ちょっとした休息 前編
3月14日の朝。
「遙申、ちょっと起きて…。」小遙姉さんに起こされた。
「どうしたんです…?」
「右手が痛い。昨日よりも…。」
ちゃんと起きて右手を確認してみると、昨日より痣が酷くなっていた。
「これ、骨折しちゃったんじゃないですか?…ちょっと触りますね…?」
「いたたた。」すぐ手を放した。
「ん~やっぱ骨折な気がしますから、病院行きましょ…?」
「…もう 病院に世話にならないって決めたのにぃぃ…。」
まぁ、今年入ってこれが3回目にあたるのかな…?でもこれは診てもらったほうがいい。
というわけで、姉さんを病院に連れて行った結果、案の定骨折だった。まぁ、至近距離で大男の蹴りを
片手で受け止めたらそうなるよね…。
「利き手じゃなくても使えないって不便なんだよねー。」姉さんは左利きだから、文字とかは書けるが、
それでも両手を使わないと不便だ。
「…姉さんがそうなったのは僕が…」口をふさがれた。
「自分が対処しなかったからなんて思わないでよ?遙申はするべきことはちゃんとしたんだから。
安心してよ。」
でも昨日、どこか悲しそうな表情をしていたからなぁ…。
「姉さんはそれでいいんですか?警察なのに動けなかった僕を見ていて、叱ろうとしないんですか?
姉さんの気遣いはありがたいんですが、さすがにこれは叱らないとでしょ…?」
「遙申、あの時動けなかったのは自分が撃たれる可能性があるから怯えていたんじゃないんでしょ?
…誰かに被弾することを怯えていたんじゃないかな。……思い出させるようで悪いけど、私が撃たれた
時の光景を思い出しちゃったんだと思う。」
的確。すんげー的確。
「まぁ…そんなところです…。」
「だったら、私は叱れないし他人に叱られる必要もない、と言うか私が叱らせない。だって遙申は
トラウマが蘇って動けなったんだから。そんな状況の人を叱るとか、頭おかしいよ。」
姉さんは骨折している。僕がトラウマで動けなかった代わりに動いて、負傷したけどこうやって
暖かい表情で言ってくれている。だったら、それに応えなければならない。だから…
「ありがと。」
そう言った。
さすがにこの状態の姉さんを放っておけないので、今日は自宅待機にさせてもらった。
「めちゃめちゃ痛い。あの大男馬鹿力すぎない?」
「ですね…。手錠も壊してましたし…。下手したら留置所の鉄柵も破ってしまいそうですね。」
「ほんっと連行中に解かれなくて良かった~。けっこう油断してたから、外されてたら
間違いなく死んじゃってたよ…。」
冗談抜きでその時に解かれなくて良かったと思った。
「んもう遙申…、そんな顔しないの。ちゃんと生きてるから!目の前で遙申の姉の中月小遙は
生きているから!」
「めちゃめちゃなだめますね…。ちょっと笑っちゃいそうだった。」
「まぁね。私も遙申と一緒にいる以上、遙申の不安とか恐怖を取り除いてあげたいからね。…あ、
全然関係ないけど、助手さんたちはどんな感じ?」
「えーっとですね、今は月輪さんに着眼点を置いていますね…。昨日の件で。」
「そっか、組織にバレちゃってるからか。…希々さん、本来は良い人だからね…。」
「ですね。青海さんはいつも通り真面目な方ですよ。あと情報取集が早いです。」
「影木さんはすごいよねぇ。私が濡れ衣を着せられそうになった時に、めちゃめちゃ
助けてもらったもん。」
「咲魂さんは詳しいことは分かりませんけど、姫魂電力のご令嬢で、あとは他人のために
気遣いがちゃんとできる人ですね。礼儀正しいですし。……姉さん、咲魂さんが姫魂電力のご令嬢って
知ってました?」
「知ってたよ~。早姫さんは気品が高い人だよね~。ってか、この家の電気も姫魂電力の
やつだよ?」
「ふぇ?!まじで?!驚きですわ…。」
「ふふっ…。早姫さんの詳細分かったら聞かせてよ。」
「え?中学3年の頃からの仲なんじゃないですか?」すると姉さんは真顔になった。
「そうだけど、全然素性を探れなかった。命がけだよー早姫さんの詳細を知るのは。」
まぁ、ご令嬢で使用人なら素性を出さないだろうし…。けど気になってしまうなぁ。
「唯一聞けたのが、その姫魂電力のご令嬢だってことだよー。」
「姉さんでも調べられないなら、僕はもう無理ですね。」
「そう?意外とボロを出して聞けるかもしんないよ?私も隙を狙ってたけど全然隙がなかったけどね。
あ、これから1年は過ごすだろうから、すんなり打ち明けてくれるかもしれないけど。」
空き時間を見つけて是非調べてみたいものだ。