44.SIDE:ミューラ・マ・ノーストキタ 3
「まさか、お兄様。お兄様は、フェリオ王子を廃するおつもりですか?お兄様は、フェリオ王子よりもフィオナ王女をお選びになるということですか?フィオナ王女の魔力でしたら、王位継承に反対する五星はいないとは思います。ですが、フェリオ王子を廃してまでとなれば、国家として問題がありますわ。」
「いや、そうではない。フェリオかフィオナかどちらかしか王位を継承する子がいないのだ。」
「意味が分かりません、お兄様。フェリオ王子とフィオナ王女は双子ではないのですか?」
「そうだ。あの二人は双子であって、双子ではない。」
「まさか、お兄様。」
「うむ。実はな…」
「まさか、お兄様。フィオナ王女は、お兄様の隠し子?」
「はぁ?阿呆か、お前は。お前の発言の方がまさかじゃ。フィオナは、エドガーとマリアンヌの娘と何回も言っておるではないか。」
「では…、フェリオ王子の方が本当はお兄様の子供で、隠し子だったということですか?」
「はぁ?馬鹿か、お前は。違うわ。わしに隠し子なんかおらぬわ。」
「ああ、よかったですわ。嫌がるイーデアル公爵夫人をお兄様が無理矢理手込めになさったのかと思いましたわ。」
「…ちょっと待て。何でわしがイーデアル公爵夫人を手込めにしなければならないのだ?」
「フェリオ王子もフィオナ王女も、マリアンヌ様にそっくりですもの。マリアンヌ様は、イーデアル公爵夫人にそっくりですわ。あの二人が双子でないなら、どちらか一人、お兄様がイーデアル公爵夫人を手込めにして生まれたお兄様の隠し子と思ったのですわ。」
「はぁ、お前には呆れたわ。もうよいわ。そんなわけないであろう。あの子たちは、エドガーとマリアンヌの子供だ。それは間違いない。」
「でも、双子ではないと。」
「そうだ。あの二人は、二人で一人なのだ。」
「まさか、フィオナ王女は。」
「うむ。実はな…」
「まさか、フィオナ王女は。…フェリオ王子の女装?」
「はぁ?違うわ。フィオナは、エドガーとマリアンヌの娘とさっきから言っておる。何度言えばわかるのだ。阿呆か、お前は。」
「フィオナ王女が男装しているのですか?」
「男装ではない。『呪詛』だ。フィオナの昼間の姿がフェリオなのだ。フィオナは呪詛で王子にされておるのだ。昼間、フィオナは数時間しか女児の姿になれぬ。魔力がなくなれば、フィオナは男児のフェリオの姿に戻ってしまうのだ。」
「王家の王女に呪詛をかけた者がいたと言うのですか?お兄様。フィオナ王女は五星の王女ですわよね。そのフィオナ王女に呪詛なんて、そんな愚かな五星がいるなんて…。」
ミューラは、考えた。五星は、国中でも数人。フィオナ王女が生まれた後に亡くなった五星は一人しかいない。
「…まさか?」
「そうだ。フィオナに呪詛をかけたのはエドガーだ。」
「エドガーがどうして自分の娘に呪詛をかけたのですか?」
「はっきりとした理由は、分からぬ。だが、あの時のエドガーは正常な判断ができなかったと思われる。」
そうして、祖父王ジャンは、異母妹のミューラに、フィオナが生まれた時の状況を説明した。
黙って聞いていたミューラだったが、
「マリアンヌ様が双子を懐妊したとは聞いていました。MRの違う双子とは知りませんでした。ただ、予定日よりずいぶん早くご出産され、そのせいで、フィオナ王女は体が弱くイーデアル公爵家で静養されていると聞いていましたわ。
…まさか、そのようなことだったとは。お可哀想に…」
大叔母ミューラは、フィオナを気の毒に思い、涙が溢れてきた。自分もフィオナのために何かしてあげたいと思ってしまった。
兄王夫妻や、イーデアル公爵夫妻の気持ちも察するにあまり余る。
「ミューラ、わしの孫は、フィオナだけなのだ。わしはあの子に王位を継いでもらいたい。
フィオナとフェリオが同一人物だと最初に言わなかったのは、フィオナを『王』とすることにお前がどう考えるか知りたかったからだ。
フィオナが王女として生きるのであれば、フェリオは、優秀な「王子」として知られているフェリオがいなくなる。そして、体の弱い今までイーデアル公爵家で静養していた「王女」が王位を継ぐことをお前がどう思うのかをな。
そして、今の法のまま、フェリオがいなくなれば、王位継承権を持つ男児がいなくなる。そうなってから法を改正したり、誰を王に推すのかを話し合うのでは遅いのだ。
国内外に、要らぬ争いが生じるのを避けるためにも、フェリオがいるうちに、法を改正し、王位継承権をフィオナにも持たせたいのだ。
フィオナは、王子として生きるのか、王女として生きるのか、決めておらぬ。今のあの子の魔力では女児でいられる時間は短く、今まで通りほとんどの時間を男児として過ごしておる。まだ子供で、男女の違いもあまりないから実感も沸かないだろう。
しかし、大人になればそうはいかぬ。あの子は、男性なら王となり、女性なら女王となるのだ。そして、伴侶を得、王家を存続させなければならぬ。あの子は五星だ。相手は必ず四星以上でそれなりの身分の者でなくてはならぬ。」
「そうですわね。お相手を初等学校か、遅くても中等学校のうちには考える必要がありますわね。」
「わしのところに、婚約者候補の打診がいくつかきておる。わしの年齢の考えると、あの子は成人するとすぐにでも王位を継承することになるだろう。王族の未来を考え、フェリオには数人の妃をと望む家臣もおる。そして、フィオナもだ。フィオナが女王となった時の王配にふさわしい男子を決めておかねばならぬ。フィオナに年齢の近い侯爵家以上の嫡男かそれに準ずる者で四星以上。候補は数人しかいない。」
「わしは、あの子が王子を選ぼうが王女を選ぼうが王位を継承できるように早急に法を変えたいのだ。あの子の伴侶のこともあるしな。故にイーデアル公爵と法の改革を進めている。お前にも協力してもらいたい。 」
「分かりましたわ。お兄様。但し、一つ条件があります。」
「何だ?」
「私をフィオナ王女の後見人にしていただきたいのですわ。
フェリオ王子の後見人は、イーデアル公爵様ですわよね。ならば、私がフィオナ王女の後見人になっても問題ないですわよね?」
「うむ。よいだろう。」
「ありがとうございます、お兄様。うふふ、私とても嬉しいですわ。フィオナ王女のことは、私に全てお任せ下さいね。ああ、とても楽しみですわ。」
自分たちがフィオナを守るために必死なのに、何がそんなに楽しくて、嬉しいのか…。『まさか、まさか』とお馬鹿発言を連発した挙げ句、最期にはとても楽しそうにしている異母妹に、兄王ジャンはちょっとだけ不安を感じた。




