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61.ノーストキタ領訪問 6

エリアノーラは、フェリオに普段の二人のことをもう少し聞いてみることにした。


「フェリオ王子様、普段、母とはどんな魔法の勉強をしていますの?」


「えっと、魔法は、少しだけというか、雑談ばかりです。好きな食べ物とか、学校の話とか。今回ここにきたのもお話をしていて、ミューラ様がノーストキタ領に行くことを提案してくれたんです。ぼく、ずっと楽しみにしていたので嬉しいです。」


「母といる時は、フェリオ王子様の姿ですか?」


「いえ、ミューラ様といる時はいつもフィオナの姿です。魔法の練習は、二人だけなので基本同性です。以前は、イーデアルの祖父に魔法を習ってました。フェリオ王子としてです。昼間、フィオナの姿になれるようになって半年ちょっとでミューラ様がぼくと言うかフィオナの魔法の先生になりました。イーデアルの祖父はフェリオの魔法の先生のままですが、ぼくが祖父に魔法を教わることはもうありません。」


「そうですか。では、フェリオ王子様は、いずれは王女様として生きられるのですね。」


「えっと、まだ決めてないです。ぼくは、ずっと自分は男だと思っていました。初等学校もフェリオ王子として通っています。友達だって男友達が多いです。男以上に女の子は何人かのグループでいるので、それにどう入っていけばいいのかとか。女の子は、普段何を話しているのかとか。女の子として同じ年頃の子と交流したことないので、分からないです。」


「フェリオ王子様…。」


「今まで通り男でいる方が気が楽と言えば、そうです。ですが、ぼくが昼間数時間女児の姿になれるようになった頃から、いえ、実際は、父上がぼくに呪詛をかけてすぐからですね、祖父母たちは、ぼくが男性でも女性でも困らないようにフェリオとフィオナの二人分の全てを用意してくれました。部屋、侍女、護衛等、全て別々の二人分です。ぼくは、ぼくを支えてくれている祖父母たちに応えるためにも、今は男女関係なくできるだけたくさんのことを学び、そして、将来を考えるつもりでいます。でも、自分が女の子だと知ってからまだ一年少しなので、女の子らしい言葉遣いとかまだ少し難しいです。時々間違えちゃいます。」

そう言って苦笑いするフェリオをみて、エリアノーラはまたポロポロと涙を流し始めた。


「もう、ノーストキタ公爵様は泣き虫ですね。ぼくは大丈夫ですよ。心配をしていただいたみたいですね。ごめんなさい。でも、ありがとうございます。」


なかなか泣き止まないエリアノーラを見て、フェリオは、

「魔法が解けるまでですよ。」

そう言ってエリアノーラを抱きしめた。


魔力が変わる。

『ああ、フィオナ王女様だわ。』

エリアノーラはそう思った。ぽかぽかと暖かい優しい魔力に包まれる。幸せな気持ちになり、暫く微睡んでいたが、また、魔力が変わり始めた。


「これで今日ぼくはもうフィオナにはなれません。ノーストキタ公爵様のお部屋までお送りしようと思ってましたが、出来なくなってしまいました。今、侍女を呼びますね。」


「明日、また、フィオナ王女様の魔力に触れさせて下さい。」


「いいですよ。明日、ミューラ様がまたどこかに案内してくれるみたいです。ぼくは詳しく聞いてないので、ミューラ様に確認しないといけませんが。」


「お母様ですわね。分かりましたわ。では、フェリオ王子様、失礼しますわね。ありがとうございました。」

エリアノーラはそう言うとさっさと部屋を出て行った。


『あはは。侍女を呼ぶって言ったのに、もう行っちゃった。すぐ泣いたり、笑ったり、コロコロと表情変わるし。大人はあまり思ったことを表情に出さないのかと思っていたのに、ノーストキタ公爵様は、違うみたいだな。子供っぽい?でも、かわいい方だな。』

フェリオは、エリアノーラに好感を持った。



フェリオのいる客室を出たエリアノーラは、母親たちのいる部屋に行った。

「お母様、明日の予定はどうなっていますの?いえ、明日だけでなく、フィオナ王女様がこちらに滞在中の予定を全てお聞かせ下さい。」


「何ですか、エリアノーラ。いきなりそのようなことを。あなたには関係ありませんわ。フィオナ王女様は私が案内します。」


「お母様、関係ないでは済ませません。私の質問にお答え下さい。王女様がノーストキタ領にいる間、当主の私が王女様のご予定を知らないなんてあり得ません。そして、お母様。たとえお母様と謂えども、ノーストキタの者が当主である私の言うことに背くのは許しません。私の命が聞けないのならば、お母様には隠居していただきます。お母様がノーストキタ領内の隠居先から出ることも禁じます。お母様の仕事は、全て私が引き継ぎます。今すぐにでもそうします。」


「本気で言ってますの?」


「もちろんです。」

エリアノーラは魔力で母親を拘束した。母を拘束したのは初めてだった。


「分かりました。あなたに従いますわ。だからもう止めて。」


「申し訳ありません。お母様。私の本気を分かっていただきたかったので。」

エリアノーラは、母への拘束を解いた。

「手加減はいたしましたわ。今のお母様がギリギリ拘束を解けない程度に。」


「腹が立つわ。あなたに負けるなんて。」


「お諦め下さい。お母様と私の魔力量は、元々、ほとんど同じです。お母様が私に勝つことはもうありません。」


「分かっていても、悔しいのよ。」


「お母様。私、王都に戻ると決めました。どうか全てを私にお任せ下さい。お願いいたします。」


「ふふ。そうね。そういたしますわ。」

ミューラとエリアノーラはお互いにすっきりとした顔で笑いあった。


「明日からの予定だけど…。あら、たいへんだわ。」


「えっ?」


エリアノーラが周りを見ると、母と一緒にいた父と夫、さらには控えていた者たちまで全員失神していた。エリアノーラの魔力のせいで。


「きゃああ、ごめんなさい。」


子供たちは寝た後でその場にいなかったのが不幸中の幸いだったが、その後かなりたいへんだった。

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