無意味な殺人 後編
結局進展がないまま日付が変わった。犯人は銃を今でも所持していると思われるので、さっさと
捕まえないと、被害が増しそうだ…。
「さて…どうしましょうかね…。全然犯人の当てがないですね…。」月輪希々さんが
困った顔で言う。
「犯人は腕利きのようですから、もしかしたら暗殺者なのかもしれませんね…。」咲魂早姫さんが
そう言う。…暗殺者と言えば、月輪さんは元暗殺者だ。もし犯人の狙いが月輪さんでもおかしくない
はずだ。
「当てが無いってのがつらいですね…。車のナンバープレートも映ってませんでしたし、顔も全然
見えなかったですし…。」珍しく青海影木さんが悩んでいる。珍しいかどうかは
置いておいて、確かに全然情報が無い。
と、そこに窮地から救うような情報が入ってきた。
「あ、中月さん。玄関に中月さんのお姉さんがいたよ。…なんか結束バンドで手首を
縛られた男性もいたけど。」伝えに来たのは南斉さんだった。
…姉さん、痴漢でもされたのかな。姉さんが結束バンドで縛るほどなんだし…。
ということで、全員で移動して、僕らが見た光景は異様だった。
身長が170㎝ぐらいの男が姉さんに捕らえられていた。
「あ、遙申。こいつ銃持ってます撃たれました避けました捕まえました。」
「…???!情報量が多いよ…!えっと、撃ってきたから捕まえたんだね…?ってことは…?」
「ニュースで見たけど、たぶん昨日起きた殺人事件の犯人だと思うよ。…ほら暴れない。」
青海さんは唖然としていて、咲魂さんはなんか嬉しそうだった。…あれ月輪さんの姿が見えない…?
まさか…ねぇ…?
「放せよオラァ!!」背は姉さんより低いが体格は良いほうだ。それなのに姉さんに束縛されて身動きが
とれていなかった。姉さん凄い。
「だまらっしゃい。角でいきなり銃を向けてきたのが悪いんでしょーが。……よくそれができたね?」
姉さんは暗黒微笑を浮かべていた。かっこいい。
「とりあえず姉さん、そいつ渡してください。」渡してもらい、今度はちゃんと手錠をかけ、身体検査を
強制的に行ってみたところ、拳銃がでてきた。
「あ、弾が入っていますね…。誤爆したら危ないところでしたね。」
「一応聞きますが、一連の事件あなたがやったんですか?」
「あぁそうだよ!こうしたら、アイツが動くと思っていたんだよ!」
「アイツ…?」
「とぼけるな!月輪のことだよ!」場が凍り付いたような気がした。組織にバレていたってことか…?
「…バレていたんだ…。バレてないと思っていたになぁ。」
隠れていた(と思われる)月輪さんが出てきた。月輪さんの目は普段の穏やかな目ではなかった。
玄武課長の時と同じような…殺意の目だった…。
「けっ、暗殺者だから警察になっているとは思わなかったが、まさかなっていたとはなぁ?お前なんか
簡単に殺せるんだよ!」
…月輪さんを動かすためだけに2人も殺害したのかな…。相当許せないよ、これ。
「……泣いてばかりだった昔の私とは違う。今なら対抗できる…!」
「お前がそういう気ならいいさ。…さっさと死んでもらおうかね?」
次の瞬間、手首についていた結束バンドと手錠を瞬時に壊した。結束バンドならまだしも、手錠まで
壊すって何者だよ?!
そしてもう1つ驚いたのが、腰から2本目の拳銃を取り出した。なんという不覚…。さっきのより
けっこう薄いタイプの拳銃だったため、気付きにくかった…。
月輪さんはただ突っ立っているだけだった。…もしかして投げナイフを今持っていないとか…?
…最悪の場合、没収したこの銃で撃つしかないな…。とか思っていたら、この男は発砲準備をした。
そろそろ、こちらも撃てるように準備しておこうと思ったが、姉さんの姿が見えない…。どこ行った?
そんなことをしていると、男がトリガー部分に手をかけ撃とうとしたので、僕も発砲準備をした瞬間、
天井にあるハッチが開き、姉さんが降りてきた。
さすがにこの男も驚いたようで、トリガーから手を離した。僕はその隙を狙って銃をとりあげた。
「なっ…?!」
「そもそもね、警察に向かって銃を向けること自体間違っているのよ。もう彼女は暗殺者じゃない。
立派な警察官なんだ。だから、おとなしくしてなよ。」
姉さんが説教するという光景はめちゃめちゃ意外だった。まぁ、姉さん教員だから学校で説教することも
あるだろうけど、僕に対して説教することはあまりなかったから、そう感じてしまう…。
「…うるせぇ!」まだ男は反抗し、姉さんに蹴りを入れようとしたが、受け止められ逆に蹴りを
入れられた。…こう見ると姉さん何者ですか。
そのまま男は姉さんが持っている護身用のスタンガンを撃たれ、応援に駆け付けた警官に
逮捕された。
「…ちょっと負傷しちゃったなぁ。」姉さんの右手に痣ができていた。蹴りを受け止めた時に
負傷したのだろう。
「痛いですか?」
「痛い。」
「小遙さん、だいぶ無茶してましたね…。」早姫さんが心配そうに声をかける。
…ってか今気づいたけど、姉さんの腰から若干出血してるじゃん…?!
「姉さん!腰から出血してますよ!」
「あぁ…、一応止血したと思ったんだけどね、さっき結構動いたからまた出だしたんだと思う。」
「これ、いつ怪我したんですか?」
「…銃弾避けたって言ったけど、腰に掠めちゃってね…。」
どうやら、2メートル以内の至近距離だったそうなので、完全に避けることはできなかったのだろう。
それでも掠めただけに留める姉さんも凄いけど…。
「……なんか今回、何もできなかったです。姉さんに全部助けてもらって…。」
「大丈夫だよ。ちゃんと隙を作ったとき行動できてたじゃん。凄いよ。」
姉さんは目を細めて笑った。……でもどこか悲しそうだった。全部、僕にしてほしかったのかな…。
その後、姉さんは家に帰っていった。僕は捜査一課のほうへ戻っていった。
「月輪さん、この後ってどうするんですか…?組織にバレていましたし、相当危険なのでは…?」
「…はい。もちろん、警察になったときから危険だとは感じていましたが、こうなってしまった以上、
迷惑をかけないように、………警察を辞めるか、自決するか殺されるかの3択…実質1択ですね。」
…やっぱりそうなってしまうのか…。
「何とかできないんですかね?」
「……今、月輪さんが危険な状態に置かれていて、自決する方がましというのは重々承知なのですが…
やっぱ月輪さんには生きていてほしいです…。」咲魂さんが言いたいことを代弁してくれた。
「まぁ私も簡単に自決する気はないですが……、もしそういう状況になったら、私のこと覚えてて
ほしいですね。暗殺者としてでなく、警察官としての月輪希々がいたということを…。」
重かった。発言がいつもより重かった。……でも自決する気はない。これからも頑張れる分は頑張って
いくということだろう。なら、僕らはそれに応えてあげないといけない。