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第5話 第一の街アーベルと個人行動

「もうすぐアーベルに着きます。そこでその先の旅の準備を整えましょう。それから、いまのわたくしたちはまだまだ力不足です。少し実力を蓄える時間が必要でしょう。また、協力してくださる方が見つかるともっとありがたいのですが……」


 シルフィアが馬車の中で皆を見渡し、少し気遣わしげに言う。そんな少し気疲れした風情も彼女にかかれば名画の構図のようになる。さすがといえよう。俺はただ頷くだけだ。


「協力してくれる人か……。気持ちはあっても、ぼくたちの足手まといになっては困る。手分けしてじっくりと見定めよう」


 エルナンド侯爵がもっともらしいことを言う。ただ、実をいうとメンバーで足手まといがいるとすればこの男なのだ。彼のレベルは二十で、スキルもレベルなりだ。序盤をクリアするには問題ないが、俺やシルフィアだけでなく、ミルキスもステータスを偽装しており、その真のレベルは三十八。侯爵様を除けば中盤までいけるレベルだ。


 それに、エルナンド侯爵は仲間探しを真剣に考えてこのような発言をしたわけではない。手分けするということは各自別行動をとるということ。彼はそこでシルフィアとどこかにしけこんでシッポリ、ということを思い描いているのである。そして本編ではアーベルの街への到着と同時に個人行動パートに入った。彼の思惑どおりだ。ここまでは。


 エルナンド侯爵視点の外伝によれば、街に入って個別行動に移って以降、街を出るときまで彼はシルフィアもミルキスも、俺すらも見失ってしまったらしい。ミルキスはどうでもよかったようだが、嫉妬深い侯爵様はどうしても二人を見つけられず、同じく姿を消した俺が二人を囲い込んでいると勘違いした。このあたりから彼の歪んだ憎しみが俺に向けられ始めるというわけである。


 ここに俺の希望があった。三人の視点からそれぞれ他のパーティーメンバーが消えるなら、結果的に俺はひとりになれるのではないかと。本編では「シルフィアに声をかける」「ミルキスに声をかける」の二つしかなかった選択肢に、「誰にも声をかけない」が出た形になるのではないかと。


 俺はエルナンド侯爵の上滑りなセリフにただ頷きながらそんなことを考えていた。




「では、先ほどの近衛騎士団長の提案どおり、それぞれに旅の準備をしつつ力を貸してくれるかたを探す、ということにいたしましょう。皆で使うことになるようなアイテムや食料はわたくしが王室の伝手で準備いたします。出発はとりあえず五日後にここに集まって、ということにいたしますが、必要があれば連絡を取り合いましょう」


 さすが性悪であることを除けばデキる王女さまだ。必要にして充分、過不足ない伝達事項通達だ。そしてそのセリフをキーにして三人の様子が変わる。一様にキョロキョロまわりを見渡したあと、軽くはない足取りで離れていく。他のメンバーを見失って、不審を感じながらほかの場所に移動してみる、といったところか。どうやら天は俺に微笑んだ。「誰にも声をかけない」が成立したらしい。俺は「ヨッシャア!」と小さく声に出し、ガッツポーズを決めた。




 時間は五日間ある。長いとはいえないが、あっという間というわけでもない。屋台で野鳥の肉の串焼きを買って、腹を満たすとともに「喋れる」ことを確認した俺は、早急に行動に移るのではなく、じっくりと行動計画を練ることにした。



 移動のやり方については、正規のやりかたで街の門から外に出てはいけない、と俺は判断した。星の海でもこのゲームの本編でも、街から出ようとするとワラワラと仲間が集まってくる。そうなってはもうやり直しは利かないのだ。ゲームではやり直そうと思えば出来たが、現実にそれをすれば不自然きわまりない。


 星の海では転移も出来なかったと思うが、あえてプレイヤーをこの立場に置くクリエイターの意図を考えればこちらは転移は可能かもしれない。やってみる価値はある。



 行き先は王宮一択だ。街には出たが、シルフィアと入ったカフェ以外は馬車から見ただけだ。カフェにいきなり転移するわけにも行かない。また、王宮の中でも、実際に使えるのは俺の与えられた部屋だけだろう。廊下や庭、謁見室は論外だが、魔法室の研究棟もダメだ。室長のアマンダは女王と通じているかは不明だが、なんとも得体が知れない。


 王宮に戻って何をするかといえば、まずは強制移動で顔を合わせたリリアーナ王女とヨハン王子、そしてエミリア近衛騎士のハラを探ること。まずはこちらに隔意はなさそうだったリリアーナ王女に接触したい。どうやって接触するかは問題だが、それはヨハン王子やエミリアも同様だ。むしろ、よりハードルが高い。出たとこ勝負だ。




 そしてもう一つ。王宮の地下一階は牢獄になっているが、そのさらに下の階にはダンジョンが広がっている。そこに行っておきたい事情があった。


 この国に限らず、王宮や王城、その他大きな城の地下にダンジョンが広がっていることは異例なことではない。国主の居城は地脈の結節点の上を押さえる形で作られるケースが多い。それによって城は地脈の加護を受ける。そして、地脈の結節点に強い魔力の流れが作用するとダンジョンが生まれる。自然な流れなのだ。地下に牢獄を作るケースが多いのは、もちろん緊急の場合に罪人を盾にするためである。


 アーテルムの王宮地下のダンジョンはだいたいレベル二十前後の魔物が徘徊する、わりと脅威度の低い場所である。近衛や王都守護の第一騎士団の幹部などは、ここでレベルを上げることも多い。エルナンド侯爵のレベルが二十なのも、おおかたここでレベルを上げてそのままにしているのだろう。


 比較的ユルい王宮ダンジョンであるが、その最奥にはレベル上限に達したものの前だけに出現する隠し扉があり、その先では不死系の魔物が宝玉を守っている。いわゆるところのリッチであるレベル九十のその守護者を倒し、宝玉に触れるとレベル上限が二十上昇するのだ。それに、撤退が可能なそのバトルで、うまくいけばレベル上限を百二十にできるというのは博打として悪くない。


 もちろん、いまの俺はレベルは高いがプレイヤースキルは素人同然だ。だが、一周めの魔王の本拠地で入手した聖属性特効の宝剣というアイテムを使って、レベルが十も下の魔物を相手に生き残れないなら、その先も見通しは暗い。せいぜい、その手前の魔物に練習台になってもらう。少し生身の戦闘に慣れれば、いまの俺のステータスと知識があれば、なんとかなるのではないかと思っている。


お読みいただいた方へ。心からの感謝を!

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