6.フェリオの父4
「マリアンヌ、そなたの気持ちは分かった。だが、私は、医師団の言う事を聞くべきだと思う。」
「そんな…あんまりですわ、陛下。」
マリアンヌは、青ざめた顔になった。
「私の話も聞いてくれ。そなたも知っての通り、双子が正常に生まれてくる可能性はほとんどない。そして、今後、双子が大きくなればなるほど、そなたの体への負担は大きくなる。そなたの命に関わることなのだ。しかし、今なら、双子がまだ小さい今なら、そなたの体への負担も少なく、また次の子も授かることが出来よう。今回は諦めてくれないか?私は…私は…、こんなことを言っては父親失格かも知れないが、子よりもそなたの方が大事なのだ。そなたの体の方が心配なのだ。」
エドガーは立ち上がり、マリアンヌの側にいくと、妃を抱きしめた。
「頼む、マリアンヌ。子は諦めてくれ。私は、そなたさえ無事であればそれでいいのだ。そなたが側にいてくれるだけで私は幸せなのだ。そなたを失いたくはないのだ。」
マリアンヌは、エドガーの抱擁に少し応えると、彼の体を優しく押し返した。
「エドガー様、エドガー様のお気持ち、私、凄く嬉しいですわ。」
「ならば、私の言う事を聞…」
「ですが、私、子を諦めることは、出来ません。」
強い口調でマリアンヌは言った。
「何故だ、そなたは私の気持ちがわからないのか?私は、そなたを愛してる。愛しているのだ。」
「私も、あなたさまをお慕いしておりますわ。エドガー様。幼い頃から、ずっと…。」
「ならば、ならば、何故私の言う事を聞けぬ?」
「子も愛しているからです。この子たちは、生きているのです。エドガー様も感じて下さい、私たちの子供たちを。」
マリアンヌは、エドガーの手をとると、自身の腹部に持っていった。
………
なるほど、確かに僅かではあるが二つの魔力を感じる。
エドガーは、少し落ちて、さらに子供たちの魔力に触れてみた。
『五星だな、見事な魔力だ。』エドガーはそう思った。
『こっちの子は、四星か。しかし、かなりいいではないか。いずれは、公爵当主相当の魔力持ちになるだろう。』
エドガー本人は気付いてないが、自然と笑顔になっていた。
「エドガー様、お分かりになりましたか?子供たちが。」
「ああ、分かる。私の、私たちの子供たちだ。生きている。魔力の流れを感じる。まだ小さかろうに。」
「この子たちを諦めろだなんて、仰らないで下さい。この子たちは、大丈夫です。とても強い子たちです。私が必ず守ってみせます。」
妃のお腹の双子の魔力に触れたエドガーは、子らをとても大切でいとおしい存在だと思った。毎日子供たちの魔力に触れている妃の気持ちも考えた。悩む、悩んで、妃の顔を少し見て、また、悩む。目を閉じて、悩む。悩んで、そして、妃の言うことを尊重し、自分も妃とお腹の子供たちを守ることに決めた。
「ああ、そうだな。私が悪かった。そなたを失うことを恐れ、そなたの気持ちを考えずに、自身の気持ちを押し付けようとした。許してくれ。これからは私も協力しよう。だが、無理はするな、少しでも違和感を感じたら、すぐ医師団に連絡するのだ。私にもだ。」
「そんなに心配なさらなくても、大丈夫ですわよ。」
マリアンヌは笑って答えた。
「しかし、そなたには、かなわないな。そなたの体が心配でここにきたのに、産むことに賛成してしまった。もちろん、賛成したからには、私もそなたと子を守ると約束しよう。
ああ、そなたと話していたら、そなたの父、東の公爵ゴルディオ・マ・イーデアル殿を思い出したぞ。イーデアル公爵殿はなかなか頑固で難しい男だ。私は子供の頃からずっと、論議しても一度も勝ったことがない。」
エドガーは、苦笑した。
「まぁ、父と私の悪口ですか?」
少し拗ねたような顔をした王妃を見てエドガーは、
『拗ねた顔も、また、美しい。マリアンヌも子供たちも私が守らなくては。』
そう決意したのだった。