109.王都イーデアル邸 4
「フィオナ王女様。」
「フィオナでいいわ。ここは王宮ではないし。呼び捨てにしてもいいわよ。」
「王女様を呼び捨てに出来ませんわ。」
「ふふっ。そう言うと思ったわ。皆、私を『王女』と呼ぶわ。お祖父様とお祖母様だけよ。『王女』と呼ばないのは。ああ、そうね、ミューラ大叔母様は、時々『ちゃん』付けで呼ぶわね。私を子供扱いしているのよ。それから侍女長のエルザは私を『姫様』と呼ぶわ。エルザは、私の両親の同級生なの。エルザもそうね。私を子供扱いしているわ。その四人だけね。別に『王女』が嫌ではないけど、他人みたいでしょ?だから『王女』は要らないわ。」
「フィオナ様とお呼びしてもよろしいですか?」
「ええ、それでいいわ。」
「フィオナ様は、女性ですわよね?」
「そうよ。」
「えっと、私も、女性ですわ。フィオナ様のお相手が同じ女性の私でいいのですか?フィオナ様は、王位継承権を持つ王家の王女様ですわ。男性を選ばないといけないのではないのですか?」
「えっ?男なんて嫌よ。あれっ?ちょっと待って。よく考えたら、私の相手は男性でないといけないのかしら?」
「普通はそうですわね。」
「そうよね。普通は…。でも、私は普通じゃないからいいのよ。私は、私の好きなようにするわ。あなたが私の子を産んでくれたらいいのよ。私、いっぱい子供が欲しいわ。第二妃を迎えても大丈夫かしら?私、父親の二の舞は嫌なのよ。」
「王族や貴族の嫡男等に第二妃や第二夫人がいることは、普通だと思っていますわ。」
「そう。ならよかったわ。私、いっぱい子供が欲しいの。五星でも四星でもいいわ。男でも女でもいいわ。あなたに私の子供を産んで欲しいわ。」
「はい。…ではなくて、女性同士では子供が出来ませんわ。」
「私は普通の女性と違うから大丈夫と思うわ。たぶん。試してみたくてもまだ子供だから無理だけど。そうだわ、三年後の12歳くらいになれば大丈夫かしら?でも、レリーリアラは、まだ11歳ですわよね。少し厳しいかしら。いえ、待って、結婚前にレリーリアラの乙女を奪ってはいけないわ。そんなことをしたら、レリーリアラを第一妃に出来なくなってしまうわ。困ったわ。」
真剣な顔をして、真面目にそう言っているフィオナに対して、レリーリアラは、真っ赤だ。
『フィオナ様は何てことを言うのだろうか。普通に恥ずかしい。抱き締められてドキドキ、頬にキスされてドキドキ。何で私は同じ女性のフィオナ様にこんなにドキドキしているのかしら?確かに、フィオナ様のことはお側でお仕えしたいと思っているくらい好きだけど、その好きと恋愛感情の好きとは別。別、だけど、このままフィオナ様を好きになっても本当にいいのかしら?』
そう思っていた。
「まぁ、三年後に考えてたらいいわ。どうにかなるわ。いえ、どうとでもするわ。四星以上なら誰を選んでもいいってお祖父様も言っていたわ。問題なしよ。」
『問題ありと思うのは、私だけかしら?
ミューラ様はフィオナ様を落とせと言っていた。
シーランお祖母様にも何故か頑張ってねと応援された。
祖父も父も反対しなかった。
何故、女性のフィオナ様のお相手が同じ女性なのに誰もおかしいと思わないのだろうか?
普通の女性と違う?ってどういうこと?両性具有?まさか、こんなにかわいい女の子らしいフィオナ様が?…ついてる?いえ、さっき女性と言っていたし。そんなはずないわよね。』
ちらりとフィオナの下半身を見るが服を着ているので分かる訳がない。まさか『ついてます?』なんて聞ける訳もない。
「ところで、レリーリアラ。」
「はいいっ。」
フィオナの下半身が気になって、変なことを考えていたレリーリアラは、ドキッっとして声が裏返ってしまった。
「どうしたの?考え事?驚かせてしまったみたいだけど。」
「いえ、何でもないですわ。」
バカなことを考えてしまったと思ったレリーリアラは、ドキドキしながらそう答えた。
「そう?ならいいんだけど。ところで、レリーリアラが西の公爵家の次男坊が嫌だったのは分かったけど、それはもしかして、他に好きな人がいるからだったりする?ライバルのことは知っておかないと闘えないわ。」
本気だ。やっぱりフィオナ様は、女性の自分を本気で妃に迎えるつもりみたいだ。でも、本当にそんなこと可能なのだろうか?公爵家の令嬢が、いや、女性が女性に嫁ぐなんて聞いたことがない。大丈夫なのだろうか?
「いえ、別に好きな人がいるからではありませんわ。私の相手は、どうせ侯爵家の嫡男以上の方なので誰かを好きになっても無駄だと最初から諦めてましたわ。」
「そう。ならよかったわ。私は、王女だから問題なしね。私を好きになったらいいのよ。」
『ですから、王女って問題ありなのでは?』
レリーリアラは思った。さっきからフィオナ様にドキドキしてばかりだ。でも、そのドキドキは、恋愛感情からなのかどうか分からない。自分は、フィオナ様を好きになってしまったのだろうか?
「そうだわ。三年以内にレリーリアラに他に婚約話がこないように今のうちに予約しておこうかしら?王宮に戻ったら、お祖父様に言ってみるわ。」
「えっ?大丈夫なのですか?」
「元々婚約者候補には入っていると思うけど。でも、私じゃないわね。フェリオの方ね。」
「そうですわね。フェリオ王子様の婚約者候補にはなっている可能性がありますわ。」
「なら問題なしね。とりあえずフェリオでいいわ。フェリオの婚約者は私の婚約者よ。」
『ですから、問題ありなのでは?何でフェリオ王子様の婚約者がフィオナ様の婚約者なの?』
レリーリアラは、全く分からない。
「お祖父様が私の婚約者を選んでいるって聞いても、私五星だから。あなたと同じで、どうせ相手は四星以上で選択肢なんてないと思っていたわ。お祖父様の選んだ相手なら誰でもいいと思っていたし、王家の将来を考えたら複数の妃を娶らないといけないとも思っていたわ。
でも、誰でもいいなんてそんなことないわ。あなたに私の側にいて欲しいの。レリーリアラがフェリオの婚約者なら他の男の婚約者になることはないわ。二代続けてイーデアル公爵家の令嬢が第一王妃っていいわね。」
フィオナはニコニコしながらそう言ったが、レリーリアラは複雑な気分になった。あれだけ自分のことを好きだと妃にと言っておきながら、フェリオ王子様の婚約者にっておかしい。フェリオ王子様の婚約者になったら、フィオナ様を選べない。
「えっと、私は、フェリオ王子様の婚約者になるのですか?」
「とりあえずそうよ。フェリオは嫌?」
「いえ、嫌とかではなく、フィオナ様ではないのですか?」
「私がいいの?じゃあ、私にする?出来るかしら?聞いてみるわ。ダメならフェリオになってしまうけど、いいかしら?」
「私、フェリオ王子様の婚約者になったとして、三年後にフィオナ様を選んでも大丈夫なのですか?」
「あらっ?三年待たなくても、私の婚約者になることをOKしてくれていると自惚れてもいいのかしら?」
「えっ?」
レリーリアラは、かぁ~っと顔が真っ赤になった。もうダメだ。こんなにフィオナ様を意識させられてしまっている。他の誰か、なんて考えられないくらいに。
「ふふっ。真っ赤な顔もかわいいわ。冗談よ。そうよね、確かに、フェリオの婚約者がフィオナの婚約者になるのは難しいかもしれないわね。まぁ、その時は、フェリオの妃になればいいのよ。
レリーリアラに婚約話がこないように、予約しておこうと思ったけど、やっぱり三年後にするわ。だから、三年間、婚約話は断るか保留にして欲しいわ。私も婚約者候補は全て白紙にしてもらうわ。さっきそう約束したものね。」
『ですから、フェリオ王子様の妃になったら、フィオナ様の妃になれませんわ。』
フィオナの話す意味は分からないままだったが、少なくとも自分は、フェリオ王子様よりフィオナ様の方が好きだということだけは、自覚したレリーリアラだった。




