58.ノーストキタ領訪問 3
「王女様、城下町に着きました。今日は、こちらを見て回ろうと思います。お着替えになられて下さい。」
ミューラにそう言われたフィオナは、馬車の後ろで着替えて男児の姿になった。
「エリアノーラ、王女様は、普段フェリオ王子の姿で過ごされます。昼間、女児の姿でいられる時間は、え~…」
「今、六時間くらいです。但し、魔力を全く使わなければです。さっきみたいに、魔力を使ったり、魔法の勉強をすれば短くなります。今日は後四時間くらいです。夜だともう少し長く女児の姿でいられるのですが。」
『声も雰囲気も男児になったわ。本当に女児の時と全然違うのね。』
フェリオ王子に戻ったフィオナを見て、エリアノーラはそう思った。
「フェリオ王子様、後で王子様の魔力に触れてみてもよろしいでしょうか?フィオナ王女様の時と少し違う魔力のように思えるのです。」
「いいですよ。ノーストキタ公爵様。実は、女児の時の方が魔力操作がしやすいのです。何か違いがあるのかも知れないです。」
エリアノーラは、フェリオを見て、普通の子供と思った。
何故だか、フェリオよりフィオナと一緒にいたいと思ってしまう。
『気のせいよね。きっと。』
エリアノーラは、あまり深く考えないようにして、市場を案内して回った。
「フェリオ王子様、ノーストキタ領は、領地の半分以上氷に覆われたとても寒い地方です。残念ながら、作物もあまり育たず、海産物も多いとは言えません。ですが、寒い地方ならではの産物もあるのです。メリットとしては、寒いので食物を長く保存出来ます。」
フェリオは、ノーストキタ領の産物を見て触って味わってみた。
全体的に固く、水分が少ないと思った。
後、凍らせて水分を抜き、カラカラの状態で保存食を作るという方法に興味を持った。
魔力で凍らせてても同じなら、暑い地方の保存食作りも、地方同士の産物の交換などに役立つ気がした。
新しい知識、新しい食べ方、知らない食べ物、初めてみる生きた大きな魚。
市場に行ったフェリオはとても楽しかった。
「子供も働いているのですね?」
「はい、今は一学期末休みですから。子供も貴重な労働力ですし。しかし、貧しいノーストキタ領は、初等学校に行かせてもらえない子供も多いのです。」
「何故ですか?」
目を反らしてうつむいたエリアノーラを見て、案内を任せていたミューラが代わりに答える。
「子供も働かされるからですわ。例えば子供の数が多い場合、上の子供は下の子供の面倒をみたり、後は、父親の仕事を手伝ったりと。しかし、働く場所がある子供は、まだマシな方ですわ。フェリオ王子様、こちらは闇の部分ですわ。」
市場からすぐ近くにスラム街があった。
ボロボロの服をきた汚い老人、ガリガリに痩せた子供、目付きの悪い大人の集まり、うずくまって微動だりしない人らしきモノ…
狭い場所にたくさんの人たちがいた。
「フェリオ王子様、市場の近くには、どうしてもこのような者たちが集まってしまいます。取り締まっても次から次に集まります。」
「どうしてですか?」
「市場から出る売れ残りや食べ残し、傷んだ食べ物などのゴミを漁るのですわ。スリや万引き、強盗もいます。治安維持のために取り締まってはいますが。」
「仕事を与えたらどうですか?」
「その仕事がないのです。この者たちは、たいてい初等学校にも通ってません。知識も何もないのです。病気の者や捨て子もいます。せめて健康な子供だけでも救えたらと思うのですが。」
「フェリオ王子様、そろそろ行きましょう。保安部隊も待機してますが、絡まれて騒ぎが起こっても面倒です。」
黙って母親にスラムの案内を任せていたエリアノーラがそう言ってフェリオをスラム街の入り口から遠ざけた。
フェリオは、市場にきて楽しかった反面、悲しい気持ちにもなった。




