33.侍女長の話 2
侍女長は、フィオナにそのまま話続けた。
「姫様のいる部屋に入れたのは姫様の魔力に耐えれる五星の者だけでした。あのとき、姫様のいる部屋にいたのは、今の国王陛下とマリアンヌ様のお父上のイーデアル公爵様とサラ。サラは、公式では四星ですが、あの子は本当は四星半なのです。」
「四星半って?」
「四星の亜種らしいです。魔力の質は普通の四星ですが四星を越える魔力量を持ち、その魔力量は限りなく五星に近く、四星の能力を越えた魔法が使えるらしいです。とても珍しいMRでサラの曾祖父様が四星半だったらしいです。
ご存知のようにサラは魔法医学の天才です。サラは、エドガー様やマリアンヌ様のために双子が無事産まれるための研究をしていました。サラがマリアンヌ様の出産に遅れたのは研究で城にいなかったからです。エドガー様が姫様の部屋に入った時、サラは姫様のお祖父様方に姫様の容態を説明しているところでした。
サラや姫様のお祖父様方が姫様から少し目を離した隙に、エドガー様は、姫様をエドガー様のお部屋に連れて行ってしまったのです。
姫様のお祖父様方は慌てエドガー様を追いかけました。エドガー様はご自分の部屋に誰も入れるなと護衛の者たちに命を下し、引きこもりました。当時の国王陛下は、姫様のお祖父様ではなくエドガー様です。お祖父様方はエドガー様の部屋に入れませんでした。三人は必死で護衛の者たちに姫様の命に関わることだと説明し、エドガー様の部屋に入ることが出来ましたが、既に遅く、姫様に呪詛をかけた後でした。
サラから聞いたエドガー様の最後のお言葉は、
『父上、イーデアル義父上、この子をお願いします。私の代わりにこの子をお守りください。
サラ、私は、マリアンヌにこの子を守るように頼まれたのに約束を破ってしまった。この子を助けてやってくれ。頼む。』
です。そうおっしゃった直後にエドガー様はお亡くなりになられたそうです。」
「エドガー様が姫様に呪詛をかけた理由は分かりません。サラや姫様のお祖父方がエドガー様のお部屋に入られた時、エドガー様は何やらブツブツと呟いていたそうです。マリアンヌ様を失ったエドガー様は混乱状態で正常な判断が出来なかったのかも知れません。ですが、エドガー様の最後のお言葉は、姫様をお守りするものでした。」
「そして、お母上マリアンヌ様は、産後、ご自身のお体のことよりずっと姫様のことを案じておられました。
『姫、私の姫。姫を守って、姫、姫。』
うわごとのように何度も何度も姫様をお呼びになり、姫様をお守りするように申されていました。サラが姫様を見ているから大丈夫だと伝えると、マリアンヌ様は、私に、
『エルザ、もし私が姫にもう会えない時には、姫に伝えて欲しいの。母は姫を、あなたを愛していると。姫は生きて、自分らしく生きて幸せになりなさい。』
そうおっしゃりました。お母上マリアンヌ様のご遺言です。」
「母上…」
フィオナの目から涙が溢れてきた。
自分のせいで両親と兄は亡くなったと思っていた。
祖父は違うと言ってくれたが、両親は自分を本当は恨んでいたのではないかと思っていた。
自分は、要らない子供だと思ったりもした。
でも、違った。
自分は、ちゃんと両親に愛されて産まれてきた。
両親は、自分を愛してくれていた。
「サラは、姫様のお祖父様方に助言しました。姫様の魔力は五星の中でも凄まじく、おそらく、初等学校に行く前後の年頃になれば呪詛に打ち勝つくらいの魔力を得ると考えられると。女児の姿を取り戻した時のための対策をする必要があると。
サラは、魔力研究の権威ヨーデキール一族の中でも極めて優秀な人間です。サラの見解を信じた姫様のお祖父母様方は、サラの助言に従い、イーデアル家で静養している姫様がいることとして、呪詛で男児の姿に変えられたフィオナ姫様が女児の姿を取り戻された時のために備えたのです。
姫様付きの侍女は、便宜状、姫様とフェリオ王子様が同一人物と知らされておりますが、理由を知ることは禁じられております。
ドジルさえも、このことを知りません。
フェリオ様、フィオナ様どちらのお姿でも何かお困りのことがございましたら、私エルザをお呼びください。そして、学校で何かありましたら、サラが力になってくれるはずです。
姫様、お話が長くなり、申し訳ありません。今、お茶をご用意いたしますわね。」
フィオナの様子を見ながら話をしていた侍女長エルザは、ずっと泣いているフィオナのために少し席を外した。




