97.エリアノーラとサラ (4回目) 1
サ:「おはようございます。ノーストキタ公爵様。」
エ:「おはようございます。サラ教授。サラ教授に今日はお願いがあります。」
サ:「私に出来ることできたら、何でもおっしゃって下さい。」
エ:「出来ることと言うか、明日の夜、会議があるのですが、先日サラ教授から頂いた資料を使ってもよろしいでしょうか?会議のメンバーは、国王陛下、イーデアル公爵様、母と私の四人ですわ。」
サ:「凄いメンバーですわね。もしかして、最近、イーデアル公爵様がよくノーストキタ公爵様のお話をしているのは、その会議と何か関係があるのですか?」
エ:「関係があるかどうかは分かりませんが、皆フィオナ王女様とこの国の将来を考えて色々と話し合ってますわ。」
サ:「ノーストキタ公爵様のお母上のミューラ様は、フィオナ王女様の後見人ですわ。ミューラ様もノーストキタ公爵様もフィオナ王女様をお支え下さり、感謝しております。資料は、その会議でお使いいただいて大丈夫です。国王陛下とイーデアル公爵様にはある程度報告していますが、まだ研究段階なのであまり詳しくは説明してません。フィオナ王女様の後見人であるミューラ様にも報告しないといけない事柄とも思ってます。よろしくお願いいたします。」
エ:「ありがとうございます。この国の将来に関係することですので、サラ教授の研究はたいへん素晴らしいと思います。ですが、やはりこの研究が国外に流れるのは、危険だと思います。フィオナ王女様とフェリオ王子様は同じ五星の双子になっていますので、まさかMRの違う双子だとは思わないと考えられますが。」
サ:「そうですわね。ただ、同じMRの双子はいますので、他国で同じような研究をしていることは考えられますわ。四星以下の魔力量を測定する器具もありますので、双子の魔力が通常よりも強いと感じている研究者もいると思いますわ。五星に関しては測定不能ですが。」
エ:「五星は、互いに魔力を測りますから。ただ、倍と半分程度の差ならお互いに分かりますが、それ以上は正確には分かりません。フィオナ王女様は、フェリオ王子様のお姿の時よりも1.2~1.3倍くらい多いでしょうか。王女様の場合、量よりも質が全然違いますので、相手に圧倒的魔力差を感じ与えますわ。王女様の魔力に触れた五星はほぼ間違いなく王女様に逆らえないと感じると思いますわ。」
サ:「それは一体どういう意味でしょうか?」
エ:「そうですわね。四星の方でも威圧する感覚は分かりますわよね。同じような感覚で、五星の場合、自分の魔力で相手の魔力を包みこみ拘束しますのよ。たいていは握手等で相手に触れます。その瞬間からお互いにお互いの魔力を包みこみ拘束しますの。相手の魔力を自分の魔力で包みこむことが出来たら、勝ちですわ。後は、ぎゅうぎゅう締め付けるのですが、そこまで強くは拘束しません。魔力を包み込んだ時点で勝敗はついてますので。握手等で相手に触れなくても魔力拘束は可能ですが、その場合、魔力が周りに漏れるので、側にいる関係のない方々を巻き込んでしまいますわ。四星以下の者は、失神してしまいます。」
サ:「五星の方々はにこやかに握手をしているように見えて、実はお互いの魔力量を測っているのですか?」
エ:「ええ。無駄な争いをなくすための手段みたいなものですわ。他の人を巻き込むことなく、相手の力が分かりますので。続けますわね。普通の五星の魔力は、体の外側から包み込むような感覚だけなのですが、フィオナ王女様の魔力の場合、王女様の魔力が内側まで染み込んでくるような感覚になるのですわ。つまり、普通の五星の魔力のように外側から包み込まれ、さらに内側からも王女様の魔力に支配され、どう足掻いても逃げ出せないような圧倒的な魔力差を感じさせられるのですわ。そして、それは、王女様が相手を支配しようと思えば恐ろしい恐怖感を、王女様が相手を守ろうと思えば心地好い安心感と幸福感を与えるのですわ。まさに飴と鞭と言えますわ。本当に一瞬ですのよ。王女様に触れたその瞬間に恐怖の魔力で支配されてしまいますわ。そしてその後蕩けるように甘くて暖かい魔力で癒されるのですわ。五星は、男女を問わず王女様にメロメロになりますわ。」
サ:「ええっ?本当にそんな魔力が存在するのですか?初めて聞きますわ。」
エ:「皆、あんな魔力は初めてと言ってますわ。これも、王女様が男女の双子だったことや、父親のエドガー陛下の魔力干渉の影響なのでしょうか?サラ教授は、どう思われますか?」
サ:「魔力干渉の影響かどうかは分からないですが、一つ気になることがありますわ。」
エ:「何ですか?」
サ:「王女様が生まれた時の事ですわ。産まれたばかりの王女様は、恐ろしく不快な魔力を放っていました。」
エ:「ええ、国王陛下とイーデアル公爵様から聞きましたわ。」
サ:「そうですか。王女様は、予定よりも2ヶ月近く早くお生まれになりました。呼吸さえままならず、生きるために必死で魔力を放ちご自身を守っておられました。赤子は、泣くことで己の不快感を伝えます。お腹が空いたら泣く。オムツが濡れたら泣く。自分で何も出来ないうちは、泣いて不快感をアピールするのです。ですが、王女様は生まれた時、呼吸をするのがやっとで泣くことがほとんど出来ない状態でした。ですので、恐らく魔力によって不快であるというご自身の意志を伝えようとしていたのではないでしょうか。胎児の頃からの父親の魔力干渉と異なる性別とMRの双子の魔力によるコミュニケーション、五星の魔力量と質。もしかすると王女様は、ご自分の魔力にご自身の感情を乗せることが出来るのではないかと考えられます。」
エ:「私も、サラ教授のおっしゃる通り、王女様の魔力は、ご自身の感情が乗っていると思いますわ。王女様が生まれた時のことも、私も母親なので分かりますわ。赤子は泣いて不快感を伝えますわ。お腹がいっぱいになったり、オムツを替えると満足して泣き止みますわ。泣くことの出来なかった王女様は、魔力でご自身の感情を伝えようとしていたのですわね。」
サ:「あの時、エドガー陛下は、無理矢理王女様をご自分の部屋に連れて行きましたわ。エドガー陛下は、マリアンヌ様が亡くなられてすぐに王女様の部屋に走って行ったらしいですわ。正常な判断力を失っていたエドガー陛下は、王女様の放つ魔力を『敵』としたのかも知れません。」




