第6話 リリアーナとラッキースケベ
「さて、どうしたものか……」
あとさき考えずに転移をしてしまってから、俺はそんなことを口走ってしまった。リリアーナ王女やエミリアにコンタクトするにしても、この部屋からどうやって出るかを考えていなかったのだ。
(「隠密」のスキルはカンストしてるが、それにしたってよそ者が王宮の中をフラフラ歩いて、誰にも見とがめられなかったら、この国も長くないよな)
考えの足りなかった自分に動揺するあまり、俺は部屋の中に俺がいたときとの微妙な違いがあることを見落とした。
自分のバカさ加減に呆れてソファにふんぞり返っていると、部屋に誰かが近づいてくる気配がした。あわてて「隠密」で気配を消し、入り口からは死角になるクローゼットの陰に身を隠した。その一瞬の後、ノブがまわり扉が開く。姿をあらわしたのは……リリアーナ王女だった。
(おい、誰も使わないんじゃなかったのかよ?)
ためらいなく部屋に入ってきたリリアーナ王女は、謁見室や遭遇イベントで見たドレス姿ではなく、ドレスシャツにパンツ姿で剣を手にしていた。ドアのそばに剣を置き、ポニーにゆわえてあった髪をほどきながらベッドの方に歩いて行く。ベッドに視線を送ると……そこには皺になるのを避けたのか、ドレスが広げた状態で置いてあった。
(おい、なんであれに気づかないかな、俺は……? ん? それより、まさか彼女……?)
頭の中であれこれ考えている間に、リリアーナ王女はシャツのボタンを外して脱ぎ去り、細く長い腕を背中に回して、胸をキュッと押さえている下着を外した。プルンと飛び出した胸部装甲は、シルフィアのような凶悪な大きさはないが、大きすぎず小さすぎずのまさに美乳だ。
(俺はこっちの方が好き……いや、ちょっと待て!)
よけいな妄想の向こうで、彼女はパンツに手をかけ、勢いよく引き下ろした。長い美脚が露わになる。俺は下半身に血が集まる感触に反射的に腰を引いた。そして尻が壁に当たり、ドンッと鈍い音がする。当たり前だが立ててしまった音には「隠密」はなんの効果もない。
リリアーナ王女が俺のほうに身体を向けた。剥き出しの胸部装甲がその威容をいかんなく見せつける。俺の視線と彼女の視線がぶつかる。
そこから先は、俺にとってはまるでコマ送りですべてが流れた感じだった。
王女が胸部装甲を両腕でかき抱く。下着姿の下半身が露わになり、胸の谷間が凶悪度を増す。叫び声がまさに上がろうとする。
俺はとっさにサイレントを唱え、ズボンにテントを作ったまま加速で一気に彼女のそばに移動する。慌てた彼女は逃げようとするが脱ぎ去らずに足に残っていたパンツに足もとをとられて姿勢を崩す。
王女が床に転倒する直前に抱きとめる。その躰の柔らかさに俺の腕に力が入る。フローラルで清楚な香りに汗の匂いが混じった媚薬のような香りをいっぱいに吸い込んで、テントが大きくなる。彼女は俺に顔を向けるが、その目は驚きと恐怖に大きく見開かれている。声が出ないことが、彼女をさらに混乱させているようだ。ちなみに俺も一杯一杯だ。数日前までチェリーだった男を舐めてはいけない。
(クソ、アップで見るとさらに美人だなぁ……。でも、これでリリアーナ王女の協力はないか……)
失望感にうちひしがれつつ、俺はリリアーナ王女の首筋に手刀を落として気絶させる。リアルでやったことがあるはずもないが、どうすればいいかイメージできるのは、レベル百で無数のスキル持ちの勇者補正なのだろう。
気を失ったリリアーナ王女の足もとに絡まるパンツを、テントを固くしながらなんとか引き上げ、これまた苦労しながら脱ぎ去っていたシャツを羽織らせる。その状態の彼女をソファに横たえ、ベッドの毛布を上から掛ける。その上で、俺はどうすべきかを考える。
(話せばわかる……わけないかぁ。だけど、このまま放置したら、犯罪者として追われかねないし……)
俺は開き直ることにした。彼女の剣をすぐ手の届くテーブルの上に置く。そして俺は服を脱いでパンツ一丁になり、ソファから少し離れてドアの前に正座した。そして状態異常を回復するキュアを唱え、彼女が目覚めると同時にサイレントをかける。
リリアーナ王女がはじかれたようにガバッと上半身を起こす。すると毛布が滑り落ち,開いたシャツの間から再び美乳が露わになる。彼女が慌てて毛布を引き上げて上半身をくるむように覆うが、代わりに美脚が下着ごと露わになる。一押しの王女のエロチックなさまに、もう俺の下半身は充血具合がひどいことになっている。
俺は立ち上がって無害を示すように両手を広げてみせる。リリアーナ王女は叫び声を上げようとしたのか口を大きく開いているが、そのまま表情がこわばり,全身が硬直したように動きを止める。叫ぼうとするが声が出ないことに混乱しているのだろう。話すなら今しかない。
「リリアーナ王女、聞いてください。いま、俺はサイレントで王女様の声を奪っています。少しの間、大きな声を出さないでくださるなら,すぐに声を戻します。そして、俺の話を聞いてください」
王女はじっと俺を見たまま動かない。さらに俺は続ける。
「俺はここから動きません。これ以上近寄らないことも約束します。話を聞いてくれたあと、お手元の剣を俺に向けてもいいです。俺は見ての通り武器を持っていません」
まあ、素手でも王女の剣に後れをとるとは思わないが……。
少しだけの間のあと、リリアーナ王女は真っ赤になるほどの勢いでコクコクと頷いて、すがるような目で俺を見つめる。声が出ないことがよほど不安なのだろう。早く声をもどしてくれ、という訴えが手に取るようにわかる。俺だって、やりたくてやっているわけじゃないし、できれば普通に話したい。
俺はディスペルを唱え、サイレントの効果を解除する。王女は息を大きく吸い込んだ。大声はダメだと言ったのに、そうはいかないらしい。慌てて俺は部屋に遮音結界を張った。そんなことができるのなら最初からそうしておけ、という突っ込みはナシだ。俺だってパニックなんだよ。ずっと王女の香りが部屋に漂っているしさ。
「何でもいいから、早く何か着てくださいぃぃ!」
俺は大きなテントを張ったまま、パンツ一丁で仁王立ちしていた。
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