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95.モンスター

学長視点です。

「えっ?サラ先生、今、何とおっしゃいましたか?」


「ですから、保健室を広げるために学長室の隣の会議室を潰しますわ。会議室なんてほとんど使わないので大丈夫ですわよね。一応、確認のために報告してますが、決定事項ですわ。既に改装計画書も作りました。後は、建築専門の者に見てもらい、改善しないといけない点があれば改善し、学校教育統括管理局に提出しますわ。改装工事は三ヶ月前後で終わらせる予定ですので、急ぎますの。この書類にサインしておいて下さい。午後から建築の専門家が来ますのでよろしくお願いいたします。フィオナ王女殿下の編入学に間に合わせないといけませんので。」


「えっ?えっ?」

私は、サラ先生の言っている意味がよく分かりませんでした。何故そんなに広い保健室が必要なのか、わざわざ会議室を潰して、保健室と繋げるなんて、いくらお体の弱いフィオナ王女殿下のためとはいえそこまでしなくてもいいように思いました。

学校教育統括管理局の許可も本当に下りるのでしょうか?僅か三ヶ月の工事期間、フィオナ王女殿下がお通いになられるのも三年生の一年間のみ。ご静養中でほとんど誰ともお会いしたことのない王女殿下にVIP過ぎる対応のように思えました。

しかし、私は、反対なんて出来ません。「分かりました。」と答え、午後からくるという建築の専門家を待ちました。


………


「学長先生、たいへんです。学校の前にミューラ・マ・ノーストキタ様と学校教育統括管理局と初等学校教育管理局の方々が来ています。」


「えっ?建築の専門家が来るとは聞いていたが、ミューラ・マ・ノーストキタ様が何故ここに?」

副学長に早く対応して欲しいと言われ、私は、慌ててミューラ・マ・ノーストキタ様を出迎えに行きました。


「ミューラ・マ・ノーストキタ様、先日は、初等学校をご視察くださりありがとうございます。どうぞこちらにお越しください。」

とりあえず、先日のお礼を述べ、学長室に招く。そして、お付きの者に本日のご用件を伺う。そして、私は、今回ご訪問がある事を聞いてないと述べる。お付きの者は、よく分からないがさっさと思い通りにするために来たと言う。おそらく保健室の改装工事の事だろう。確認のため本日のご用件を直接本人にお訊ねすることにしました。


「私のフィオナ王女殿下の保健室を見にきましたのよ。私の希望通りにしていただこうと、皆を連れて来ましたわ。私の王女様の編入学まで5ヶ月しかないでしょ。直接の方が早いと判断致しましたの。」

ミューラ様は、ニコニコしながらそう言って皆を紹介してくれました。


ミューラ様がお連れになったのは、学校教育統括管理局と初等学校教育管理局の局長と副局長。先日一緒にいらっしゃった方々よりも上の方々でした。そして、昨年、フィオナ王女殿下の王宮部屋を改装した王宮建築専門家の職人頭と副頭。保健室の改装工事は王宮建築専門家が行うらしいです。


「サラ教授から改装計画書を学長に渡してあると聞いてますわ。」


「はい。こちらにあります。」


ミューラ様は、少し見ると、よくわからないと計画書を専門家に渡して、実際の改装予定の場所に行くとおっしゃいました。保健室と会議室は学長室の隣なので、私達はすぐに移動しました。


「ふ~ん。少し狭いわね。王女様の侍女と護衛の控え室が作れないわ。そうだわ。ついでに、学長室も潰したらどうかしら?少しは私の王女様の保健室が広くなるわ。」


『えっ?』

ミューラ様以外の全員顔がひきつる。

『サラ先生、お願いします。こちらに来てミューラ様を止めて下さい。会議室を潰す必要ないと思った私が間違いでした。ミューラ様は、会議室だけでなく学長室も一緒に潰すおつもりのようです。助けて下さい。』

私が心の中でそう思っていたら、サラ先生が来てくれました。副学長が機転を効かせて連れて来てくれたのです。流石、私と苦楽を共にして五年。よく分かっている男だと副学長に感謝しました。


「ミューラ・マ・ノーストキタ様、本日は、わざわざお越し頂きありがとうございます。」


「あら。サラ教授。授業は大丈夫なの?あなたの計画書、私、専門家ではないからよくわからないの。直接説明していただけると嬉しいわ。」


「はい。ミューラ様。授業は、今、午前中のみですので。」


サラ先生は、ミューラ様に説明し始めた。ミューラ様は、機嫌良さそうに聞いている。よかった。サラ先生の計画書通りなら学長室はそのままだ。ありがとうございます、サラ先生。

私がそう考えていたら、ミューラ様が口を開く。


「分かったわ。だけど、会議室だけでは少し狭いじゃない。学長室も一緒に潰した方が私の王女様の保健室が広くなっていいと思いますわ。ねぇ、そこのあなた。学長室なんかどこでもいいでしょ?私の王女様の保健室の方が大事よね。皆もそう思いますわよね?」


他の人たちも皆困り顔だ。よし。困っているのは、私だけではない。誰かミューラ様に意見してくれ。誰でもいい。誰かお願いします。ところが、皆、何も言わずに黙っている。早く、早く、誰か何か言って下さい。私の願いも虚しくミューラ様が怖くて誰も何も言えないままでした。


「ミューラ様。学長室まで潰すと少し広すぎますわ。それに工事期間も短いですので、編入学に間に合わなくなりますわ。」


ありがとうございます、サラ先生。やはり、ミューラ様に意見出来るのは、サラ先生しかいません。私は、再びサラ先生に感謝しました。


「それは困るわ。仕方ないわね。さっきのサラ教授の説明通りでお任せするわ。あなた、出来ますわよね。」


「はい。お任せください。この計画書通りに作ります。」

王宮建築専門家が答える。そして、学校教育統括管理局と初等学校教育管理局の局長たちも改装工事を許可する。



学長室に戻り、工事計画の関連書類にサインする。

ミューラ様は、見ているだけではお暇なのか、質問をし始めました。

「ねぇ、私の王女様は、来春、フェリオ王子様と同じクラスになれるのかしら?初等学校は、各クラス平均が同じになるようにしているのよね。でも、別に私の王女様とフェリオ王子様が同じクラスでも大丈夫ですわよね。誰がクラスを決めるのかしら?」


「各学年教師、学年主任教師、副学長で決めて、学長が決定致しますわ。」

サラ先生がミューラ様に答えてくれました。


「そう。では、サラ教授と、あなたとあなたね。他の学年教師は、どうでもいいわ。」

ミューラ様が、私と副学長を見る。怖い。怖すぎます。私は、出来るだけミューラ様を見ないようにして、副学長を見ました。副学長、お前が何か言ってくれ。五星二人を同じクラスに出来ませんと言うのだ。早く言え。私は、クラスを決めない。決めるのは、副学長、お前だろ。私は、決定するだけだ。早くミューラ様に出来ないとお答えするのだ。早く言え。私がそう思っていたら、サラ先生が言ってくれました。


「ミューラ様。五星二人を同じクラスにするのは、バランスが取れませんわ。フィオナ王女殿下の同じ学年に四星が四人いますので、そのうちの誰かと同じクラスではいけませんか?」


ありがとうございます。サラ先生。その通りです。五星二人を同じクラスには出来ません。副学長、お前、使えない男だな。そんなことでは、お前は一生副学長のままで出世出来ないぞ。何故お前が言わなかったのだ。そう思い副学長を睨もうと、視線をサラ先生から副学長に移そうとした時、ミューラ様が私たちを睨んでいることに気付きました。怖い。ミューラ様、怖すぎます。


「そう。なら、いいわ。但し、私のフィオナ王女様に万が一の事がありましたら、クラス全員で責任を取ってもらいますわよ。当然、クラスを決定した教師たちもそこの学校教育統括管理局と初等学校教育管理局の者たちもよ。四星だろうが何だろうが私の王女様の方が大事よ。

全員処分されてもいいという覚悟で私に意見しなさい。

言っとくけど子供も容赦しないわ。例え公爵家の令嬢だろうと侯爵家の嫡男だろうと。同じクラスになった四星の子供、三星以下の子供たち、その親たち、全て処分対象にするわ。私はイーデアル公爵様のように甘くないわよ。

サラ教授、あなたは分かっていますわよね。私がそう言う理由を。」


「はい。申し訳ありません。ミューラ様。お許しください。私も同じクラスの方がいいと思います。そして、私を担任教師として下さい。私が何かあった時にすぐ対応いたします。」


「あら。嬉しい。よかったわ。その他の者たちもいいかしら?」


「はい。学校側は、大丈夫です。お体の弱い王女殿下も、兄王子殿下と同じクラスの方が心強いでしょう。ミューラ様のおっしゃる通り、私は、フェリオ王子殿下とフィオナ王女殿下は、同じクラスがいいと思います。そして、サラ先生には、両殿下の担任教師をお願いしたいと思います。」

私は、もうそう言うしかなかった。ミューラ様のおっしゃることはその通りだろう。万が一の事があった時、本当に全員処分される。リスクが大き過ぎる。サラ先生も同じクラスの方がいいと言っている。私も賛成するしかないと思いました。


「学校教育統括管理局も、王子殿下と王女殿下が同じクラスがいいと思います。お体の弱い王女殿下に万が一の事があってはたいへんです。サラ教授には、是非、両殿下の担任教師になっていただきたいです。よろしくお願いいたします。」


「初等学校教育管理局も賛成します。王子殿下と王女殿下は同じクラスがいいと思います。四星の教師もサラ教授のみですので、サラ教授に両殿下の担任教師をお願いしたいと思います。」



学校教育統括管理局と初等学校教育管理局の局長の二人は、イエスマンズだった。自分も人の事は言えないが、ここに来たのもおそらくミューラ様の要望を全てその場で叶えるためだろう。反対する気は最初からないと考えられる。

フィオナ王女殿下の後見人ミューラ・マ・ノーストキタ様は、王女殿下をまるでご自分のお孫様のように可愛がっておられるとは聞いていましたが、まさかこれ程とは。初等学校に限らず、学校教育現場には必ずいるのです。学校に自己中心的かつ理不尽な要求をする『モンスターペアレント』といわれる親が。ミューラ様は、まさにモン…げふん、げふん。来年、フィオナ王女殿下が編入学されたらどうなるのでしょうか。

ちらりと副学長を見る。彼と一緒に頑張るしかないな、と思っていたら、見つけてしまった。彼の頭に親指の爪くらいの大きさのハゲを三つ。彼は、まだ40代なのに。でも指摘出来ない。が、仲間意識が深まった気がしました。放課後、私は彼を居酒屋に誘い、奢ったのでした。

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