59.ノーストキタ領訪問 4
一度屋敷に戻り、昼食を食べた後、三人は再び馬車に乗り、孤児院に行った。
孤児院に着いたフェリオは、院にいる孤児の多さに驚いた。
「どうしてこんなにたくさんの子供が捨てられるのですか?」
王都にも孤児院はあり、フェリオも視察に行ったことがあった。ノーストキタ領は、王都より人口が少ないにも関わらず、孤児の数が王都より多かった。
「それは……、お母様、どうしてフェリオ王子様にこのようなところばかりご案内なさるのですか?」
エリアノーラは悲しそうにミューラに尋ねた。
「私は、フィオナ王女様に、王都以外の他の領地の現状なども知ってもらいたかったのよ。王位を継承すれば、王都を離れるのは難しくなりますわ。子供の今のうちに色々な物を見たり経験したりして欲しいのよ。今回、我がノーストキタ領に王女様をお連れしたのは、そのためなの。今日は、城下町周辺だけど明日以降も領地の色んなところにご案内するつもりよ。」
そう言って、ミューラは、エリアノーラが答えなかったフェリオの質問に答えてくれた。
「フェリオ王子様、市場や、スラムで説明したのとほとんど同じですわ。貧しいから、が基本ですわ。覚えていますか?」
「はい。」
フェリオは、朝のことを思い出した。
『ノーストキタ領は、寒くて産物の収穫量が少ない。仕事も少ない。生活に余裕がなく子供は学校に行かせてもらえない。学力がない。犯罪が増える。生きる場所を求めてスラムができる。』
「例えば、僅かな土地を持つ農民の夫婦がいたとします。今は夏なので、畑の作物を収穫したりと仕事があります。ですが、冬になれば、畑は雪で覆われ、作物はほとんど取れません。内職などの仕事も限界があります。量は少ないです。外は、雪、家の中で仕事もない。子供がたくさんいてもとても育てられない。ちょうど今くらいから生まれたばかりの子供が捨てられます。」
「冬に他の土地に仕事を求めて出稼ぎに行く者もいます。ですが、何かツテでもないとなかなか難しく、女性や、子供、お年寄りなどは住んでいる家を離れることは難しいですわ。平民の冬は、毎日食べいくだけで精一杯の家庭がほとんどですわ。」
「ノーストキタ領は、他の領地と交易してないのですか?冬は、他の領地に行くことは、可能ですか?」
「ノーストキタ領と隣接しているのは、西の公爵家ウエスターナルか、東の公爵家イーデアル。ですが、どちらともそれほど交流はないのですわ。」
「どうしてですか?」
「イーデアル公爵家は、ご存知ですわよね。」
「はい。」
「フェリオ王子様のお母様のご実家、四大公爵家筆頭東の公爵家のイーデアル領は、山、川、平地、海、全て揃った豊かな土地。四季のある恵まれた気候。農作物や、水産物、海産物全て豊富。貧しいノーストキタ領民は、買いたくても買えない、領地が違うので移住も難しい。イーデアル領民にしても、自領で全て賄えるのでノーストキタと交易するメリットもほとんどない。ウエスターナル領も同様。なので、両公爵家ともあまり交易ないのです。」
「そうなのですね。分かりました。」
「フェリオ王子様、次の場所に行きましょう。」
教会、学期末休みではあったがノーストキタ領の初等学校などを見て、屋敷に戻った。屋敷に戻る馬車の中で、エリアノーラは、今日の夕食に父親の前ノーストキタ公爵が来る予定だと告げた。
「今朝、夫と二人の息子たちが父を迎えに行きましたの。もう屋敷に戻っていると思いますので、紹介いたしますわ。後、夕食後に、フェリオ王子様の魔力に触れてもよろしいでしょうか?お母様もご一緒がよろしいですか?」
「私は、あの人と孫たちといますわ。集中するためにも、私がいない方がいいでしょう。」
「分かりましたわ、お母様。フェリオ王子様、夕食後に別室にご案内いたしますわ。」
「あの、ぼくの部屋でも大丈夫ですか?今日、女児の姿でいられるのは、後二時間半くらいです。日が沈めば五時間くらいなれますが。別室だと女児の姿で部屋に戻れなくなる可能性が。」
「えっ?昼と夜で時間が違いますの?」
「馬鹿、エリアノーラ。何を言ってますの?基本ですわよ。ちゃんと子供の頃に教えたでしょ?馬鹿なので忘れたのかしら?」
「お母様…。」
「エリアノーラちゃんに問題です。いいですか?魔力が一番回復するのは?」
「私は、子供ではありません。…夜寝てる時ですわ。」
「覚えてない馬鹿は、子供ではなく幼児ですわ。魔法が使いやすいのは、昼?夜?」
「酷いですわ。お母様。…夜ですわ。」
「あら、ちゃんと覚えていますわね。エリアノーラちゃん、偉いですわ。魔法を使った時、魔力の消費量が多いのは、昼?夜?」
「いい加減にしてください、お母様。…昼ですわ。」
「あなたが考えなしに言うからですわ。少し考えれば、分かるでしょ?」
「そうですわね。申し訳ありません。フェリオ王子様、今日が難しいようでしたら、別の日にいたしましょうか?」
「こののままでいいなら大丈夫です。魔力切れになるのではないので。」
「どう言うことですか?」
「もう、馬鹿。エリアノーラの馬鹿。私、恥ずかしいですわ。いいですか、フィオナ王女様が女児の姿になれるのは、呪詛に打ち勝つ魔力がある時だけですわ。呪詛以下の魔力量になったら、フェリオ王子様の姿に戻りますが、魔力がなくなってしまうわけではないのですよ。フェリオ王子様の姿の時だって、あなたくらいの魔力量はありますわ。」
「ミューラ大叔母様、いい過ぎです。ノーストキタ公爵様、ここにいる間、女児の姿で過ごす時間が長いので、別の日でなくてもいつでも同じです。女児の姿が保てなくなりそうなら、少し早めに言いますね。」
「分かりました。ありがとうございます。もうすぐ屋敷に着きますので、屋敷に着きましたらお着替えください。」
屋敷に着き、馬車で着替えたフィオナを、ノーストキタ前公爵とエリアノーラの夫や、子供たちが出迎えてくれた。
フィオナは、ノーストキタ公爵一家と楽しい夕食の時間を過ごした。




