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【閑話:4】96.ワトソン夫婦の失態

ドジル:「はぁ~~~。」


サラ:「あなた、今日はどうしたの?ため息なんて。」


ド:「ああ、今日、初めてフィオナ王女殿下にお会いした。」


サ:「本当?いいわね。私は、まだフィオナ王女殿下にお会いしたことないわ。殿下はどのような方だったの?」


ド:「兄のフェリオ王子殿下とよく似たお顔立ちをしていた。今日、剣術の道場にいらっしゃって、オレが稽古のお相手をした。お体の弱い王女様とお聞きしていたが、とても元気になられたようで、素晴らしい剣術の腕前だった。女児であられるので、フェリオ王子殿下よりも少し力は弱かったが、あの年齢の女児にしては相当筋力がおありになると思った。

笑ったお顔は、可愛らしくマリアンヌ様に似ていると思ったが、真剣なお顔は、凛々しく、オレ達のエドガー陛下にそっくりだった。」


サ:「あなた、ちゃんと手加減した?元気になられたといっても最近までご静養されていたのよ。無理をなさってお倒れになったらたいへんよ。」


ド:「うっ、いや、そのだな。軽く打ち合っていたのだが、王女殿下が思ったより上手で力強かったので、ついつい殿下の実力をみたくなってしまって力が入ってしまった。」


サ:「ちょっと、何てことしたのよ。まさか、あなた、王女殿下に容赦なく打ち込んだりしてないでしょうね?」


ド:「オレの方が王女殿下に容赦なく打ち込まれた。」


サ:「えっ?王女殿下は、フェリオ王子殿下より力が弱かったのではなかったの?」


ド:「『剣が重いから少しだけ魔力強化してもいいか』と聞かれたから『好きなだけ強化していい』と言ったら、本当にお好きなだけ強化された。魔力強化は、諸刃の剣だ。普通は好きなだけ強化なんて出来ないんだ。強化は己の剣技に合わせないといけない。単に筋力だけを強化すれば、体が重く感じるが、力を入れて剣を振ればスピードが上がる。突然スピードが上がっても対処できなくて隙が出来る。その間にやられてしまう。それを防ぐためには筋力と同じだけ剣にも魔力を乗せる必要がある。打ち合い中に魔力強化はよほど魔力調整と剣技に自信がなければ出来ないことだ。三星以下の魔力量では、すぐ魔力切れになってしまう。魔力切れになっても相手にやられてしまう。魔力強化は、難しいんだ。ところが、フィオナ王女殿下は涼しいお顔で簡単に魔力強化された。王女殿下の剣は、どんどん重くなり、スピードも上がり、オレは殿下の剣を受けるだけで精一杯になった。反撃の隙を探したが、全く隙なんてなかった。元々かなりの実力があると思える。一朝一夕などではない。ご本人が幼い頃より技術を磨いてきたとおっしゃったが、本当にその通りだと思った。殿下は、わざとオレより少しだけ上の筋力まで強化して降参しろと言った。オレは、これ程魔力強化出来る方と打ち合ったことがなかったから、降参を断り隙を探した。殿下は、さらに魔力強化され、打ち込んできた。オレは、反撃どころか受けることも出来ないほど打ち込まれて降参した。」


サ:「…(フィオナ王女様、やり過ぎです。これでは、ドジルや周りの者たちにフェリオ王子様と同一人物とバレてしまいますわよ。王女様は、お体の弱い王女様設定ですわ。)…。」


ド:「オレは、王女殿下に剣術を指南されたお方に是非お会いしたい。殿下の剣技も魔力強化も素晴らしかった。魔力強化に関しては、流石五星のお方だと言うしかない。三星のオレには出来ないことだ。そして、その強化に負けないほどの素晴らしい剣技。完璧だった。殿下にその二つを指南した方は、相当の凄腕の持ち主だ。オレもその方の技術を学びたいと思った。おそらくイーデアル公爵家にお仕えする方だろうが、その方のことを殿下にお聞きしていたら、クロエが割り込んできた。お前も知っているだろう。イットー伯父上のところのクロエだ。オレのいとこ姪の。」


サ:「(ナイスよ。クロエちゃん。幼い頃の王女様の剣術指南役は、フェリオ王子様の剣術指南役のドジルあなたよ。なんて言えるわけないわ。ってか、気付きなさいよ。鈍いわね。でも、あなたが鈍くてよかったわ。)ええ、クロエちゃんは、確か、フィオナ王女殿下の護衛と剣術の指南役を兼任されているのよね。流石イットー侯爵家分家の道場を継ぐ予定の方ね。」


ド:「あいつ、『フィオナ王女殿下は疲れているからこれ以上稽古されては倒れる。』と言ったんだ。周りの奴らはきょとんとした。当然オレもだ。疲れてハアハアと息を乱していたのは、オレの方だ。殿下は、お疲れどころか汗一つかかずに涼しいお顔で軽く剣を振った程度にしか思われていなかった。オレに『好きなだけ強化していいなんて言うからだ。これでは剣術の稽古ではなく魔力の稽古だ。』とおっしゃった。オレの完敗だ。なのにあいつは全く殿下のことを見ていなかったのか、そんな馬鹿げたことを言った。あいつは、殿下の護衛失格だと思ってオレはあいつに説教をした。」


サ:「…(ちょっと、クロエちゃん。もっと上手く誤魔化しなさいよ。そうね、例えば…。ううっ、誤魔化しようがないわ。魔力強化は五星だからといっても剣技は無理よね。ドジルにそれだけ打ち込んで汗一つかかずに涼しいお顔だなんて、相当鍛えて体力があると思われても仕方ないわ。フィオナ王女様のやり過ぎよ。慌ててとっさに体の弱い王女様設定を言うしかなかったのね。その結果が説教なんて同情するわ。)…」


ド:「そこからがオレの失態だ。クロエはいとこ姪だが、オレにとってクロエは生まれた頃から知る妹のような存在だ。オレはついクロエの説教に感情的になってしまい、オレもクロエもフィオナ王女殿下がいつの間にかいなくなったことに気付かなかった。護衛する王女殿下を見失うなんて、クロエは護衛失格だ。クロエは慌てて殿下を探しに行った。でもそれはオレのせいでもある。オレも殿下を探したが、オレは結局殿下を見つけることが出来なかった。」


サ:「クロエちゃんは、フィオナ王女殿下を見つけることが出来たの?」


ド:「ああ。あの後、オレはクロエに会ってないが、昨日1日クロエはちゃんとフィオナ王女殿下を護衛したことになっていた。クロエはすぐに殿下を見つけることが出来たのだろう。だが、僅かな時間でも殿下を見失うなんてあってはならない。オレもクロエもまだまだ鍛練が足りない。あんな失態は二度と犯してはならない。」


サ:「そう。たいへんだったわね、あなたもクロエちゃんも。失態と言えば、私もよ。今日、フィオナ王女殿下の後見人ミューラ・マ・ノーストキタ様が初等学校にいらしたのよ。」


ド:「えっ?ミューラ様がどうして初等学校にいらしたのだ?」


サ:「もちろん、フィオナ王女殿下のためよ。来春編入学されるフィオナ王女殿下がお使いになられる予定の保健室を見に来られたのよ。学校教育統括管理局と、初等学校教育管理局の局長と副局長、改装工事の専門家をお連れになってね。」


ド:「ああ、お前がこないだ話していた改装計画のことか?」


サ:「ええ、保健室の隣の会議室を潰して広い保健室にしようと考えていたのだけど、ミューラ様は、ついでに学長室も潰してもっと広い保健室にしてはどうかとおっしゃったわ。」


ド:「はあ?それは凄いな。でも、工事期間も短いから無理だろう?会議室だけでも十分の広さなんだろう?」


サ:「ええ、元々保健室は普通の教室の1.5倍の広さがあるのだけど、会議室も保健室と同じ広さなのよ。つまり、普通の教室の三倍の広さの保健室にしようと考えていたのだけど、ミューラ様は、学長室も潰して普通の教室の四倍の広さの保健室にしたらいいとおっしゃったわ。」


ド:「何でそんなに広い保健室が必要なんだ?」


サ:「フィオナ王女殿下の侍女と護衛の控え室にするためよ。」


ド:「ええ?オレは今日フィオナ王女殿下は、お体が弱いようには思わなかったぞ。魔力も、体力も、筋力も素晴らしく、ご健康になられたと思っていたのだが、違うのか?」


サ:「そっ、それは…。たっ、たまたまじゃないかしら?たまたま今日は体調がよかったのよ。きっと。来春編入学されるけど、フィオナ王女殿下は、授業の半分だけ出席して、残りの半分は保健室でお休みになられる予定なのよ。普通の健康な子供のように丸一日授業を受けることが出来ないのよ。そのための保健室の改装工事なのよ。」


ド:「マジか?王女殿下は、今日たまたま体調がよかっただけなのか?クロエの言うことは、本当だったのか?オレは、殿下にもクロエにも悪いことをした。殿下がお倒れにならなくてよかった。もし、そうなっていたらたいへんなことになるところだった。明日、フィオナ王女殿下にもクロエにも謝らなくては。」


サ:「まっ、まぁ、そうね。今度から気をつけたらいいと思うわ。」


ド:「ああ、次からは気をつける。ところで改装工事は、結局どうなったんだ。」


サ:「学長室まで潰すと編入学に間に合わなくなるから、最初の改装計画通りになったわ。ただ、その後が私の失態よ。」


ド:「珍しいな。お前が失態だなんて。何をしたんだ?」


サ:「ミューラ様がフェリオ王子殿下とフィオナ王女殿下を同じクラスにするようにおっしゃったのよ。」


ド:「五星の王子殿下と王女殿下を同じクラスなんて無理だろう。初等学校のクラス編成は、各クラス平均が同じになるように編成されていることは皆知っている。昔からそうだった。エドガー陛下は、初等学校時代、マリアンヌ様と一度も同じクラスにならなかった。ブツブツ文句を言っていたぞ。まぁ、毎日マリアンヌ様のクラスに通われていたがな。」


サ:「ええ、私も無理だと思ったから、ミューラ様に両殿下を同じクラスは難しいと言ったのよ。そうしたら、ミューラ様は、『フィオナ王女殿下に万が一のことがあったら、クラス全員とその保護者を処分対象にする。クラスを決定した学校側も今日来ていた管理局の局長たちも全員だと。四星だろうが、子供だろうが、容赦しない。万が一のことがあった時は全員処分されてもいいという覚悟で意見しろ。』って言われてしまったわ。

確かに、王女様に万が一の事があった時に対処出来なければたいへんな問題になるわ。クラス平均なんてそんな些細なことを言っている場合ではないのよ。一年生の時も二年生の時も何かしらのトラブルがあったわ。万が一のことにならないように必ず備えないといけないのよ。何かあってからではダメなのよ。私は、ミューラ様に謝罪して、来春両殿下の担任教師に立候補したわ。」


ド:「マジか?ミューラ様がフィオナ王女殿下を可愛がっておられるとはお聞きしていたが、それはヤバいな。もしかして、オレ、今日殿下に万が一のことがあったとしたら…。」


サ:「たぶんあの場にいた全員処分対象になっていたと思うわ。王女殿下を可愛がっているのは、ミューラ様だけではないわ。この国の成人五星ほぼ全員よ。国王陛下とイーデアル公爵様は、祖父だから当たり前として、ミューラ様、ノーストキタ公爵様に、ウエスターナル公爵様もよ。いくらあなたでも、私もだけど、王女殿下に万が一のことがあったとしたら、容赦なく処分対象となるわ。」


ド:「マジか?ウエスターナル公爵様もか?」


サ:「ウエスターナル公爵様は、皆の前で王女殿下の魔力をべた褒めし、『王女様の側でお仕えさせてください』とおっしゃったらしいわ。」


ド:「マジか?フィオナ王女殿下の魔力は、そんなに凄いのか?フェリオ王子殿下よりもか?」


サ:「ええ、いずれわかることだから言うけど、魔力に関してはフェリオ王子殿下よりも上よ。誰にも言わないでね。」


ド:「マジか?この国は、魔力が全てだ。まさか、国王陛下が王族に関する法を変え、女性にも王位継承権が持てるようにしたのはフィオナ王女殿下に王位を継…。」


サ:「待って!!いくら私達だけの間の話でも、言っていいことといけないことがあるわ。フェリオ王子殿下は、近いうちに王太孫として立たれる方よ。」


ド:「そ、そうだな。その通りだ。」


サ:「どちらの殿下も大切な王孫殿下よ。両殿下ともにお守りしないといけないわ。」


ド:「ああ。来春からお前が両殿下の担任か。クロエもそうだが、万が一のことがないように気を引き締めてお守りしないといけないな。」


サ:「ええ、私が必ずお守りする覚悟よ。」


ド:「そうか。オレもだ。オレ達の両陛下の大切な忘れ形見だからな。」

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