7.フェリオの父5
エドガーは、早速、王妃付きの医師団の人数を増やした。
一番年配の産婦人科専門医ベッテラーン医師を中心に、三人の女性産婦人科専門医に、魔法医学科の医師たちにと、国内トップクラスの医師団、看護士団を結成し、これでもかというくらいのたくさんのスタッフを集めて王妃の出産に備えた。
…遣り過ぎであった。
「陛下、あんなにたくさんの医師団は必要ございませんわ。診察されるだけで疲れましたわ。」
「何?診察で疲れたのか。ベッテラーンめ。王妃が疲れるほど診察するとは。まさか、妃の美しさに診察が念入りになったのでは。診察のためとはいえ私以外の男が妃に触れるのは、我慢ならぬ。やはり男のベッテラーンは、医師団長から外すべきだったか。」
『違いますわ。陛下があまりもたくさんの医師団に私を診察させたからですわよ。それに、男性といってもベッテラーンはおじいちゃん医師ですわ。』
マリアンヌは、呆れて心の中でそう思ったが、口には出さず、
「とにかく、以前のままに戻して下さい。医師団がぞろぞろと部屋に待機されていては、落ち着きません。」
「そうか。そなたと子のために用意したが、そなたが必要ないというならそういたすとしよう。」
「陛下、陛下のお心遣いには、私、感謝致しておりますわ。」
「本当か?」
「はい。ありがとうございます、エドガー様。」
「よいのだ。では私は執務に戻るとしよう。」
さっきまであからさまにがっかりした表情をしていたエドガーだったが、マリアンヌにそう言われると、途端にニコニコと笑顔になり、機嫌よく執務に戻っていった。
………………
エドガーは暇を見つけては、マリアンヌに会いにきた。
「マリアンヌ、双子の名前を考えたぞ。王子か姫か分からぬから、四人分の名前が必要だが、とりあえず、まず、一人分だ。」
エドガーはガサゴソと折っていた紙を取り出すと
バンっと広げて、マリアンヌに見せた。
[マリガー]
紙には大きくそう書かれていた。
「そなたと私の名前を組み合わせたのだ。私たちの子だからな。どうだ?昨日の夜、寝ないで考えてみたのだ。」
『えっ?本気?イヤ。イヤですわ。さすがにこれはないですわ。』
マリアンヌはそう思ったが、思っただけでそうは言わず、
「陛下、これではもう一人が[エドアンヌ]になってしまいますわ。全部を組み合わせるのではなく、マリ、マ、マ、ガー……例えばマーガレットとか一部組み合わせるのはいかがでしょうか?それとも全く違う名前の方がいいかしら。」
と言って、[マリガー]をやんわりと否定した。
「そうだな。確かに[エドアンヌ]は、ないよなぁ。もう一度考え直すとしよう。」
『[マリガー]もありませんわ。』
マリアンヌは心の中でそう思ったが、[マリガー]を回避できたことにほっとした。
「おっと、そろそろ戻らねば。また、来るとしよう。今度は、双子らしい名前を考えておく。」
「ええ、陛下、素敵な名前をお願いしますわね。」
エドガーは、上機嫌で執務に戻っていった。
……実は、マリアンヌは、エドガーのそういうところが好きだった。