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41.新しい魔法の先生

三学期の学年末休みに入った初日の朝、フェリオは、フィオナの姿で祖父のところに行った。

祖父は、フィオナの新しい魔法の先生、東西南北四大公爵家の1つ、北の公爵家ノーストキタに嫁いだ大叔母ミューラ・マ・ノーストキタを紹介してくれた。


「フィオナ、そなたは会うのが初めてだろう。北の公爵エリアノーラ・マ・ノーストキタの母親のミューラだ。わしの異母妹だ。明日から、そなたに魔法を教えることを了承してくれておるぞ。」


フェリオの姿では、もちろん会ったことがあるが、フィオナとしては、初対面だった。


「初めまして、フィオナ王女様。ミューラと申しますわ。まぁまぁ、本当にフェリオ王子様にそっくりですわね。御静養先のイーデアル公爵家から漸く王城に戻られたとお聞きしましたわ。おめでとうございます。」


「ありがとうございます。ミューラ大叔母様。戻ったばかりで王女としてまだ不慣れですがよろしくお願いいたします。」


「まぁまぁ、可愛らしい王女様ですわね。こちらこそよろしくお願いいたしますわね。明日からですが、少しよろしいかしら?」


「はい。大叔母様。」


手を差し出す大叔母にフィオナは応えた。



……………


1ヶ月前


いつも通り学校から帰ったフェリオは、

フィオナの姿で母方の祖父ゴルディオから魔法を学んでいた。


「フィオナ王女様。国王様から既にお聞きとは思いますが、ノーストキタ家のミューラ様が王女様の魔法の先生になられることが決まりました。五星の王女の魔法の先生は、五星の女性と決まってます。私とは、後1ヶ月で終わりです。私は、対外上はフェリオ王子様の魔法の先生のままですが、フェリオ王子様に魔法をお教えすることはもうありません。」


「はい。聞いています。イーデアルお祖父様。今までありがとうございました。」


「フィオナ王女様、ミューラ様に限らず、五星の者は皆、同じ五星の相手の魔力を測りたがります。侮られてはなりません。最初が肝心です。いいですね。遠慮することはありません。バシッっと王女様の魔力を見せつけるのです。先手必勝です。」


「はい。イーデアルお祖父様。」


…………


大叔母ミューラは、フィオナと初対面に関わらず、フィオナの魔力を測りにきた。イーデアルの祖父の言う通りだと思ったフィオナは、にこやかな表情を崩さないまま、差し出す手に全力で魔力を込めた。

大叔母の手を取った瞬間から、己の魔力で大叔母を支配する。


「えっ?きゃあああああ。」

大叔母ミューラは、驚くと同時に恐怖を感じて思わず悲鳴を上げた。

ミューラは、五星の子どもに魔法を教えるのは初めてではない。

娘のエリアノーラ、弟の長女と教えてきて、フィオナは三人目の五星の女児。子供の頃の魔力はだいたい同じようなものだと思っていた。八歳の子供、しかもずっとイーデアル公爵家で静養していた体の弱い王女だと侮っていた。

ところが、手を取った瞬間、いきなり全身を魔力で拘束され、そのまま崖から谷底に突き落とされ凍えるような奈落の底に引きずり込まれるような恐怖を感じた。

「嫌あああ。助けて~。」

ブルブル震えて、その場にうずくまり叫んだ。


びっくりしたのは、フィオナも同じだった。

「大丈夫ですか?大叔母様。申し訳ありません。失礼します。」

フィオナは、うずくまったミューラを優しく抱きしめ、今度はゆっくりと魔力を送る。


『えっ?何これ?暖かい。』

凍えるような恐怖の魔力から、ゆっくりと優しい暖かい魔力に変わっていく。暖かい春の日射しのようなぽかぽかとした心地よい魔力で全身を包まれ、ミューラはずっとこのまま微睡んでいたいような幸福感と安心感を覚えた。


「もう大丈夫です。フィオナ王女様。ありがとうございます。」

ミューラは、フィオナの手を取り、フィオナを立たせると、自分は、もう一度膝を降り、目線をフィオナよりも下にした。


「よかったです。大叔母様。申し訳ありませんでした。」


「いえ、フィオナ王女様。王女様の魔力は既に私よりも上でした。私ごときがお教えすることはなさそうですわ。イーデアル公爵様に魔法を習われたのですか?」


「はい。」


「さすが、イーデアル公爵様ですわね。私よりもこのままイーデアル公爵様の方が適任と思いますが、規則ですわよね?」


ちらりと国王を見たミューラに祖父王ジャンが答えた。

「五星の王女に魔法を教えるのは五星の女性と決まっておる。お前が嫌なら、次の候補はエリアノーラだ。」


「分かりましたわ。一度引き受けたからには私が責任持ってお教えしますわ。フィオナ王女様、改めてよろしくお願いいたしますわ。」


「はい。大叔母様。」


フィオナは、明日からの予定を大叔母と確認すると、祖父のところを後にした。

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