34.侍女長の話 3
『サラ先生。』
入学式の時も、その他の時もサラ先生は優しく見守ってくれていた。
サラ・マ・ヨーデキール教授が王国の魔法医学の発展になくてはならない存在なのは、誰だって知っている。
サラ先生は、初等学校の先生をしながら、魔力研究や魔法医学研究アドバイザーとして忙しい日々を過ごしていることは知っていた。
本来の研究の他に初等学校の担任教師をしているのは、自分のためだろうか?
祖父たちも、自分のために、法を変えようとしたり、フィオナとして生きていけるように部屋、服、侍女、護衛などフェリオとは別に二人分用意してくれた。
フィオナの目にまた涙が溢れてくる。
やらなきゃいけない。自分を支えてくれる人たちに応えるためにも。この国の王子として、この国の王女として、今度は自分がこの国の全てを支え、守っていく。泣いてはいけない。遠い未来ではない。16歳、成人になり、高等学校を卒業するとすぐだ。後、8年と少し。
学生でいる間、その間にたくさんのことを学び、その先の未来に備えなくてはいけない。覚悟はできている。『王』になる。
エルザは、お茶と少し熱い蒸しタオルと冷たいおしぼりを持ってフィオナのところに戻ってきた。
フィオナは、それを受け取り、気持ちを落ち着かせた。
「フィオナ姫様、大丈夫ですか?」
侍女長エルザが心配そうに話かけた。
「エルザ、私が生まれた時のことを話してくれて礼を言います。ありがとう。祖父母からある程度は聞いていましたが、両親の気持ちが分からず、自分の存在さえも悲しく思っていました。この体にもまだ馴れず、つい、いつものフェリオ王子の気持ちでいました。ですが、フェリオの時は、王子らしく、フィオナの時は、王女らしく、体も心も完全に入れ替えましょう。王女として、未熟な私ですが、よろしくお願いします。」
母親譲りの可愛らしい顔立ちに父親そっくりの大きな瞳。今日、初めて会った時は、どことなく不安そうで、幼く、華奢に見えた。
しかし、さっきまで泣いていたのが信じられないくらい引き締まった顔と、強い決意が籠ったその深い眼差しでエルザを見つめそう言ったフィオナにエルザは魅き込まれた。
エルザは、自分が姫様が大きくなるまでお守りしたい。
子供らしく、慌てず、ゆっくり大きくなればいいとそう言って差し上げたいと、つい先刻までそう思っていた。
だが、自分を見つめるフィオナの小さな体が、今は、とても大きく頼もしく思えた。
エルザは椅子から立ち上がり、頭を下げ膝間付き、
「お任せください。フィオナ王女殿下。誠心誠意王女殿下にお仕え致します。」
と答えた。




