11.祖母の後悔
祖父のところを後にしたフェリオは、そのまますぐに祖母を訪ねた。
「お祖母様、イーデアルお祖母様、あの、えっと、ぼく……」
祖母たちのところを訪ねたのはいいが、どう話せばいいのか分からない。
「フェリオ、ごめんなさい。今まで本当のことを言えなくて。」
「お祖母様が謝ることではないです。」
俯いてそう答えたフェリオに祖母は
「いえ、私が、私が。エドガーたちのことをもっと考えていればこんなことにならなかったのです。」
「エドガーが生まれた時、私、正直ほっとしたのですよ。五星の王子だったから。最初の子が四星、もしくは五星でも姫なら、私は第二妃を陛下にお薦めするつもりでした。陛下は私に『これで王家も安泰だ。次の子は、まぁ、授かれば嬉しいが無理することもなかろう。第二妃も必要ない』とおっしゃってくださったので、その言葉に甘えてしまったのです。」
「イーデアル公爵家の長女マリアンヌ様と婚約が決まった時、息子は『第一王子が四星でもその子に王位を継承させる。第二妃は要らない。もし姫だけなら、叔父上の王子を養子にする。』って宣言したのよ。素敵だと思いました。二人がお互いに愛し合っていたのは知ってましたから。そのうち男児が生まれるでしょうと、自分が同じ立場だった頃のプレッシャーも忘れて安易に考えてしまいました。」
祖母は震えるような声でボソボソと話を続けるのを
フェリオは黙って聞いていた。
「愛する妃と王子を同時に亡くして絶望したエドガーは、あなたを王子に変えることで男児を得なければならない束縛から解放されたかったのかも知れません。でも、そこまでしなければならないほど追い詰められていた息子の気持ちをもっと早く分かってあげるべきでした。」
「そして、あなたのお母様のことも。エドガーの妃、マリアンヌ様は、あなたたちを授かった時、とても嬉しそうでした。MRが違うと分かってからも変わりなく、エドガーと二人幸せそうにみえました。私は、安心してしまいました。任せて大丈夫だと。二人がどんな覚悟で子を生むつもりだったのか、私がもっと分かってあげるべきでした。
フェリオ、もう少ししたら女性にも王位継承権が持てるようになることを聞きましたか?」
「はい、お祖母様。」
「もっと早くそうなっていればこんなことにならなかったかも知れません。私たちがもっと……」
母方の祖母イーデアル公爵夫人が泣き崩れる祖母を支えながら言う。
「王妃様、娘のマリアンヌは、エドガー様の妃としての責任のためだけに子を産もうとしたのではないと思います。娘はエドガー様を愛していました。愛する人との子だからこそ産みたかったのではないでしょうか。
私も、MRの違う双子を授かったと聞いて娘を心配して訪ねました。娘は、私に笑って言いました『この子たちは私の命に代えても守ってみせるから心配しなくても大丈夫だと』とても幸せそうでした。エドガー様も協力してくれていると、嬉しそうに話してくれました。」
「ええ、ええ、そうね。そうだったわね。MRの違う双子と分かってからもあの二人はいつも幸せそうでしたわね。
フェリオ、あなたに呪詛をかけた父親だけど、エドガーを許してあげて。二人は、あなたたちをとても大切に思っていました。あなたは、二人に望まれて生まれてきた。それだけは分かってあげて。」
「はい、お祖母様。」
母方の祖母、イーデアル公爵夫人がフェリオに優しく話しかけた。
「フェリオ王子様、何か困ったことがありましたら何でもおっしゃって下さい。今まで男児の姿でしたが、女児の姿になった時に不安に思うこともあるでしょうから。」
イーデアル公爵夫人の言葉に祖母が続く。
「そうですよ。フェリオ、いえ、フィオナ。女性のことは女性に相談するのが一番です。いつでも私のところに来なさい。」
さっきまで泣き崩れていたのに、急に張り切りだす祖母。
『……いや、自分ずっと男児だと思ってたので
今日、いきなりそんなこと言われてもまだ実感ないです。』
と心の中で思ったが、
「はぃ、ありがとうございます?」
と答えた。
そして、さっきまでとうってかわってニコニコしながら、祖母たちは、二人で楽しそうに色々話しだした。
「そうだわ。フィオナの服が必要ね。女の子用の服選びなんて嬉しいわ。どんな服がいいかしら。」
「王妃様、ドレスもあった方がいいですわ。男児と違って女の子のドレス、しかも王女殿下のドレスとなると作るのに時間がかかります。」
「そうね、早い方がいいわね。それに、下着も、夜着も、夜中に姫になるなら必要だわ。」
「王妃様、先ずはサイズを測らないといけませんわ。」
「そうね、体に合わなければいけないものね。そうしましょう。あら、そう言えば、フィオナには会ったことがなかったわ。フィオナはどんな女の子なのかしら?フェリオは夜しか姫になれないのかしら?フェリオ、今すぐフィオナにな…。」
『何、このノリ?お祖母様同士が仲が良いのは知っていたが、自分と話す時と全然違う。』
目の前の自分を忘れて、まるで休憩中の侍女たちのような楽しそうな会話にフェリオはドン引きだった。
しかし、自分の名前が出るやいなや不穏な空気を敏感に感じたフェリオは
「お祖母様、イーデアルお祖母様、ぼく、今日、色々あって疲れたので部屋で少し休みますね。失礼します。」
そう言ってさっさと祖母たちのところを逃げ出した。




