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64.幻影魔法 1

ノーストキタ領から王都に戻った翌日からフィオナは、大叔母ミューラの幻影魔法の指導をうけた。


全身を写す鏡を見ながら、鏡に写った自分の姿と全く同じ姿の幻影を目の前に作る。


「い~い、フィオナちゃん。魔法で一番大切なのは、イメージ力よ。イメージ力がなければ、魔力量が多くても台無しになるわ。いきなり全身が難しければ、作り出すのは手だけ、足だけでもいいのよ。やってみて。…???フィオナちゃん?どうしたの?」


「あっ、申し訳ありません。ミューラ様。今までずっと雑談ばかりだったので、魔法の指導を受けるのに逆になれなくて。」


「あらっ、私は、フィオナちゃんの魔法の先生ですわよ。今までの雑談も、ノーストキタ領にご案内したのもちゃんと意味があるのよ。」


「そうですわね。申し訳ありません。ただ、ミューラ様は、私と一緒にいるときいつも笑顔でしたので、真剣なお顔に少し驚いたと言うか。」


「私だって、真面目な顔で指導くらいしますわよ。」


「はい。とてもお綺麗だと思いましたわ。」


「えっ。」


フィオナの思わぬ発言に、ミューラの顔がかぁ~っ赤くなる。


元王女のミューラにとって、「綺麗」なんて言葉、只の社交辞令だ。

子供の頃から、例えば、新しいドレスを着た時など、「かわいい」「よく似あっている」「綺麗」等々、皆、一様に同じ事を言って褒めてくれた。

大人になってからも、同じだ。パーティーに出席しても、お茶会に行っても、仕事先でも、皆、同じように、最初に「綺麗」「美しい」とかなんとか言って褒めて機嫌をとろうとする。

「前回のドレスの方が似合っていた。今回は、イマイチ。」

なんてたとえ思っていたとしても、そんなことをいう人はいない。皆、とりあえず、褒める。ミューラ自身もそれを本気とは思わずさらっと流す。それが普通だった。


しかし、面と向かって突然思ってもみなかったことを言われると、いつもの社交辞令と違い、本気にして赤面してしまった。逆にまたそれが恥ずかしい。誤魔化すことも出来ない。


「やめて~。フィオナちゃん。いい年した大叔母をからかわないで。」

下を向いて、顔を隠すのが精一杯のミューラに、フィオナが追い討ちをかける。


「うふふ。本心ですわ。でも、今のミューラ様は、かわいいです。」


ミューラ、撃沈。そのまま復活ならず。

本日の魔法授業は、今までの最短時間で終了となった。

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