覚悟してたよ。
…まぁ。父さんが気づいて助けてくれたからなんとかなったけど、助けてくれなかったら間違いなく
死んでた…。」
「…なんか聞いちゃいけなかった気がする。」
「大丈夫だよ。ちょっと気が楽になったし、いずれは話さないといけないと思っていたし。」
……あえて何も言わなかったけど、姉さんの目には涙を浮かべていた。思い出すだけでもつらかったと
思うのに、それを聞いて話させちゃったのがなんとも…。
そんな気持ちを抱えて、警察署のほうに出勤した。
「おはようございます中月先輩。」咲魂早姫さんが深々と礼をする。
「おはようございます。…咲魂さんいきなりなんですけど、なんで警察になろうと?」
「…普通の人で居たいからです。」
え?
「姫魂電力のご令嬢なんて呼ばれていますが、ご令嬢という肩書きに支配されるのは嫌でして。確かに
ちょっとは気品が高いとか、ご令嬢だって思われるのは嬉しいですが、ご令嬢は何もできないなんて
思われたくないんです。…無意味なプライドですけどね。」
「無意味なプライド…。」
「あ、警察になろうと思ったのもちゃんと理由がありますよ。私の父親はですね、元は警察でした。
まぁ、私が産まれる前に辞めたらしいんで、聞いただけになるんですけど、推理力が高くて、父親の
発言に救われた警官も多いようでして…、そんな人になってみたいと思ったからです。」
「そうだったんですね…。…普段家で何されているんですか?」
「それ聞いちゃいます?私の素性を探るのは正直お薦めできませんけど…。」
姉さんが言っていた通り、素性を探るのは厳しそうだ…。
「それでも、班員の情報は知っておきたいと思いまして…。」
「…小遙さんに吹き込まれました?」
「え…?」
「小遙さんも同じように私を調べようとしてましたが、結局は断念してました。けっこう命がけです。
父親の考えで、私の情報は基本的に公表しないようにされていましたから…。」
「やっぱり…ダメなんですか…。」
「どうしても知りたいんですね……。分かりました、条件をつけますか。」
「じょ、条件とは…?」
「小遙さんを全力で護ることです。」
…?!
「命に代えてとまでは言いません。3日間護ってみてください。」
……結構つらい条件だった。護ってきたつもりだったが、実際には負傷しているし、目の前にいたのに
護れなかったこともある。…でもそんなこと言ってられない。どのみち姉さんは護らないといけない。
12時。いつもより姉さんの無事を祈っていた。まぁ…さすがに何もないとは思うけど…ね?
「中月先輩、なんかものすごく悩んでません?」隣の席の月輪希々さんが言った。
「え?あぁ…姉さんが心配でして…。」
「姉想いなんですね。」月輪さんが微笑む。
「姉想いというか…当たり前というか…。でも心配というだけで行動ができてないのが…。」
「そうですか?行動できていると思いますよ?」咲魂さんがそういった。
咲魂さんの情報を知りたいってのもあるけど、やっぱ姉さんを護りたいってのは本当だから…。