43.SIDE:ミューラ・マ・ノーストキタ 2
少し狭い会議室に移動した兄と私。
私は、すぐに兄に話しかけました。
「国王陛下。」
「ここは、わしとお前だけだ。兄と呼んでよい。」
「では、遠慮なくそう致しますわ。お兄様。単刀直入に聞きますわね。あの子は何者ですか?」
「エドガーとマリアンヌの娘だ。そう言っただろう。あの子は間違いなくこの国の王女だ。」
「ええ、そうですわね、お兄様。あの子の顔立ちは母親のマリアンヌ様に、目元は父親のエドガーによく似ています。そして、誰よりも双子の兄フェリオ王子にそっくりですわ。」
「そうか、わしもそう思うぞ。かわいいだろう。」
「ふざけないで下さい、お兄様。私が言いたいのはあの子の顔立ちではありません。あの子の魔力ですわ。あの子の魔力は五星でも桁外れです。私だって元この国の王女ですわ。王族に限らずこの国の五星の者の魔力くらいだいたい分かります。あの子の魔力は、この国のどの五星よりも強い。お兄様や、亡くなったエドガーよりもです。」
「まぁ、そうかも知れぬな。」
「お兄様、どうしてあの子を体が弱いなどと言ってイーデアル公爵家で静養させていたのですか?あの子の魔力は体の弱い者の魔力ではありません。まだ八歳の子供とは思えないほどの膨大な魔力です。あの子の魔力でしたら、この国の王位どころかこの世界を支配することも可能なほど強く感じました。」
「そうか、お前もそう思うなら、わしとイーデアル公爵が進めている王族に関する法律の改正に賛成してくれ。」
「女性にも王位継承権を与えるというあれですか?」
「そうだ。お前の賛成があればほぼ改正できる。」
「私、反対致しますわ。」
「何故だ?」
「何故って、そうおっしゃるお兄様がおかしいですわ。お兄様はこの国をどうなさるおつもりですか?私、お兄様のお考えが理解出来ません。」
私は、少しイライラしていました。
兄は、私の質問に対してのらりくらりとズレた回答をし、挙げ句のはてに王族に関する法律の改正に賛成しろと言ったからです。
「お兄様、私、お兄様のお考えが理解出来ませんわ。お兄様にはフェリオ王子がいらっしゃるではありませんか。フェリオ王子は、優秀な王子です。学校の成績もさることながら、剣術もマナーも人格も魔力も全て優れていると聞いています。ご令嬢をフェリオ王子の婚約者にと思っている貴族夫人は多いのですわよ。」
「そうか、フェリオは優秀だからな。そうであろう、そうであろう。」
うん、うんと満足そうに頷く兄に私はさらにイライラしました。
「お兄様もそう思われるのでしたら、何故女性に王位継承権をと言うのですか?フィオナ王女が王位継承権を持てば国が割れます。」
「ほう、国が割れるのか。何故だ?」
「フィオナ王女の魔力ですわ。私もフィオナ王女の魔力に触れるまで、女性に王位継承権があっていいと思ってましたわ。いえ、むしろ、そうすべきだと思ってましたわ。今、王位継承権を持つ者は、フェリオ王子と私たちの弟だけですから。弟の年齢を考えれば、実際には、フェリオ王子一人と言えます。将来のことを考えれば、五星の妹フィオナ王女が王族として残る方がいいと思ってましたわ。
ですが、フィオナ王女の魔力は別格でした。あの子の膨大な魔力に触れた五星は、あの子の側であの子の治める国を見てみたいと思うでしょう。そう、例えフェリオ王子を廃してでも。
お兄様は、フェリオ王子を推す者とフィオナ王女を推す者が現れたらどうなさるおつもりですか?この国の将来をどうお考えなのですか?」
「フェリオとフィオナの二人に王位継承権を与え、この国の将来の王とする。実際に王位を継ぐのは、どちらか一人のみだがな。」
「いけません、お兄様。この国を潰すおつもりですか?フィオナ王女に王位継承権を与えるのは、危険です。あの子の魔力はこの世界を支配する。そんな可能性を秘めた大きな魔力を持った子です。あの子の魔力に触れた五星は、皆、あの子の言うことに従うでしょう。」
「お前は、この国のためにフィオナに王位継承権を与えるなと言うのか?フィオナの魔力に触れて、フィオナの力を分かっていながらフィオナは王位継承権を持ってはダメだと言うのか?」
「そうではありませんわ。フェリオ王子がいるのであれば、フィオナ王女は、今までの慣例通り四大公爵家のどれかに嫁ぐのがいいと思うのですわ。余計なトラブルを避けるためにも。」
「そうか、なら、フィオナが例えばお前のところのノーストキタに行ったとして、フィオナが王位を望めば、お前はどうする?いや、フィオナが望まなくでも、フィオナの魔力を知った周りがフィオナを王に推せばどうする?」
「…こんなこと言ってよろしいですの?」
「構わぬ。お前の率直な意見が聞きたい。」
「うちにきた時はもちろんですが、もし、来なかったとしても、おそらく私はフィオナ王女の方に付くでしょう。あの子に逆らうことは出来ないと判断します。」
「フェリオを推すのではないのか?」
「フィオナ王女がお望みになるなら、仕方ないでしょう。あの子の魔力はそのくらい大きいですわ。魔力が力の全てですわ。もし、フェリオ王子が王位を継承したとしても、フィオナ王女が次の王、もしくは、新しい国の王となられると思います。」
「ならば、最初からフィオナに王位継承権を与えても同じではないか。フィオナが王位継承権を得た後で、フェリオが王位継承権を辞退するのはどうだ?フィオナが王位を継承しても問題ないか?」




