116.イーデアル領訪問 1
「フェリオ、昨日はわしが悪かった。そなたの話を頭ごなしに否定したことは反省しておる。ミューラにも言われた。わしには、そなたが安心して学校に通わせるだけの魔力がないと。確かにその通りだ。本当は、そなたが成人するまでわしが守るつもりだったが、わしにはその力がない。成人前にそなたに王位を譲ることも考えておる。」
「お祖父様、ぼくも昨日はやり過ぎました。申し訳ありません。」
「いや、そなたが心配するのも無理はない。わしの魔力は若い頃の半分近くまで減っておる。国王の魔力がこの程度では他国に国力が落ちていると思われても仕方ない。イーデアル領のことは、わしの魔力が落ちているからでもある。今日、イーデアル公爵とも話たのだが、そなた、明後日からイーデアル領に行ってみないか?急なことゆえ、イーデアル公爵は一緒に行けないがカルロス殿が案内してくれることになった。ミューラにも同行を依頼した。学期末休みは半分終わってしまったが、今日を除いて後8日間残っているし、三学期に間に合わなくてもかまわないから行ってイーデアル領を見てきなさい。イーデアル公爵もナシュル殿が王都に戻り次第遅れてそなたたちと合流することになっている。」
「いいのですか?ぼく、行きたいです。」
「ああ、行っておいで。フェリオで行くかフィオナで行くか決めなさい。どっちでも大丈夫だ。同行するのは、ミューラとカルロス殿だから、以前ノーストキタ領に行った時のようにフィオナベースでもかまわない。フェリオとして行くならそのままイーデアル領視察でよいが、フィオナとして行くならフェリオは体調不良とすればよい。フェリオとして行くよりも、フィオナとして行って両方の目で見てくるのでもよいと思うぞ。」
「ぼく、フィオナで行きたいです。ミューラ大叔母上が一緒なら。」
「そうか。分かった。では、明日準備をしなさい。出発は明後日の早朝だ。イーデアル領まで馬車で二日間かかる。そなたたちがイーデアル領に着いたら、ナシュル殿は王都に戻られる。なのでナシュル殿は、フィオナとフェリオが同一人物と知らないが、フィオナの姿でも問題ない。」
「ナシュル叔父上は知らないのですか?」
「ああ、フィオナはイーデアル領で静養していることになっていたが、そなたのいる部屋は結界が張ってあった。結界を張っていたのはそなたの曾祖父だ。イーデアル領本宅にナシュル殿や、カルロス殿の家族がいる時だけみたいだがな。そなたの曾祖父はあまり体調がよくないらしい。行ってそなたの元気な姿を見せてあげなさい。お喜びになられるだろう。」
……
「フィオナ王女様。イーデアル領本宅に着きました。どうぞこちらに。」
一時間前にイーデアル領に着いて領内を少し回った時にフェリオはフィオナの姿になった。もう夕方なので、今日はこのまま寝るまでフィオナの姿だ。
「異母兄上、お帰りなさい。」
叔父のナシュルが出迎えてくれていた。ナシュル叔父は、母の実弟だ。カルロス叔父も母の弟だが、異母弟だ。
「ナシュル、今戻った。紹介しよう。フィオナ王女殿下とミューラ・マ・ノーストキタ様だ。」
「お初にお目にかかります。フィオナ王女殿下。ご健康になられイーデアル領に再びお戻りになられたこと歓迎しお喜び申し上げます。ゴルディオ・マ・イーデアルが次男ナシュル・レリ・イーデアルと申します。ミューラ・マ・ノーストキタ様、遠路はるばるのお越し歓迎いたします。どうぞこちらに。」
フィオナとミューラは、レリーリアラが立ち入り禁止だと言っていた三階フロアーに案内された。
ミューラは三階の客室に、フィオナは三階のフィオナの部屋に案内された。フィオナは驚いた。イーデアル本宅に行くことが決まったのは4日前、しかも夜になってからだ。フィオナの部屋は、以前からフィオナが生活していたように全てが揃っている。
「如何されましたか、フィオナ王女殿下。殿下と異母兄上が王都に戻られてからは、私が異母兄上に代わり殿下のお部屋を管理していました。殿下がいつお戻りになられても大丈夫なようにお部屋は以前のままにしております。」
「ありがとうございます。ナシュル叔父様。」
「夕食まで一時間ほどありますので、お部屋でごゆっくりお過ごしになられてください。長旅でお疲れでしょう。」
「いえ、大丈夫ですわ。曾祖父様にお会いしたいです。私がご挨拶に行ってもよろしいでしょうか?」
「はい。ですが、祖父は、今、体調が悪く起き上がりお話することが難しいです。寝たままでの御無礼をお許しください。異母兄上が今お会いになっておられますので、ご案内いたします。」
叔父のナシュルに案内されて、曾祖父に会いに行く。曾祖父はずっと自領と静養中のフィオナを守っていたので、フェリオの姿でも会ったことがない。カルロス叔父は、時々王都に来ていたが、曾祖父は自領のみだ。若い頃から曾祖父は馬で自領を駆け回るのがお好きな方だったらしい。王宮仕事は性に合わないらしく、重要な会議などの時のみ王都に戻り、後は自領。なので、祖父は若い頃からずっと王都で王宮仕事をしている。祖父に爵位を譲られてからは、曾祖父は王都には戻っていないらしい。若い頃の曾祖父は、ワイルドな男性だったらしい。どんな方なのだろうか?少し、緊張する。
曾祖父の部屋に通される。カルロス叔父がいて、フィオナとナシュルに話しかけた。
「ナシュル、お前は準備に戻るといい。ここは私が見ている。フィオナ王女殿下。祖父は寝たままでご挨拶出来ません。よろしいでしょうか?」
「はい。曾祖父様とお話してもよろしいでしょうか?」
「どうぞこちらに。お祖父様、フィオナ王女殿下です。お祖父様、マリアンヌ異母姉上がお産みになられた我等の王女殿下がイーデアルにお戻りになられました。」
フィオナが曾祖父の側に行くと、曾祖父は起き上がろうとする。フィオナは慌てて、それを止めた。曾祖父に無理をさせたくない。
「はじめまして、曾祖父様。フィオナです。体調は大丈夫でしょうか?祖父王ジャンより曾祖父様が私の部屋に結界を張ってくれていたと聞きました。私のためにありがとうございます。」
曾祖父は、涙を流しながら、フィオナの手をとり、うんうんと頷くだけだ。何か言いたいようだが、言葉に出来ないみたいだった。
「カルロス叔父様、曾祖父様を癒すために少し私の魔力を送っても大丈夫ですか?」
「はい。大丈夫です。私は、席を外した方がいいでしょうか?」
「どちらでもいいのですが、私達に触れないようにお願いいたします。四星の方には少し強く感じるかも知れませんので。」
「ならば、私は、少し席を外しましょう。30分ほどで戻りますので、祖父をお願いいたします。」
カルロスはそう言って部屋を出て行った。
フィオナは、曾祖父にゆっくりと優しく魔力を送った。弱った体をいきなり刺激しないようにゆっくりゆっくり凝って固まった体を解すように、途中血流の悪くなった所を見つけると、ゆっくり解した。曾祖父は、気持ち良さそうに目を閉じている。さっきまでの辛そうな顔がだんだん穏やかになっていく。良かった。
曾祖父は、祖父に似ている。曾祖父→祖父→カルロス叔父→レリーリアラの弟妹とそっくりだと思った。ナシュル叔父にフィオナの姿で会ったのは初めてだが、フェリオの姿でなら何度も会っている。ナシュル叔父は、祖父とシーランお祖母様の両方に似ていると思っていたのだが、今日久しぶりに会ったナシュル叔父は、お祖父様に似てきたように思える。母上はシーランお祖母様に似ていたらしいが。
「曾祖父様。私の魔力は強くないですか?どこか痛い所はありませんか?」
フィオナは曾祖父に話し掛けたが返事がない。曾祖父は眠ってしまったようだ。フィオナはそのまま叔父が戻るまで曾祖父に魔力を送った。僅かな量だが、こんなに長く癒すために魔力を送ったのは初めてだった。




