108.王都イーデアル邸 3
フィオナは、レリーリアラの話の途中にもかかわらず、思わず彼女を抱き締めてしまった。当然、レリーリアラはびっくりした。
「ごめんなさい。本当にそうよね。悩んでいても仕方ないわよね。そうね、私も、人に言われて決めるのではなく、自分で自分の進む道を決めるわ。」
「フィオナ王女様?」
驚くレリーリアラをもっと強く抱き締めてフィオナは続けた。
「私、私のせいで、父上も母上たちも皆亡くなったと思っていたわ。誰に何を言われても、実際に皆亡くなったのだから、心のどこかに自分のせいだと思う自分がいたわ。自分の存在を、フェリオを否定し、フィオナを否定し、父上を恨んだわ。」
レリーリアラは、フィオナの言っている意味が分からない。
『母上たち?たちって?兄のフェリオ王子様は生きてますわよ?皆亡くなった?父上を恨んだって何故かしら?』
疑問に思ったが、黙っていた。
「祖父母たちの期待に応えるために、勉強も、剣術も、魔法も頑張ったわ。自分のためではなく、自分の立場がそうだったからそうしないといけないと思っていたわ。別に努力することは、嫌ではないし、肯定も否定もしなかったわ。だけど、数日前から心が否定するのよ。フィオナは、フェリオを否定し、フェリオは、フィオナを否定するのよ。」
『兄妹喧嘩かしら?全く意味が分からないわ。』
レリーリアラの頭の中は、???一色だ。
「だけど、もう悩むのは止めるわ。否定しなくていいのよ。どっちも間違いではないわ。どっちも正しいと思うことにしたわ。あなたのおかげよ。」
『フェリオ王子様もフィオナ王女様も間違ってないってことかしら?兄妹喧嘩の原因は何か分からないけど。』
レリーリアラは当然意味不明のままだった。が、
「大丈夫ですわよ。フェリオ王子様はお優しいので兄妹喧嘩したとしてもすぐ仲直り出来ますわ。」
「えっ?兄妹喧嘩?って何のこと?」
「あれ?兄妹喧嘩して悩んでいたのではないのですか?」
「全然違いますわ。でも、兄妹喧嘩…でもいいですわね。ふふっ。フェリオが兄だということをすっかり忘れてましたわ。」
「申し訳ありません。私、フィオナ王女様のおっしゃっている意味が全然理解できてませんわ。」
「そうよね。ごめんなさい。今は詳しく話せないの。そのうちあなたに話せるようになったらいいと思うわ。だから、私の言ったことは忘れてくれるとありがたいわ。ところで、レリーリアラの悩みって何だったの?」
「えっと、今、保留中でお断りする予定ですが、婚約者についてですわ。ミューラ様には、私が婚約を嫌がっていることを当てられてしまいましたわ。嫌なら、断ったらいいと。ですが、イーデアル公爵家のためには、そんなことは出来ないと思ってましたわ。」
「婚約者?レリーリアラには婚約者がいるの?ごめんなさい、相手を聞いてもいいかしら?ミューラ大叔母様は、当てたのですわよね?」
「えっと、たぶん、フィオナ王女様の婚約者候補にも入っている方と思いますわ。」
「えっ?誰かしら?今まで婚約なんて全く興味なかったから全然分からないわ。」
「西の公爵家のご次男、ガラドック様ですわ。ガラドック様を実子としてイーデアル公爵家に迎え入れ、私は、第二夫人らしいですわ。」
「意味が分からないわ。何故そうなるのかしら?」
「父が四星だからですわ。イーデアル公爵家の次期当主が四星は数世代なかったことですの。私も弟たちも四星。五星は、祖父と曾祖父。曾祖父の体調が高齢のために最近よくないのです。そして、イーデアルには次世代の五星がいません。五星がいなければ、イーデアル公爵家はイーデアル領を守れません。
西の公爵家は、五星のご次男ガラドック様を実子扱いとするならイーデアルに養子に出してもいいと言ってますの。ガラドック様は私よりも七歳年上ですので、私を第一夫人とするのではなく、先に別の女性を第一夫人として迎え入れると言っているのですわ。私のことは第二夫人にしてやってもいいと。その条件をのまないなら、イーデアルに養子にいかないとおっしゃってますの。私は、イーデアルが五星を得るためには、その条件通りにするしかないと思ってましたわ。」
フィオナは、驚いた。レリーリアラが夜泣きあかすくらい悩んでいたのは、イーデアル公爵家の将来を考えていたからだった。
この国の唯一人の王孫なのに自分自身のことしか考えないで、そして、それを父親のせいにして、ぐだぐた悩んで自分の存在を否定していた自分と大違いだった。
レリーリアラは、それを受け入れないといけないと思っていた。西の公爵家の次男ガラドックは知っている。あまり素行のよくない男だ。もし、あの男が自分の婚約者候補なら、絶対お断りだ。でも、レリーリアラは、イーデアルのために自分が我慢しないといけないと思っていた。
ミューラ様は、それを否定した。レリーリアラ自身も、自分で決めた道を進むことにしたという。
ならば、自分は…。
「ふふふふっ。くっ、くっくっくっ。」
自分は、何を悩んでいたのだろうか。今さら、悩むことなんてないはずなのに。自分は、この国の『王』になる。覚悟は出来ていたはずなのに。フェリオもフィオナも自分自身。否定なんてする必要なんてないのに。自分の進む道はただ一つ。自分はこの国の唯一人の王孫なのだから。
自分の側で自分を支えてくれている人たちの顔が次々と思い浮かぶ。
自分は馬鹿だ、情けない子供だと、フィオナは、自分自身を笑ってしまった。
そして、母の実家であるイーデアルが西の公爵家や、その次男坊ガラドックのいいなりになるなんて許せないと思った。
いや、そのこと以上に彼女を婚約者に渡したくないと思った。
「フィオナ王女様?」
レリーリアラは、当然突然笑い出したフィオナに訳が分からない。
「レリーリアラ、その婚約の話、いつ断わる予定なの?」
「まだ分かりません。保留中ですわ。」
「そう。なら、直ぐに正式に断りなさい。私が、イーデアルを守ってあげるわ。いえ、イーデアルだけでなく、この国の全てを私が守るわ。」
「えっ?」
「五年、いえ、三年でいいわ。私、三年以内に国政を手伝うことにする。この国は、私が守るわ。イーデアルも私に任せて。
私、今まで自分のことだけしか考えてなかった。まだ子供だから成人するまで大人に任せていればいいと思っていたの。
でも、子供を理由に守られているのではなく、これからの未来のためにも、今のこの国や、国外のことも知っておきたい。
初等学校の間、国政に携わることは無理かも知れないけど、学ぶことなら出来るわ。そして、中等学校になったら、国政を手伝うわ。だから、三年待ってもらえるかしら?その時に返事を聞かせて欲しいのよ。」
フィオナは、レリーリアラの頬にキスをした。
途端に真っ赤になって驚くレリーリアラに、
「正式には、三年後に言うわ。その時に今私が何を悩んでいたのかもあなたに話すわ。三年後あなたに選んでもらえるくらいいい女になってあなたを迎えに行くわ。あなたの全てを私が守ると約束する。あなたが好き。私、レリーリアラが好きよ。」
そう言ってフィオナは再びレリーリアラを抱き締めた。




