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第4話 シルフィアという女

 壮行会の最後の行事が終わり、ようやく俺は部屋に戻ることを許された、というか、ようやく俺の足が部屋のほうに向かって歩き出した。明日の朝には俺たち四人が王都を発つ。最初に向かう街がアーベルであることはすでに耳に入っている。当面は力をつけながら、ともに戦う仲間を探すのだそうだ。勿論、アーベルにはすでにノエルが配置されているわけだが……。




 部屋に戻り、俺はベッドに横になった。サテラは呼ばない。というか、最初の夜に強制イベントとして無理矢理に初めてを奪われてから、「初めての想い出を噛みしめたい」とか気色悪い理由をつけて俺は一度もサテラを呼んでいない。外伝を見る限り、俺を色欲の虜にすること、そして俺の性欲の強さ、精力、技術、嗜好をあまさず女王とシルフィアに伝えるのが彼女の目的だからだ。


 サテラのステータスはこうだった。


サテラ・ノウルス 二十三歳 人族 女

クラス アサシン

LEVEL 三十五

体力 C

力 B

耐久 E

魔力 D

精神 C

技術 B


 とりあえず非戦闘員と信じるにはレベルが高すぎるし、アサシンを純粋な侍女とは呼ばない。そして、数あるスキルを見ると、「宮中儀礼」「作法」といったものに混じって「隠密」「暗殺」「看破」「籠絡」「性技」といった怪しげなものがレベル三~五で並んでいる。優秀であるようだ。


 俺の場合は「強くてニューゲーム」なので「偽装」もレベル九で持っているため、サテラにはステータスがこう見えているはずだ。


ユウイチ・サナダ 十八歳 人族 男

クラス 勇者

LEVEL 四

体力 D

力 D

耐久 D

魔力 D

精神 D

技術 D


 最初はレベル一、オールEに設定しておいたので、周囲からは「さすが勇者、成長が早い」という理解をされている。スキルも「剣術」とか「火魔法」とか、基本的なものだけでそろえてある。それらはほぼすべてレベル一だが、こちらから仕掛けるトラップとして「性欲」レベル四を入れてある。サテラの看破はレベル四なので、今ごろこの情報はシルフィアたちに上がっているだろう。どんなアタックを仕掛けてくるか楽しみだ。




 三日間、ほとんどシルフィアと行動をともにして感じたのは、「この女、メチャクチャすげえ」だった。俺の語彙ではそうとしか表現できない。体系的に見事に整理された圧倒的な知識量と打てば響く明晰な頭脳を兼ね備え、王都の裏町の事情から昨今の国際政治情勢にいたるまで、必要最小限の言葉でわかりやすく説明してくれる。


 シルフィアのステータスはこんな感じだ。


シルフィア・アーテルム 十八歳 人族

クラス 王女(邪導師)

LEVEL 四十

体力 D

力 C

耐久 D

魔力 A

精神 S

技術 B


 聖魔法はレベル八という圧倒的な高さ。「剣術」もレベル三だ。偽装した俺のステータスでは物理でもかなわないことになる。一度だけ行った剣による模擬試合でもしばらく粘ったあとに押し切られてみせた。



 男を誑し込むことにかけては、まさに「天才」といってよい。「気品」レベル九、「礼儀」レベル九、「話術」レベル七、「狡猾」レベル六、「誘惑」レベル六、「淫乱」レベル五と、スキルを見るだけでえげつないが、実際に彼女を目の前にすると、「看破」レベル十を持つ俺が「誑し込まれようとしている」という明確な認識を持って初めて、目の前で何が行われているかをなんとか認識できる。


 三日間、日中はほとんどシルフィアと一緒に行動したわけだが、誘うような眼差しやわざとらしい身体接触といったありふれた誘いは一切ない。だが、香り、気配、息づかいと、すべてを使って「自分がそばにいる」という事実を感じさせ続ける。話すときは視線をそらさないが、こちらが圧迫感を感じないギリギリの視線の強さだ。馬車を降りるときに二度ほど手を握ったが、型どおりの強さよりもほんの少しだけ強く、必要な時間よりほんの少しだけ長く握ってくる。


 思うに、シルフィアは眼球の位置や唇の角度から、指先やつま先の動きの一つ一つまで、他人から見てどう見えるかを把握しているのだろう。彼女のすべてがトータルとして男を誘ってくるのは、「淫乱」が付加効果でもつけているのかもしれない。それも含めて、すべてを計算しているわけだ。


 ちなみに先ほどのヤバいスキル群は、レベル四十という事実とともに「偽装」レベル九で隠蔽されている。レベル四十もレベル九のスキルも、本来はゲーム中盤以降でお目にかかるようになるものである。実際、俺の「看破」がレベル十になったころにはあまり他人のステータスは気にならなくなっていたこともあって、一周めでは俺は騙されたままだった。どのような王宮生活を送れば、このようなステータスが身につくのだろうか?





(いよいよ明日の朝に出発か……。王宮を出てどれだけ俺に行動の自由ができるか、だな)


 今のところ、俺が自分の意思で身体のすべてを動かせるのはこの部屋の中だけだ。その部屋の中も、魔方陣で監視されている。ざっと解析してみたところ、魔力紋を登録した数人について部屋の中での動きを受けの魔方陣を通して伝える、というものだ。


 旅の最中、移動の間は常に誰かがそばにいたはずだ。街に入ると、誰と行動をともにするかを選択させられた。俺に完全な自由行動のチャンスがあるのか、あるとすればいつか。それが俺の今後を大きく左右する。カギを握るのはやはり街に入ったあとの「個人行動」だ。二次元では誰かを選択しなければ先に進めなかったが、三次元ではどうだろう。望みはあると思う。そのヒントは、エルナンド侯爵視点の外伝にあった。胸くそ悪くなるような内容ではあったが、その点は感謝だ。




 ここからのすべての筋書きは女王ロザリンドとシルフィアが書き上げたものである。恵まれた力を持つ召喚勇者を魔王のもとに導き、その力で魔王の力を削ぎ、そこに大きな威力を持つ魔法を打ちこんで勇者もろとも消滅させる。死んだ勇者の偉業を称えつつ、王族自らが魔王討伐を果たした国として他国に手を伸ばしていくのだ。


 外面のよいエルナンド侯爵はその際の飾りである。中身があまり詰まっていない彼なら、いいように操れると二人は考えたのだ。


 もちろん、ニコラとエメラのふたりは、決して偶然の出会いからパーティー入りしたわけではない。あらかじめ序盤の二つの街に配置されていて、偶然を装って勇者に近づいてきたのである。シルフィアは王都シャルミナを出ると当然のようにこの二つの街に向かう。だが第三の目的地はこれらの街よりも実は王都に近い。二次元のゲームのプレイヤーには街相互の位置関係はわかりにくい。だから疑問などさしはさみようがない。このトラップはクリエイターが仕掛けたものだったといえる。


 基本四属性の魔法に聖属性魔法を重ねると威力を大幅に高めた無属性魔法が生まれる、ということをシルフィアとミルキスが見いだしたときにこのシナリオは生まれた。 四属性の最上級魔法、「焔獄」「氷華」「神嵐」「泥龍」に聖属性の最上級「浄逝」を重ね合わせ、強力な結界で主人公ごと包んで威力の拡散を防げば、手傷を負った魔王なら消滅させられると判断したのである。その結界のためにエメラが雇われた。金を払えば他人を巻き添えにすることなど毛ほども気にしない結界魔法使いだ。


 主人公の警戒心を解き、正常な思考を奪うのがノエルの調合した神経毒だ。ノエルが作るお菓子は美味だという設定になっている。あそこに混ぜ込まれていたのだろう。かくして主人公は微量ずつ毒を盛られ続け、徐々に神経を壊されていく。

 勇者ともあろうものが微量の毒くらい無効化できないでどうすると言いたいが、序盤の時点では勇者も発展途上だったということだろう。その期間にしっかり壊されていては世話がないが…。


 現状を確認しているうちに、いつしか俺は眠りに落ちていた。




 目覚めは悪くなかった。監視に晒されっぱなしの王宮を離れるのは、俺もそれなりに待ち遠しく思っていたらしい。


 サテラがノックで出発を知らせてくる。魔法に疎いサテラが来てくれたのは幸運だった。俺はあらかじめ準備していた魔方陣の登録魔力紋書き換えを発動し、部屋を出る。本編の通りなら、出発する直前に女王は俺に「王宮に立ち寄る時のためにこの部屋は空けておく」と言ってくるはずだ。使わせてくれるというものは使わせてもらう。




お読みいただいた方へ。心からの感謝を!

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