9.祖父たちの後悔
フェリオは、うつむいて考えていた。
祖父たちの言うことは、信じられないが、本当のことだろう。
だけど、信じたくない自分がいる。初めて知った真実に今までの自分を否定されたような気持ちになってきた。
再びフェリオの目に涙が浮かんでくる。泣くのを我慢しようとしたが、溢れ出す。涙が止まらない。
フェリオの様子を見ていたゴルディオが口を開く。
「殿下、ご自分を責めてはいけません。殿下の責任ではないのです。悪いのは、私です。
殿下のお父上は、娘のマリアンヌをとても愛してくれていました。ですが娘は四星です。私は娘が四大公爵家筆頭東の公爵家イーデアルの第一子でありながら、己が五星でないことを引け目に思っていたこと知ってました。
殿下のお父上の婚約者候補第一位は確かに娘でしたが、第二位は四大公爵家の一つ北の公爵家ノーストキタの長女五星のエリアノーラ様でした。年齢が娘より6歳ほど下ですので、先に娘が第一王妃になったとしても第二王妃はエリアノーラ様でしょう。エリアノーラ様のお母上は、王家出身です。MRもお血筋もエリアノーラ様が娘より上になります。私は結婚しても第一子が五星男児でなければ娘が悲しい思いをすると思い結婚に反対しました。」
ゴルディオは、目を閉じてうつむいた。
「ところが、殿下のお父上は
『第二妃は、娶らぬ。私は、マリアンヌだけでよいのだ。もし、子が四星の王子でも、五星の女性を妃にすればよいのだ。姫しか授からなくても、叔父上のところの王子をもらえばよい。今はまだ女児三人だが、叔父上は新しく第二妃をお迎えになられた。そろそろ王子が生まれよう。』そうおっしゃって、私を何度も説得しました。
二人がお互いに結婚を望んでましたので、終には結婚を認めたのです。そして、殿下のお父上は、エリアノーラ様との結婚はないと宣言なさったので、エリアノーラ様は別の男性と婚約し、ノーストキタ家次期当主となられました。
しかし私は一人妃となってしまったマリアンヌの心の負担も考えるべきでした。自分だけが妃となってしまったマリアンヌは、子を強く望みました。必ず子を得なければと思っていたでしょう。MRの違う双子のリスクを知っても、子を諦めることが出来なかったのでしょう。」
「どうして母上は危険な双子より安全な次の子にしなかったのですか?」
今度は、祖父王ジャンが答える。
「四星の女性は、五星の子を生んだ後は、次の子が授かりにくいのだ。運よく授かっても次の子は最初の子が生まれてから5年以上先だ。MRも第一子より低くなる。四星妃の第一子が五星女児ならば、王位継承権を持つ男児、出来れば五星男児を得るためには別の女性を妃に迎える必要がある。故に王族は第二妃、更には側室も複数人持つ事が許されている。直系の王族ならなおさらだ。だか、エドガーは第二妃を拒否した。だからそなたの母は授かった双子を諦めなかったのだろう。」
「ぼく、ぼくが五星だったから。母上は次の子が授からないと思って無理をしてぼくを産んで亡くなってしまったのですね。それに、兄上が死産してしまったのもぼくが五星だったからですね。ぼくがいなければ、母上も兄上も、父上だって亡くならずにすんだのですね。」
フェリオは泣きながら、
「ごめんなさい。ぼくは、自分がそんな存在だと知りませんでした。ぼくは…、ぼくが、ぼくの家族みんなの命を奪ってしまった。」
フェリオの涙は止まらない。
「それは違う。フェリオ、そなたのせいではない。」
祖父王ジャンがあわてて言った。
「一番の責任はわしにある。わしは息子が五星だったため安心してしまった。次の子がなくとも大丈夫だろうと、第二妃を迎えることもなかった。わしの異母妹も五星。更には四星だが異母弟もいて、婚約者は五星の女性。わしは、勝手に次の世代も大丈夫だと思ってしまったのだ。」
ジャンは続けた。
「しかし、異母弟は、女児しか授からなかった。わしの叔父上以上の世代は、既に臣下に下っておる。王より四親等以上離れると王位継承がなくなるからな。息子が王位を継いだ時、わしの叔父上以上の王族の次世代の王位継承権はなくなった。一度権利がなくなれば、復権することはない。息子より若い世代の王位継承権を持つ男児はいなくなってしまった。若い妃を迎えた異母弟だが、年齢を考えたら男児を得る可能性は低い。わしは、MRに関わらず、次世代の王位継承権のことを、次世代を担う王子が息子一人であるその負担を考えるべきだったのだ。」
老王、ジャンは後悔していた。
自分の責任だ。自分の考えが甘かった。結果的に、次世代の全てを息子に押し付ける形となり、息子夫婦は帰らぬ人になってしまった。
今でも、息子夫婦にも孫にもすまないことをしたと心を痛めている。
息子夫婦が残した一人孫をとても愛し、孫のためなら、何でもしてやりたいと思っていた。