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106.王都イーデアル邸 1

フ:申し訳ありません。ミューラ様。


ミ:いいのよ。フィオナちゃん。幻影魔法は、心、体、魔力と少しでも違和感を持つと出来なくなるのよ。フィオナちゃんとフェリオ王子は別の人物と言えばそうなのだから、仕方ないわ。スランプになることは誰だってあるわ。


フ:ですが、今まで出来ていたのに急に出来なくなるなんて。来年の1の月になっても幻影魔法が出来ないなら、フィオナは、学校に行けませんわ。


ミ:無理しなくても大丈夫よ。別に学校に行かなくても、困らないわよ。勉強も終わっているし、魔法も私がいるわ。明日、イーデアル公爵家に遊びに行くのよね。幻影魔法のことは忘れて、楽しんできなさい。フィオナちゃんが今幻影魔法が出来ないことは、私以外誰も知らないし。いつも通り普通にしていればいいのよ。


フ:ありがとうございます。ミューラ様。


………


「…王女様。フィオナ王女様。」


昨日の大叔母ミューラとの会話を思い出してフィオナは、ぼ~っと考えていた。全く魔法の練習にならなかった。

レリーリアラに呼ばれて、はっ、っと我に返った。


「ごめんなさい。レリーリアラ。少し考え事をしてましたわ。」


「フィオナ王女様。大丈夫ですか?もうすぐ王都イーデアル家に着きますわ。気分が悪いなら、おっしゃってください。」


「ありがとう。大丈夫よ。外出なんてほとんどしたことないから、少し緊張していますわ。」

フィオナは、そう言って、笑ってみせた。


母の実家のイーデアル公爵家に行くのは、久しぶりだった。フェリオとしてだが。初等学校に通う前に何度か行ったことがあった。同い年の従妹レリーリアラや弟妹と遊んだ。


イーデアル公爵家に遊びに行く前に、イーデアルの祖父と事前にいくつか確認してある。

フィオナとフェリオが同一人物と知っているのは、祖父母とカルロス叔父の三人のみ。フィオナの姿で叔父には会ったことはないが、イーデアル公爵領の本宅では会ったことがあるとなっている。本宅で静養中のフィオナは、外出せず、ずっと三階で過ごしていたことになっている。フィオナは、王都のイーデアル公爵家に行くのは、初めてである。


イーデアル公爵家に着くと、みんなで出迎えてくれた。

イーデアルの祖父母、カルロス叔父、叔父の母と妻二人。レリーリアラの弟妹。一家総出のお出迎えだ。そういえば、フェリオの時もみんな揃って出迎えてくれた。

幼い子供のフェリオの時は、何も思わなかったが、今、フィオナとして改めてイーデアル公爵家総出のお出迎えを受けて、フィオナは、とても嬉しく思った。


ここ数日のフィオナとフェリオの精神は安定していない。幻影魔法が出来るようになって、二時間くらいその姿を保てるようになった数日前からだ。幻影で作り出したフェリオを『偽物』だと思うようになってしまった。それにフィオナとフェリオの魔力の差が追い討ちをかける。フィオナの姿からフェリオの姿に戻った時も、偽物だと思うようになった。父親の呪詛による呪われた姿だと。自分に呪詛をかけた父親が許せなく思うようになった。そして、父親の望む男児の姿でいることが嫌になった。基本的にフィオナで過ごすようになった。ずっとフィオナの姿でいるために魔力を使うと幻影魔法するための魔力が足りなくなるが、そもそもフェリオを拒否している時点で幻影魔法が出来なくなっていた。


イーデアル公爵家の皆を見て、涙が出そうになる。このまま、母の親族と一緒にいたいと思った。父親の望む王子であるフェリオの姿を、いや、フェリオの存在自体を、フィオナの心が再び否定し始める。


「フィオナ王女様?大丈夫ですか?」


考えて事をしていたように見えたのだろうか、レリーリアラに声をかけられる。フィオナは、首をふって誤魔化し、今日は、父やフェリオのことは忘れてイーデアル公爵家の皆と1日楽しく過ごすことにした。


レリーリアラの弟妹たちと遊んだ。『フィオナ王女様は、フェリオ王子様にそっくり。』と言われても、初等学校に行く前のチビッ子たちにキラキラした目で言われているので、別に嫌とも思わなかった。『ありがとう。双子だから。』と軽く流す。『シーランお祖母様にそっくりだ。』と言われて嬉しくなった。

レリーリアラと弟は、叔父の第一夫人の子で、妹は叔父の第二夫人の子だったが、レリーリアラは実弟にも異母妹にも平等に優しいお姉ちゃんだった。叔父の第二夫人のお腹には、弟か妹がいるらしい。母親の体調がよくない時は、異母妹はレリーリアラにくっついて離れないそうだ。実際、フィオナと四人でいても異母妹は基本、レリーリアラにくっついている。そう言えば、初等学校でもレリーリアラは面倒見のよいお姉ちゃん的存在だった。イーデアル公爵家の令嬢というだけで一目を置かれているのではなく、本当にクラスの女児たちの中で中心的な存在だと最近初めて知った。


フィオナは、レリーリアラを意識し始めていた。ただの同い年のいとこだと思っていた。レリーリアラが弟妹と遊ぶ姿が眩しく見えた。家族と楽しく過ごすレリーリアラを羨ましく思った。


イーデアル公爵家で昼食を一緒に頂いて、夕方王宮に戻る予定だった。昼食後もしばらくレリーリアラの弟妹と遊んでいたが、弟妹たちは、はしゃぎ疲れたみたいで、眠ってしまった。

フィオナとレリーリアラは、王宮に戻る前まで暫く二人で過ごした。


「フィオナ王女様、すみません。弟と妹がはしゃいでしまって。お疲れになりませんでしたか?申し訳ありません。弟と妹の無礼をお許しください。」


「いえ、大丈夫よ。私も楽しかったわ。」

フィオナがそう答えるとレリーリアラは、本当に安心したような表情をした。


「よかったですわ。ですが、今度はもう少し大人しくするように言っておきますね。あの二人、王女様とお会いできたことがよほど嬉しかったみたいで、はしゃぎ過ぎてましたわ。」

そう言って笑顔を見せるレリーリアラは、いつもより大人っぽく見えた。


「ところで、フィオナ王女様、何か悩み事ででもあるのですか?」


「えっ?何故?」


「いえ、何でもないですわ。私の気のせいと思いますので、お忘れください。」


「少し考え事をしていただけなので、別に何でもないわ。」

ウソだった。本当は、めちゃめちゃ悩んでいるクセにフィオナはレリーリアラにそう答えた。

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