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第1話 俺は無口な勇者

気づいたらそこはX指定ゲーム主人公の世界。それは決して幸せなことではないですよね。

……靄に包まれていた視界がクリアになってくる。目の前には、豪奢なドレスを纏った美熟女がいた。どこかで見たような気がするが、思考は依然として定まらない。俺はPC用X指定の美少女RPG「無口な勇者の冒険譚」を自分用に完全にカスタマイズされた部屋の中でプレイ中だったはずだが……。


「ようこそ異世界より招かれし勇者よ、そなたは魔族の脅威にさらされし人類の最後の望み」


(……は? いきなりなに言ってます? 人類の現状より俺の現状を教えてくれ。最後の望みって?)


 俺は美熟女の言葉をさえぎって自分が置かれた状況を確認しようと……したが、なぜか口が動かず、身体も片膝立ててこうべを垂れた姿勢のまま動かない。


「人類の生きる領域は魔族に次々と奪われています。いま反攻をかけねばわたしたちには滅びの道しか残されていないでしょう。もはや、そなただけが頼りなのです」


 美熟女の縋るようなまなざしに脳髄がクラッとくるが、ギリギリ流されずに踏みとどまれたのは、この状況に妙な既視感を感じたためだった。


「もちろん、そなただけに重荷を背負わせることはしません。ここに控えるのはわらわの愛娘シルフィア。幼きころより聖魔法の才を伸ばしてきました。きっとそなたの力となるでしょう」


 いったい俺の状況対応能力は何がトリガーとなって発現するのか謎だ。美熟女の左後ろの少女の淡いピンクの髪、人形のように整いながら少女らしい生気をふんだんに纏った美しさ、純白の清楚なドレス、その清楚なドレスをエロチックに歪める胸部装甲と細い腰と臀部、隠されていながらまとわりつくドレスが想像させる美脚。完全に覚醒した俺は我ながら驚異の想像力で目の前の三次元を記憶の中の二次元に変換した。「Silent Brave-無口な勇者の冒険譚」のメインヒロインその一、第二王女シルフィアだ。


 シルフィアを認識することで、目の前の美熟女がアーテルム王国の女王ロザリンドであることも理解する。右後ろに控えているのは第一王子のヨハン。そしてその隣が第一王女のリリアーナだ。リリアーナは胸部装甲の破壊力は控えめだが、スラリとしてバランスのとれたプロポーションとシャープな美貌のちょい年上美女。あまり巨乳フェチではない俺にとって、実はイチ押しはこのリリアーナだったのだが、ゲームでは攻略対象とはなっていなかった。


「そなたの右に立つのは我が王国随一の剣と盾の使い手、近衛騎士団親衛隊長を務めるエルナンド侯爵です。勇者の旅への同行を買って出てくれました」


 俺の顔が勝手に右を見る。細面の金髪イケメンが爽やかな笑顔を浮かべて会釈する。その隣は、近衛騎士団後宮総括のエミリアだったはず。長身ショートカットのイケメン美女だ。これも攻略対象ではなく、悔し涙を流した。


「そしてそなたの左、二番目に控えるのが王宮魔法室副長のミルキス。基本四属性をすべて操る我が王国きっての魔法の使い手です。彼女も快く旅の同行を承知してくれました」


 俺の顔が左を見る。目の前には娼館の女主人もかくやという色気たっぷりの美熟女。女王と同年代と思われる。だが、これは魔法室長のアマンダだ。やはり攻略対象ではない。ミルキスはその向こう側に控えているツインテールロリである。ロリ属性のない俺にはかなりつらいもののあったメインヒロインその二だった。


「勇者よ、これらの勇気ある若者とともに、どうか魔王を討ち果たしてくれないでしょうか。そなたは天に選ばれし才あるもの。人類のために、どうか力を貸してください」


 俺は、冗談じゃない、インドア属性にかたよった引きこもり気味の俺に何を期待するのか、ほかを探してもらいたい、と即答しようとした。自慢じゃないが、俺は「Silent Brave」の世界を知り尽くしている。このまま旅に出ても、なんのメリットもないのだ。


 だが、俺の口は一ミリも開かず、かわりに頭が勝手に縦に動いた。


(おい俺! 何を勝手に頷いてんだよ!)


 時すでに遅く、女王は満面の笑みで俺を見つめ、俺の前まで歩いてきて跪いて手をとり、胸元に寄せる。熟女の胸部装甲の感触が絶妙だ。


「感謝します、勇者よ! 人類の危機はすぐそこまで迫っています。猶予はありません。一刻も早く旅立ちを……」


 シルフィアが俺の前に腰を落として片膝をつき、女王の肩に手を添える。スカートの裾が割れて、俺の目の前に形のよいふくらはぎが晒された。太腿までは見えないというのがポイントだ。


「お母様、勇者さまも呼び出しに応じてくださったばかり。戸惑うことも多いでしょう。しばしの間、王宮でこの世界に慣れてなれていただいては?」


 シルフィアはそう言った。一言一句、ゲームのままだ。すると次は……。


「そ、そうでしたね。ごめんなさい。では、しばしの間、この王宮に滞在してください。不自由はおかけしません。足りないものがあれば、何なりと申しつけてください。ああ、いえ、旅の準備はこちらで整えますので、そなたは思うままにすごしてください」


 はいはい、そうだったね。「ああ、いえ、」って、なにも言ってないし動いてもいないけど。満足げに頷いてみせる俺が痛いよ。


「ではシルフィア、勇者を部屋にお連れして」


「はい、お母様。勇者さま、こちらですわ」


 シルフィアが俺の手をとって立たせ、そのまま手を離すことなく俺とともに謁見の間とおぼしき部屋を出る。そうそう、すぐに旅立たせるつもりなら、部屋が用意されているはずがないんだよね。それに気づかないかのごとく、俺はシルフィアに手を引かれるままに王宮の廊下を進んでいった。このどこまでも肌理細やかで柔らかい手の感触も男殺しだよなぁ。



 案内された部屋は、つい先ほどまでいたはずの俺の六畳間が十ほど入りそうな広さだった。さすがに素で圧倒されていると、肩に手が置かれた。振り返ると、シルフィアがすぐ後ろに立っている。生身の美女のアップの破壊力はさすがにすごい。それに、爽やかでありながら微かな艶めかしさを含む香りが俺の鼻をつく。すべて想定どおりなのに、下半身は状況に惑わされてムラムラとしてくる。


「この部屋を自由にお使いください。それから、必要なときにはこのサテラに遠慮なく言いつけてくださいな」


 シルフィアが部屋に控えてきた侍女を呼び寄せる。十五、六歳に見える、髪を肩で切りそろえた清潔感のある美女だ。プロポーションも高い戦闘力を秘めている。


「それでは、また明日、様子をうかがいに参りますわね。今日はゆっくりおやすみくださいな」


 シルフィアは極上の笑顔でそう言うと、サテラを残して退出していった。




「お召し替えを手伝わせていただきます」


 サテラはそう言うと俺の服を脱がせはじめた。もうあきらめている。これは強制イベントだった。俺は服だけでなく下着まで脱がされ、生まれたままの姿の俺の前に彼女がひざまづく。「素敵です」と何を褒めたか謎のセリフとともに、彼女は俺の下半身に顔を寄せてきた。




 一方的にサテラにカラにされた俺は、ベッドに横たわって回らない頭を回す。サテラはベッドでグロッキー状態の俺に毛布を掛けて退出している。


「状況は明らかだよなぁ……」


 俺は自分の状況を確かめるように呟く……え、呟く? 声、出てる? 無口なはずじゃないのか?


 俺は強引に頭を回し、必死に考えた。ここまでの自分が「無口な勇者」だったことは間違いない。だが、いま俺は声が出ている。先ほどまでとの違いは何かを考え、一つの仮説にたどりつく。


(ゲームで描かれた場面だけが強制で、その間は俺は決められた行動しかとれない。だが、描かれてさえいなければ、自由に行動できる……)


 これが真実だとして、何が変わるのかはまだわからない。ただ、失望オンリーだった俺に少し光が差してきた瞬間だった。



お読みいただき、心からの感謝を!


本日中にあと二話ほど投下できます。

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