5.フェリオの父3
「マリアンヌ。」
妃のいる部屋に着くとすぐに、エドガーは、ドカドカドカと彼女のすぐ近くまで駆け寄り、声を掛けた。
王妃マリアンヌは、王の様子に少し驚いたようであったが
作業していた趣味の刺繍の手を止めて、立ち上がり、彼に微笑んだ。
「陛下、このような時間にいかがなさいましたか?執務中ではないのですか。ほんの少し前に、先触れが来たばかりですのよ。お早いお着きですわね。」
「王妃と大事な話がある、皆、下がれ。」
エドガーは、お付きの者全員を下がらせると、王妃が用意した椅子に座り、妃を自分の向かい側に座らせるとすぐに話を切り出した。
「懐妊中の双子のMRが異なると聞いた。そしてそのリスクもだ。そなたのことが心配になり、いてもたってもいられず、ここにきてしまった。突然ですまない。だが、そなたは既にその事を知っていたらしいな。何故、私に黙っていたのだ?」
エドガーは、王妃が心配であると同時に、妃は以前から知っていたのにもかかわらず、自分に言わなかったことに少し腹が立っていた。
「何も問題ないと思ったからです。でも、陛下は心配なさるかもと思いました。陛下に余計な心配をかけさせたくなくて、黙ってました。申し訳ありません。」
マリアンヌは、頭を下げると話を続けた。
「お腹の子供たちのMRが違う事はすぐ気付きました。私、最初は呑気に、もしかしたら性別も違うのかしら?王子と姫が同時に授かったとしたら凄く嬉しいわ、なんて思ってましたのよ。」
優しい笑顔で微笑みながらマリアンヌは答えた。
「宮廷医師団が診察に来たとき、私が言いましたの。お腹の子供たちのMRが異なる事を。途端に医師団が慌ただしくなり、驚きましたわ。それから数日後、子供たちのリスクについての説明を受けました。私、最初は悲しい気持ちになりましたわ。もしかしたら子供たちを失ってしまうのではないかと。その後、医師団は私の体のことを言いましたの。それを聞いた時、私、とても腹が立ちましたの。」
少し怒った顔をしたマリアンヌだったが、エドガーを見て再び優しく微笑むと、話を続けた。
「この者たちはいったい何を言っているのか、子を諦め、私に己が身の安全をはかれと言いたいのであろうか…。そんなことあり得ない。私は毎日子供たちの魔力を感じて生きている。子供たちも生まれてくるために必死で頑張っている。子供たちは、私が守って見せると、私、そう思いましたの。」
マリアンヌは、ため息を付いた。
「医師団には、懐妊継続に問題はないと、この事は他言無用と言いましたのに、陛下に報告しましたのね。」
「医師団には、診察結果は何でも必ず報告するように命じてある。私の命に従ったまでだ。医師団の責ではない。」
エドガーがそう言うと、
「分かりましたわ。でも、そういうことですから、懐妊について何も問題はございません。陛下は執務にお戻り下さい。
あら、私、陛下がいらっしゃって頂いているのに、お茶もお出ししないままでしたわ。申し訳ありません。陛下、まだお時間が大丈夫でしたら、少しお待ちいただけますか?お茶をお淹れ致しますわ。お菓子もご用意致しますわね。」
本当に何も問題ないかのように、妃はいつも通り普通にエドガーに接している。
…だが
「よい。茶は要らぬ。それよりまだ話がある。」
立ち上がってお茶を用意しようとしたマリアンヌを、エドガーは再び椅子に座らせた。