56.SIDE:エリアノーラ・マ・ノーストキタ 3
「お母様、あの子は何者ですか?」
「この国の王女様ですわよ。私の甥のエドガーとマリアンヌ様の娘ですわ。あの二人にそっくりでしょう?」
「確かに、王女様はマリアンヌ様のお顔立ちに、目元はエドガー陛下によく似てますわ。フェリオ王子様にもそっくりですし。」
「そうでしょ、かわいいでしょう。」
ニコニコ笑ってそう言う母に、私は、少しイライラしました。
「かわいいかどうかは関係ないですわ。私が聞きたいのは、王女様の魔力です。王女様の魔力は、とても体の弱い者の魔力ではありません。お母様が魔法を教えたばかり?そんなはずないですわよね?私も五星ですわ。それくらいわかります。」
「まぁ、そうですわね。あなたはそう言うと思ってましたわ。」
「では、お母様にお尋ねしますわ。どうして王女様は、イーデアル公爵家で静養していることになっているのですか?お母様は、王女様の後見人になって、どうなさるおつもりですか?」
「兄の国王ジャン・マ・アールが女性にも王位継承権を持てるように王族に関する法を変えようとしているのは、知ってますか?」
「もちろんです。法を変えるには、四大公爵家の承認も必要ですので。」
「私、賛成してますのよ。五星の元王女として。あなたも賛成しなさい。」
「何故ですか?お母様。王家には、フェリオ王子様がいらっしゃるではありませんか。今までの慣例通りなら、五星の王女様は東西南北四大公爵家のいずれかに降嫁。南は、五星の王女様が降嫁したばかり。西の次期当主は五星。次期当主が四星のうちか東のイーデアルにフィオナ王女様は降嫁した方がいいではないですか。王女様の魔力は素晴らしいですわ。是非、うちにきて欲しいですわ。」
「イーデアル公爵家も女性王位継承権に賛成してます。フィオナ王女様は、うちにもイーデアルにも他の四大公爵家にも降嫁されません。」
「何故ですか?お母様。納得出来ません。お母様は、フィオナ王女様を我がノーストキタ公爵家に降嫁させるために後見人になったのではないのですか?」
「違いますわ。単に、フィオナ王女様の魔力が素晴らしいと思ったからですわ。立場的にも、私が後見人になっても問題ないですし。」
「お母様のお考えは、分かりません。お母様は、我がノーストキタ公爵家をどうお考えなのですか?」
「あなたこそ、ノーストキタ公爵家のことを考えるなら、こんなところに引きこもってばかりいないで、もっと王宮仕事をしなさい。」
「こんなところとは、我がノーストキタ公爵家を侮辱するおつもりですか?」
「そうは言ってません。」
……
母と口論になり、私は母の元を飛び出しました。
そして、そのままフィオナ王女様のいる客室に向かいました。
王女様の魔力が気になった私は、直接本人に会って、静養の理由をお聞きしたかったのです。
母との口論の直後でイライラしていた私は、本来なら先触れをし、王女様にお伺いをしてから尋ねるべきところを、いきなり尋ね、ノックをするとすぐ、無礼にも部屋に入ってしまいました。
「失礼します、フィオナ王女様。エリアノーラです。どうしてもお尋ねしたいことがあり、直接お伺い致しました。よろしいでしょうか?」
そう言って、フィオナ王女様のお顔を見た私は、驚愕しました。
椅子に座って本を読んでいたのは、フィオナ王女様ではなく、フェリオ王子様だったのです。
「えっ?」
驚くフェリオ王子様。
私も同じく驚きました。
「えっ?フェリオ王子様?ですわよね?フィオナ王女様は?えっ?えっ?」
そこに、母が慌てて入って来ました。
「エリアノーラ、フィオナ王女様のいるお部屋に勝手に入ってはなりません。あなたは、何と無礼なことをするのですか。」
唖然とした私は、母の叱咤も聞こえませんでした。
「申し訳ありません、ミューラ大叔母様。まさか急に来られると思わず、いつも通り過ごしてました。」
「フェリオ王子様の責任ではありません。私が一番最初に、絶対王女様のいるお部屋に入ってはならないと言うべきでした。まさか娘がこんな無礼なことをするなんて思いませんでした。申し訳ありません。」
母とフェリオ王子様の会話の意味が私には分かりませんでした。
母は、ため息を付くと、私を見て、
「フェリオ王子様にし謝罪しなさい、エリアノーラ。」
と言いました。
「はい、お母様。申し訳ありません、フェリオ王子様。ですが、何故フェリオ王子様がここに?フィオナ王女様は、どちらに行かれたのですか?」
「どこにも行ってません。そちらにいらっしゃいます。」
「えっ?フィオナ王女様?」
「はい。」
フェリオ王子様が返事をする。
「まさか…」
母とフェリオ王子様の顔を見る私。二人とも諦めたように頷く。
「フィオナ王女様は、フェリオ王子様の女装?」
「「違います(わ。)。」」
二人が同時に叫んだ。
「えっ?でも、同一人物?」
「「そうです(わ。)。」」
二人が同時に認める。
「フィオナ王女様が男装?いえ、あり得ないわ。フェリオ王子様は、確かに王子様でした。私、この目で確認いたしましたもの。」
「えっ?いつ?」
フェリオ王子様が驚く。
「生まれてすぐの名付けの儀式と、三歳の式典の時ですわ。男児の場合、本当に王位継承権のある王子かどうか四大公爵家と王家、王族で確認いたしますの。」
「知らない。三歳の時も覚えてないけど、そうなんだ…。恥ずかしい。」
「大丈夫ですわ。乳幼児の男児の証なんて、小さくてかわいいモノですわ。うちの二人の息子たちのもちっちゃくてかわいいですわよ。フェリオ王子様は、とっても小さな新生児でしたし。」
「そんなに小さい小さい言わないで下さい。恥ずかしいです。」
「あら。失礼いたしましたわ。って、違うわ。えっ?フェリオ王子様がフィオナ王女様なのですわよね。でも、男装でも、女装でもないって、どういうことですか?」
「仕方ないですわね。絶対に他言無用ですわよ。フィオナ王女様は、呪詛で王子の姿に変えられているのですわ。」
そうして、母は、フェリオ王子様とフィオナ王女様の話を私にしてくれました。
「フィオナ王女様は、この国の王となられる方なのです。分かったら、あなたもさっさと法の改正に賛成しなさい。」
母がそう言う頃には、私は、涙と鼻水が溢れ出て、半分聞いてませんでした。
「うぐっ、ぐずっ、わがりまじだわ。おがあざま。お可哀想にフィオナ王女様。うぐっ、ぐずっ、わだぐじも、王女様がお早くご自分の本当の姿を取り戻せるように協力致しますわ。」
私は、泣きながら王女様の手を取ろうとしました。お優しい王女様は、ティッシュを渡してくれました。
「うぐっ、ぐずっ、ずぴっ。ちーん。」
「きったないですわ。エリアノーラ。お化粧が最悪ですわよ。その汚い手で私の王女様に触らないで。」
…母は、やっぱり私にだけ厳しい方だと思いました。




