87.エリアノーラとサラ (2回目) 3
エ:「だいたいお分かりかと思いますが、公爵系五星の上限も全部で10人から多くても12人くらいですわ。それ以上は生まれてきません。公爵家の当主の夫人は必ず二人以下、まぁ公爵家に限らず貴族の当主夫人は必ず二人まで、と決められている理由の一つですわ。」
サ:「はい。そうではないかとは思っていました。」
エ:「そうですか。では、続けますわね。ここ数世代、その上限近くまで五星がいましたのよ。いなくなってしまったのは、最近と言えますわ。先ずは、四大公爵家筆頭イーデアル。イーデアル公爵家に五星の当主がいないことは、私の知る限りありませんわ。他家のことなので、詳しくは知りませんが。本来なら、伯父王は、第二妃、側室を娶り、五星の王子をもう一人得るか、もしくは五星の王女が生まれればイーデアルに降嫁ですわ。ただ、エドガー王子、私と五星が生まれ、弟王子バードット殿下の婚約者がイーデアル公爵家の五星の女性だったため、次世代も大丈夫と思ったそうですわ。」
サ:「エドガー陛下は、次世代をどのようにお考えでしたのでしょうか?」
エ:「数世代五星Max状態で、慣例だけが残っている状態でしたわ。何故、女性に王位継承権がなく、五星王女は四大公爵家に降嫁なのか。そして、降嫁した王女の子が五星の女性なら、必ず王家に戻される、その理由を考えずに慣例通りに従っていましたわ。そして、それに五星Max状態が追い討ちをかけたのですわ。①伯父王が第二妃を迎えなかった→イーデアルに五星がいなくなったことに対処できない②エドガー陛下が第二妃を娶らず亡くなった→本来なら、エドガー陛下の第二妃となるはずの私が他の男性と婚姻し四星の子しか授からなかった③エドガー陛下の子供が五星の双子の男女と思っていた→知らなかったために私はエドガー陛下が亡くなった後四星の男性と婚姻した。①~③全て、もし~ならですが、全部五星がいなくなる方向に進んでしまったのですわ。」
サ:「③は、私に責任がありますわ。国王陛下にそうするように助言したのは、私ですわ。」
エ:「違いますわ。あの時は、それが最善の策でしたわ。そして、関わった全ての人は、皆、そう思ってますわ。あの時自分が違う選択をすればよかったと。ですが、後悔してももう遅いのですわ。これからどうするのが一番いいのかを考えないといけないのですわ。」
サ:「はい。そうですわね。」
エ:「私は、今まで五星でありながらこの国の将来を考えずにいました。成人し、父から爵位を譲り受けたにも関わらず、子供のように母親に反発し、母を避け逃げ、公爵の仕事から逃げ、父と弟に任せて自領に引きこもっていました。王家には、双子の王子と王女がいるから自分はいなくても大丈夫と思ってましたわ。そう、三ヶ月前までは。三ヶ月前、母が王女様を連れてノーストキタ領に戻ってきました。私は、母と王女様と過ごすうちに自分の行動を反省しました。そして、思っていた以上の母の魔力の衰えを目の当たりにし、伯父王や、この国の将来を考えるようになったのですわ。」
サ:「…ノーストキタ公爵様。」
エ:「今、一番国外外交で問題になっているのは、他国の船がイーデアル領海域を徘徊するようになっていることですわ。他国との小競り合いの最初は、サザリーナンダ領の国境付近だったそうですわ。サザリーナンダ公爵家は、当主が二代続けて四星なのが原因と思いますわ。ですが、サザリーナンダ領は、バードット叔父様の五星の王女様が現当主に降嫁されましたので落ち着いてきましたわ。
問題は、イーデアル領。筆頭公爵家イーデアルの次期当主が四星。さらには、次期当主夫人も二人共に四星。子供たちも皆四星。イーデアル公爵家の五星は、ゴルディオ様とゴルディオ様のお父上。ですが、ここ数年お父上の体調がご高齢のためによくないそうですわ。私の知る限り前代未聞ですわ。イーデアル公爵家は常に3~5人の五星がイーデアル領を守ってましたわ。他国の船がイーデアル領を徘徊するようになったのは、1年くらい前かららしいですが、最近は頻繁に徘徊するようになってきました。ゴルディオ様も50歳を過ぎてます。一族に若い五星がいないままではイーデアルは、厳しいでしょう。そしてこのままイーデアルが他国対応を出来なくなれば、イーデアル領を国の管理下に置くことになりますわ。筆頭公爵家イーデアルに五星がいないのは、それほど危険なのですわ。ですが、私は、イーデアル領をそのようにしたくないのです。なので、私の娘を一人イーデアル公爵家に嫁がせ、イーデアルをバックアップすることにしました。」
サ:「えっ?ノーストキタ公爵様にはご子息がお二人でしたわよね。ご令嬢はいなかったはずでは?えっ?ご妊娠中ですか?」
エ:「違いますわ。もうすぐ娘が三人、いえ四人ですわね、と息子が一人出来る予定ですのよ。バードット叔父様の子供たちが私の子になるのですわ。バードット叔父様は、うちの領に生涯幽閉ですわ。隠し子をご存知ですか?」
サ:「はい。うわさには。ですが、うわさ程度しか存じ上げません。」
エ:「そのうわさ通りよりも実際はもっと酷いですわ。バードット叔父様は許せませんが、妃と子供たちが巻き添えになって平民にされるのは可哀想ですわ。私にとっても従妹弟になりますし。なので、私の子としてもらうことにしましたの。その一番下の娘をイーデアル公爵家に嫁がせようかと思ってますのよ。カルロス様のご嫡男より三つ年上になります。まだ、イーデアル公爵様にはお話してませんのでご内密に。そうそう、南のサザリーナンダに嫁いだ上の娘が五星の子を授かりましたの。まだ内緒ですわよ。なので、イーデアル公爵様が引退されても、私と南の娘でイーデアルをバックアップしますわ。南の娘の生母レノファ様はゴルディオ様の妹ですし。」
サ:「ありがとうございます。ノーストキタ公爵様。イーデアル公爵家にはお世話になっていますので、心配していました。これで安心出来ますわ。」
エ:「いえ、これは本来私がするべき公爵の仕事ですので、お礼は必要ないですわ。イーデアル領状態になったのは、引きこもっていた私の責任ですわ。エドガー陛下亡き後、本来なら、私がこの国を支えなければならない立場でしたのに。反省してますわ。」
サ:「ノーストキタ公爵様。ノーストキタ公爵様が王都に戻られてからは、王宮全体が引き締まり、国内に安心感が出てきました。イーデアル領海域担当の騎士団もそう言っていると夫が申していましたわ。ありがとうございます。」
エ:「いえ、私は、本来の仕事をしているだけですので。ですが、フィオナ王女様が成人するまでは、いえ、成人した後もですわね。私が引退するまで、この国とフィオナ王女様を支えていくつもりでいますわ。サラ教授もご協力お願いいたしますわ。」
サ:「はい。もちろん私も夫と共にフィオナ王女様をお支えするつもりですわ。夫は、フィオナ王女様とフェリオ王子様が同一人物と知りませんが。」
エ:「えっ?ドジル・レリ・ワトソン隊長は知らないのですか?」
サ:「はい。フィオナ王女様とフェリオ王子様と同一人物と知る者は極限られた者のみですわ。おそらく出産に立ち会った者と両陛下、マリアンヌ様のご両親と弟のカルロス様だけと思いますわ。」
エ:「そうよね。私も母も知らなかったわ。ごめんなさい。私、そろそろ時間が。また、来週のこの時間にお会いしてお話出来るかしら?」
サ:「はい。私も、いろいろとお話したいことがありますので、私の方こそよろしくお願いいたしますわ。」
二人は、また、来週会う約束をして、それぞれの仕事に戻った。




