98.エリアノーラとサラ (4回目) 2
サ:「あの時、エドガー陛下は、無理矢理王女様をご自分の部屋に連れて行きましたわ。エドガー陛下は、マリアンヌ様が亡くなられてすぐに王女様の部屋に走って行ったらしいですわ。正常な判断力を失っていたエドガー陛下は、王女様の放つ魔力を『敵』としたのかも知れません。」
エ:「呪詛は、相手の魔力を拘束し、強く恨む必要があるわ。」
サ:「王女様が、生きるために必死で不快感を伝えようとしていた魔力を、エドガー陛下は、マリアンヌ様と王子様が亡くなったのは王女様のせいだと思われて呪詛をかけたのだとしたら、悲しいことです。魔力にご自身の意志を乗せることが出来る素晴らしい魔力が逆に悲しい結果を招いてしまったとしたのなら。」
エ:「王女様を王子様としたのは、恨む一方で王女様の魔力が王位を継承するにふさわしい五星と認めていたからだと思いますわ。何れにしても、ご自身のお子に呪詛などとあってはならないことですが。」
サ:「はい。本当は、フィオナ王女殿下にお伝えしたくなかったですわ。フィオナ王女殿下のお気持ちを考えますと、お可哀想で。ですが、王女様は、エドガー陛下の呪詛を撃ち破るだけの魔力をお持ちになられました。国王陛下は、最初から決めていましたのよ。王女様が本当の姿を取り戻した時に真実を話すことを。ウソは逆に王女様のためにならないと。ただ、この事は公には出来ません。王女様をこれ以上傷付けたくないですわ。」
エ:「そうですわね。この事を知る者は、皆、同じ気持ちでいると思いますわ。」
サ:「そう言えば、昨日、お母上のミューラ・マ・ノーストキタ様が初等学校にいらっしゃいましたわ。『私の王女様の保健室を見に来た。』とおっしゃって、ご一緒に学校教育統括管理局と初等学校教育管理局の局長たちを連れてこられましたわ。」
エ:「えっ?母がですか?私、昨日は帰宅が遅くなってしまって、今朝もここに早く来たので母と会ってません。知らなかったですわ。」
サ:「それは、申し訳ありません。あまり寝てないのでは?ノーストキタ公爵様が体調を崩されては、たいへんですわ。」
エ:「いえ、それは大丈夫ですが、何故母が初等学校に?」
サ:「元々、改装工事の職人が初等学校に来ることにはなってましたのよ。私の改装計画書通りで工事が可能か、直すところはないか確認して、学校教育統括管理局に改装計画書を送る予定でしたわ。改装工事の職人は、昨年、フィオナ王女様の王宮のお部屋を改装した職人だったので、そのことを王妃様か誰かにお聞きになったのでしょう。王女様の編入学まで、5ヶ月しかありませんわ。管理局の局長たちをお連れになったのも、すぐに改装工事を行うためと思いますわ。」
エ:「すみません、母が強引なことをしたみたいですわね。」
サ:「『私の王女様の保健室が会議室だけでは少し狭いからついでに学長室も潰したらどうかしら。』とおっしゃってましたわ。学長も管理局の局長たちも工事職人たちも青い顔をしてましたわ。ふふっ。」
エ:「母は、やり過ぎですね。申し訳ありませんわ。」
サ:「流石に、学長室まで潰すと、三ヶ月では、工事が終わりませんわ。ミューラ様には、会議室のみで納得していただきましたわ。後は、来年、フィオナ王女様とフェリオ王子様を同じクラスにするように申されましたわ。」
エ:「初等学校の各クラス平均はほぼ同じになるように編成していることは、皆知っていますわ。フェリオ王子様とフィオナ王女様は双子の五星兄妹となってますので、五星が二人同じクラスは不可能なのではないのですか?」
サ:「ええ、各クラス平均もほぼ同じですが、各学年の縦割りクラス3-1、2-1、1-1みたいな縦の平均もほぼ同じにしてますのよ。例えば、フェリオ王子様の一つ上の学年にバードット殿下の第四王女様が…もうノーストキタ公爵様のご令嬢になられますが…いらっしゃいますが、縦割りクラスでフェリオ王子様と同じにはなられません。必ず対角クラスに配置されますわ。縦割りクラス平均もほぼ同じですのよ。なので、私も王家の王孫五星二人が同じクラスは無理と思い、同学年の四星四人のうちの誰かとではいけないのかとお聞きしましたわ。そうしたら、ミューラ様は…。」
エ:「だいたい予想がつきましたわ。ごめんなさい。母がご迷惑おかけしましたわ。」
サ:「予想通りでしょうか?王女様に万が一のことがあった時は、全員処分される覚悟で意見しろと言われてしまいましたわ。四星だろうが誰だろうが子供でも容赦しないと。
王女様と王子様が別々のクラスでは、万が一の時に対処が出来ない可能性がありますわ。
お二人が同一人物とバレる訳には参りません。王女様に悲しい思いをさせてはならないのです。
私、ミューラ様は、私よりも王女様を大切に思ってくれているのではないかと感謝したくらいですわ。
クラス平均がどうとかそんな些細なことを言っている場合ではないと思いましたわ。」
エ:「サラ教授、すみません。ありがとうございます。」
サ:「いえ、私の方がミューラ様やノーストキタ公爵様には感謝していますわ。私、その場でフェリオ王子様とフィオナ王女様の担任教師を申し出ましたわ。昨年、担任教師をして思ったより担任がたいへんで、自由が効かなかったので今年は学年主任になりましたが、間違いでしたわ。私が何よりも守らないといけないのは、王女様なのですわ。王女様に万が一のことがあれば、全て何の意味もなくなるのです。ミューラ様に言われて初めて自分の考えが甘かったと思いましたわ。」
エ:「サラ教授、ありがとうございます。フィオナ王女様をお願いいたします。」
サ:「ノーストキタ公爵。こちらこそ、フィオナ王女様とこの国をお守り下さりありがとうございます。これからも王女様をお支え下さい。よろしくお願いいたします。」
エ:「ええ、私は、王女様が成人なさるまで、この国を支えるつもりですわ。ところで、来週からは、学期末休みに入りますが、サラ教授は、学期末休みの期間中、どうされるのですか?」
サ:「王宮の魔力研究所か、高等学校の魔法医学部でいますわ。自分の研究のために色々と外出すると思いますし、まだはっきりと決めてませんわ。」
エ:「そうですか。では、お互いの時間が会うときにまたお話出来ればと思いますわ。」
エリアノーラとサラは、連絡先を交換し、お互いの仕事に戻った。




