35. 二学期末休みの生活
二学期末休みの間、侍女長エルザはフィオナに遠慮なく厳しく礼儀作法を教えてくれた。
指先から目線、ちょっとした仕草も女性らしくと事細かく教えられた。
フィオナは、特に嫌とは思わなかったが、男児と比べるとたいへんだと感心しながら覚えた。
そして、今まで特に気にしなかった他人の所作の一つ一つも観察するようになった。
例えば、食事の時、男性と女性、祖父と祖母の違いを観察する。
祖父の一口は、普通サイズ~大きめ。
祖母の一口は、普通サイズ~小さめ。
祖母は、口を大きく開けたりしなかった。最初から最後まで優雅に感じた。
フェリオは、今まで気付かなかった祖母の女性らしい所作を感心して見ていたのだったが、祖母には、
『人が食事をしている姿をじろじろ見ることは行儀が悪い』
と言われてしまった。
たまにそんな失敗をしてしまっていたが、人を観察することは、新たな発見をしているようで楽しかった。
歩き方、声の大きさ、仕草など、男性と女性では、全然違って見えた。
どうして今まで気付かなかったのかと驚くほどで、フェリオは、男性のちょっとしたカッコいいと思う仕草や、女性のちょっとしたかわいいと思う仕草を、自分も取り入れてみようと思った。
侍女長エルザは、時々、父と母の話をしてくれた。
学生時代の話や、結婚してからの両親の話。とても仲のいい二人だったことは分かった。
そして…
『ですから、私もサラもエドガー様が姫様に呪詛をかけたことが信じられないのです。エドガー様は、決してそのようなことをする方ではないのです。何か理由があるはずなのです。サラは、未だに何故エドガー様があのような行動をおとりになったのか調べています。』
話の最後、エルザは、たいていこう言う。
「もういいのよ。今さら理由を知っても仕方ないわ。」
フィオナが言っても、
『いいえ、将来の姫様のためになります。おそらく姫様の魔力に隠された何かだとサラが言ってます。…………。』
また始まった。エルザは、両親の話になると長い。でも、嫌じゃない。
『私も、サラも、ドジルも私たちの同級生はみんな姫様のご両親が大好きだったのです。エドガー様とマリアンヌ様の代わりに私たちが姫様のお力になりますから、何でもおっしゃって下さい。』
決まり文句で締め括る。
「はい、はい。分かりましたわ。」
「姫様、「はい」は、一回です。」
「はい、はい。一回ね。」
「わざとですね。やり直しです。」
「ぷっ、あはは。」
「姫様、笑い方が淑女らしくありません。」
「いいのよ。雑談中のエルザも、礼儀作法の先生らしくないから。」
「姫様、明日はもっと厳しくお教えいたしますわよ。」
普段のエルザは、気さくな侍女だ。おそらく両親も学生時代、エルザやサラ先生、ドジルたちと冗談を言って楽しく過ごしたのだろう。
祖父たちから呪詛の話を初めて聞いた時には、両親のことはあまり考えたくなかったが、エルザの話を聞いているうちに、フィオナはどんどん両親が好きになっていった。




