22.SIDE:アーロン・マ・ライラック
オレの名前は、アーロン・マ・ライラック。
今年、初等学校一年生になったオレは、幸運にもフェリオ王子殿下と同じクラスになった。
入学式の日、オレは同じクラスの平民がフェリオ王子殿下に馴れ馴れしく話かけたことに腹が立ち、思わずその子を殴ってしまった。
泣いているその子を見た時も、自分は当たり前のことをしただけで悪いことをしたとは思わなかった。
だけど、フェリオ王子殿下は、王族にも関わらずオレたちと同じ平等がいい、みんなと仲良くしたい、その子と友達になりたいとおっしゃった。
オレは驚いた。王族が平民なんかと友達になりたいと言うなんて思わなかった。
殿下は、オレが殴ったせいで泣いているその子に優しく話しかけ立たせてあげていた。
オレは、殿下にも、その子にも申し訳ない気持ちになった。
恥ずかしくて何も言えなくなってしまったオレにも、殿下は優しく声をかけてくれた。
殿下のおかげで、オレはその子に謝ることができ、さらにその子やクラスのみんなと仲良くすることができた。
二の月になった。
一の月は、毎日午前中授業だったが
二の月は、毎週火の曜日、午後にも授業があるようになった。
そして、二の月の最初の火の曜日に遠足があった。
遠足は、各学年毎に日にちと場所が違うが、同学年は全員一緒だった。
遠足には、各クラスの担任の先生以外に、学長や、保健室の先生、他には学校事務員や学校警備員など普段はあまり関わりのない人も一緒だった。
一年生は、王都中心にある王立公園に歩いて行った。
大人の男性が歩いて約45分と学校からそれほど遠くにあるわけではないが
一年生のオレたちが歩くと一時間以上かかった。
普段歩き慣れている平民の子は男児も女児も元気に目的地に着いたが、貴族の子、特に貴族の女児はくたくただった。
途中で歩けなくなって座り込み、みんなが歩く列から脱落する子らもちらほらいた。
そんな子らは、後からゆっくり保健室の先生などに連れられて遅れて目的地に到着した。
初等学校の時はみんな平等とはいえ、普段威張っている貴族の子が、平民に多少の劣等感を覚える最初のイベントが遠足だった。
公園に着いた一年生は、一時間ほど自由に遊び、また全員が集まり、お弁当を食べ、また一時間ほど自由に遊び、学校に戻るという日程だった。
フェリオ君や平民の同級生は、一時間くらい歩いても平気みたいだった。
だけど、オレはそうではなかった。ライラック子爵家の嫡男のオレは、両親に大切に育てられ、初等学校に入る前は、剣術などで体を鍛えるより勉強や魔法の練習に力を入れていた。
オレは、自分が子爵家の嫡男であることを誇りに思っていたし、プライドもあった。
剣術の稽古も全くしなかったわけではなく、自分ではそこそこ頑張ってきたつもりだった。
でも違った。同級生のヤツらと授業間休みに遊ぶ時や、体育の授業、なんとなくオレは、他のヤツに比べ体力的に劣っている気はしていた。
遠足も、楽しかった。最初は。一時間歩いて目的地に着いた。疲れた。でも、クラスのほとんどのヤツらは平気で、公園に着くとすぐ遊び始めた。休みたかったがつられて遊んだ。ヘトヘトになった頃、お弁当の時間になった。
お腹が空いているはずなのに、お弁当がなかなか食べれない。みんな食べ終わった。オレだけまだだったが「お腹いっぱいだから。」とお弁当を残した。
また一時間の自由時間。最初は遊んだがすぐ疲れて休憩することにした。
休んでいる間、ぼ~~っと周りを見ていた。
平民の子は
男児も女児も楽しそうに遊んでいる。いきいきとした顔で、一部の先生も巻き込んで走り回っている。
休んでいるのは、貴族の令嬢と一部の貴族の令息のみ。
貴族令嬢たちは、
知り合いなのだろか、一ヶ所に集まって楽しそうにおしゃべりをしているようだ。
貴族令息は、
二、三人が一緒にいるくらいの少人数で座って何かを話している。自分が知っている令息が多い。楽しそうではなく、面倒くさそうな雰囲気だった。
オレは思った。もし、自分がフェリオ君と同じクラスでなかったとしたら
初等学校は、皆平等と言いつつ、それに納得せずに、平民と友達となることもなく一部の貴族で集まってなんとなく過ごす毎日だっただろう。
ちらりと休んでいる他のクラスの貴族令息を見る。
きっと、あんな顔をして、つまらなさそうにしていただろう。
フェリオ君は、この国の王孫王子殿下で次期国王。MRだって五星。最高の身分と最高のMR。
にもかかわらず、そのことを威張ったりせず、気さくで優しい。
授業間休みに、勉強が分からないクラスメートがフェリオ君のところに集まってくる。みんな平民の子だ。フェリオ君は、嫌な顔をしないで、ニコニコと優しい笑顔で丁寧に教えている。
別の授業間休みは、鬼ごっこやボール遊びなどでみんなで遊ぶ。男児も女児も一緒にだ。
オレもフェリオ君やみんなと遊ぶのは楽しい。
今日の遠足も、フェリオ君は大人気だ。誘われるままいろんな子と遊んでいる。
そして…
「アーロン君、今からクラス全員で鬼ごっこをするんだ。先生も一緒だよ。アーロン君、大丈夫?まだしんどい?遊べそうならアーロン君もおいでよ。」
みんなの輪から抜けて、一人でいるオレを誘いに来てくれる。
「フェリオ君、ありがとう。もう十分休んだから大丈夫だよ。」
「よかった。でも、無理したらダメだよ。疲れたら、ぼくにいってね。」
「うん、わかった。」
「おーい、フェリオ君、アーロン君こっちだよ~。」
ジンクス君やクラスの仲間がオレたちを呼んでいる。
「今行くよー。行こう、アーロン君。」
オレの手をとり、フェリオ君が走り出す。
『楽しい。フェリオ君と同じクラスでよかった。』
初めての遠足は、初等学校時代のオレの一番の思い出の一つになった。




