停電に起きた悲劇 前編
2022年 3月4日
姉さんが引き起こした事件から早4年が経った。あの事件後、姉さんは大きく変わり、僕に対して
悩みをだいぶ打ち明けてくれるようになった。それだけでも嬉しいのに、何かしら事件があった際は、一緒に考察してくれて、難事件になりかけた事件を解決まで導いてくれた。IQ幾つだろ…。
もう1つあったことと言えば、やっと4年間の警察署長代理が終わったということだ。今年から普通の警官になる。自分でも言うのもおかしいが、警官を動かす権力はあるほう。使わないけど。
家でデスクワークをしていて、気付くと12時が来そうだった。なので、下に降りて昼食を作ろうと
したら、すでに姉さんが作っている途中だった。
「デスクワークで疲れたんじゃないかと思って、先に準備しておいたよ。私にしては気が利くよね。
私にしては。」
そこを強調するんじゃない。この謙虚な彼女こそ僕の姉である小遙姉さんだ。可愛い上に
高身長で高スペックで妻と言っていいぐらいの姉さんだ。高身長になったのは、とある事案以来だが、低かった姉さんも高い姉さんも好き。いわゆる“シスコン”っていう部類だ。
「姉さん優秀~…って言ったらなんか偉そうだからやめといて、普通にありがと!」
「別に遙申偉いのに~。でも、感謝されるのは私もうれしいよ!ありがと!」
“ありがとう”の“う”を発音しないのは、やっぱり姉弟だからなのだろうか。
昼食を食べ終わった後、居間で事件の資料を見ていた。
「ん、また難事件?」姉さんがそう言った。
「はい…。まぁた事件が増えてきてましてね…。しかも人が死ぬような事件ばっかり。」
「真紅に染まった現場ばっかりなのかな?」
表現の仕方がえげつないけど、間違っちゃいない。間違っちゃいないんだけど…、姉さんみたいな
いい人が言うと、どうしても違和感が生じる…。
「その顔だと、私みたいな人が言うと意外って思ってるね?」
「心読まないでください…図星です。」
「20年以上いるからなんとなく分かっちゃうんだよね。で、どんな事件か教えてよ?」
…本来は聞き込み以外で警察官じゃない人に詳細を教えるのはダメなんだけど、姉さんなら分かりそうだし教えてもいいか…ってか艦艇警察署の人が姉さんのことを認めるほどだからいいよね。
藍丸市郊外の福水邸にて殺人事件が起きた。被害者は、福水凛之助さん48歳。大手企業である福水グループの社長・福水近之助の弟である。死因は腹部を何かしらの鋭利なもので刺されたことによる刺殺。
被害者は死亡する前、福水邸の別館にある大広間にて、親族とパーティーを行っていた。そのパーティーは3月2日の22時から3日の1時まで行う予定だったが、0時15分頃死体となった被害者が発見されたため、中断。当時現場にいたのは、5人。厨房にいた人や、大広間にいない人を含めれば8人だった。大広間にいた人は1つのテーブルの周りに固まっていて、そこに被害者もいたが、停電が突如起きて、あたふたしているなか、誰かがゴソゴソとケースをいじる音がしたあと、走る音も聞こえたそう。そのあとが止むとブシュッという奇妙な音…たぶん被害者の命を奪った音が聞こえた。
そして停電が復旧したのは、奇妙な音が聞こえた約30秒後。復旧と同時に死体も発見された。
前述のとおり、大広間にいた人間はテーブル周辺に固まっていて、停電復旧後も固まっていた。だから、大広間にいた人間の誰かが、停電に応じて被害者を刺したのかと思ったが、被害者はうつ伏せの状態だった。立って刺されて転んだような音もない上、血の飛び散りようも被害者の真下だけだったため、下から刺された=大広間にいた人間はできないという説が浮上した。
姉さんは資料と僕の話を見聞きすると、こう言った。
「いくつか聞いていい?床下から刺された可能性があるって言ったけど、床下に入れるところがある?」
「厨房の隣が個室でして…、そこから床下に行けるそうです。」
「あるのね。えーっと、別館は停電起きたってあるけど、本館は?」
「本館には被害者の兄の近之助さんがいましたが、停電は起きてなかったそうです。」
「じゃあ、停電が起きたのは別館限定で決まり。厨房に誰かいたの?」
「えぇ、料理担当の後堂依月さんがいます。」
「私的には後堂さんが犯人かなって。」
「警察でもその見解です。あとは証拠と動機と理論を立てないと…。後堂さんの動機が全然
分かんないんですよ。」
「死体の近くのテーブルあるね。で、この裏にナイフが貼ってあったと。しかも夜光塗料付で。」
…面白いことに被害者暗視ゴーグル着用してるじゃん。…そういや、被害者の真上の天井って見た?」
「見ました。夜光塗料塗ってありました。しかも1ヶ所じゃなくて、壁際のテーブルの周りに。」
「…、犯人は殺意があるとみて間違いない…。ちなみに停電って、エアコンとかが原因?」
「えぇ…、物置にコンセントに刺さって“強”のボタンが押された扇風機が4台。あと0時15分起動
予定のエアコンも4台。」
「停電はそれで仕組んだのね。じゃあ気になるのは被害者が被ってた暗視ゴーグルはなんだろう。」
そう、それも問題なのだ。
「暗視ゴーグル…ナイフ…。そういうことか。遙申は分かった?」
「えーっと…わかんないですよ…。」
「そっか…とりあえず、厨房に無かったものとかある?」
「アイスピック1本無いとか。たぶんそれが凶器だと思います。」
例の厨房にはアイスピックが4本あったのだが、3本しかない。それこそ凶器であると考えたから捜索を行っている。
「見つかるといいね。…んで、アイスピックが凶器、そして犯人が後堂さんという仮定で行くよ?
まず、停電が起きた後、明かりとなるものとアイスピックを持って個室まで行く。そこから床下に行って、微かに見える天井の夜光塗料を目印にテーブル付近までに行ったはずだよ。いくら小さな隙間だとは言えど、何ヶ所も付いていたら分かる。犯人はそこまでたどり着いてかがんで待ってたんじゃないかな。夜光塗料が消える場所を見て、それを見た瞬間刺したんだろうね。で、返り血は何らかのもので防いだんじゃないかな。」
「あ、なんか血が着いた布ありましたね…。ですが、被害者がうつ伏せになった理由って?」
「遙申、被害者は暗視ゴーグルをしていた。つまり……………。」
聞いてみると驚くような事実ばっかりだったが、なんとなく想像できそうな内容だった。
「まぁ、私の今の考えは、当の本人たちに聞いてみないと分からないところもあるから、聞いてね。」
そういうと姉さんは目を閉じ、少し経った後にこう言った。
「少しは役に立てたかな?」
「そりゃもちろん。」
「そっか。役に立てたならよかったよ。あと遙申。先に犯人が誰かという前提で進めていくと、抜け出せなくなってしまう。だから、先入観も大事だけど切り替えることも大事だよ…?」
いっつも言われている。いっつも言われているのに、何故かと不思議だった。
翌日、福水邸にいた人を集めて真相を解き明かしたい。ただ、姉さんも言ったが、あくまで姉さんの推測。もし違っていたら………いや姉さんを信じてあげないと…。それが僕にできる役目だ。
投稿時間:20時
前編投稿日:月曜日
後編投稿日:木曜日