【閑話:2】26.サラに苦労する学長 2
初等学校に限らず、学校は、12の月が一番忙しい時期です。
卒業式、新入生学力テスト、体力テスト、魔力テスト、在校生学年末テスト、新入生入学説明会などの他にも
1の月からの新職員体制に備えての新旧職員引き継ぎ全体会議もあります。
子どもたちの学年末休み中に職員は新学期に備えるのです。
私は、その会議で今年度で退職や転勤する職員と新任の職員、1の月からの新体制を発表しました。
新体制は、既に旧役員会議で決定しています。
なので、新体制を初めて聞くのは転勤で新しくきた職員と新任の職員のみです。
今日初めて初等学校にきたサラ先生は、驚いていましたが、周りの職員のほとんどは旧役員会議でわかっていたことなので、比較的スムーズに全体会議は終わりました。
全体会議の後は、それぞれ担当に別れての引き継ぎ会議になります。
サラ先生、私、前副学長の三人は学長室に移動しました。
学長室の椅子にお座りになったサラ先生が私たちにおっしゃいました。
「ねぇ、私、担任を希望していたのに、どういうことかしら?」
ピリピリとした魔力がサラ先生から伝わってきます。
『『怖い。』』
私達は震え上がりました。
私も前副学長もMR三星。四星のサラ先生には遠く及びません。
私は、高等学校のセドリック・レリ・ヨーデキール学長先生の言葉を思い出しました。
『睨まれたら恐くてたまらない。逆らいたくない。』
セドリック先生はそうおっしゃってました。
同じMRでも、魔力量は人によって異なります。多い者は少ない者の倍以上あります。
セドリック先生も四星ですが、おそらくサラ先生は同じ四星の中でも相当多い魔力をお持ちなのでしよう。
逃げ出したくなる気持ちをなんとか抑え、私はサラ先生に言いました。
「担任は、高等学校を卒業したばかり新任や経験の浅い若い教師のする仕事です。魔法医療学科の教授であられたサラ先生は相応しくありません。旧職員と話し合い、サラ先生には学長が一番相応しいということになりました。本当は学長さえも畏れ多いくらいです。叔父上のセドリック・レリ・ヨーデキール学長先生や王国初等教育管理局にも許可を頂きました。」
「若い?若くない私には不向きだと、そう言いたいのかしら?」
しまった。女性に年齢的な発言は禁句でした。更にご機嫌を損なわれては、たいへんです。私は慌てて答えました。
「いえ、決してそのようなことはございません。」
ダラダラと嫌な汗が全身から吹き出し、体の震えが治まりません。
「まぁ、いいわ。もう決まったことみたいだから、今年は我慢してあげるわ。」
「はい。ありがとうございます。」
声まで震える。ちゃんと言えてるだろうか。
「だけど、来年はないわよ。絶対余計なことはしないでちょうだい。叔父様や他の方には私から言っておくわ。」
「はい。」
怖い、怖すぎます。魔力による威圧をビリビリ感じます。よく分かりました。サラ先生に逆らいません。むしろ、逆らうなんて無理です。私が良かれと思ったことは余計なお世話だったのですね。申し訳ありません。二度といたしません。
「出ていっていいわよ。」
「はい、失礼します。」
そう返事をして、ふと隣を見ると、前副学長は失神寸前。
「おい、行くぞ。」
小声で話しかけ、私たちは逃げるように学長室から出たのでした。




