第3話 異能者と妖魔。
ようやく、バトルシーンに入ります!
蒼太は夢を見た。
神社で見た少年が、血に濡れた何かを持って近付いてくる夢。
少年が近付いてくる瞬間――。
蒼太の心臓は大きく、そしてゆっくりと脈を打つ。
心臓の鼓動は意識を揺り動かして、蒼太は暗闇の底から意識を取り戻した。
蒼太が目覚めると、そこは教室の中だった。
身体を起こすと首の後ろが痛む。そのうえ、シャツが汗で背中に貼り付いて気持ちが悪い。
周りを確かめるように辺りを見渡すと、隣では目を閉じたままの陽太が、横になっている。
どうやら、まだ意識を取り戻してはいないようだ。
蒼太の意識を狩り取った少年の姿もない。
よく見ると、今いる教室は理科室ではなく、いつの間にか移動していた様である。
(あの人が僕達を移動させたのかな?)
そう思った蒼太だが、いつまでもここには居られないので、おもむろに立ち上がると、廊下の方に歩き始めた。
蒼太達がいる教室は廊下の端にあり、左側を見ると廊下が続いている。
蒼太は、教室を出ようとしたが兄の陽太を置いては行けないので、廊下の先を少し見に行く事に留め、教室を出て廊下を歩く。
一人分の足音が廊下に響いて、とても不気味に聞こえる。
廊下の端まで歩いたが、何もない。右側にはまだ廊下が続いている様だ。
途中、見えた教室から未だ三階にいる事が分かった蒼太だが、この小学校は北校舎と南校舎が西にある廊下で繋がっているため、右側に廊下が続いていると言う事は、蒼太達は南校舎の一番端にある教室にいた事になる。
最初は、廊下の端まで確認をするつもりだった蒼太だが、どうしても気になったので右側の廊下の先にも行くことにした。
右に伸びた廊下を進むと、更に右に曲がる。この曲がってすぐにある教室が蒼太と陽太が煙に包まれた、理科室だった。
あれほど廊下に充満していた煙はすでになく、理科室は静まり返っている。
蒼太は理科室の中を覗き込むと、そこはとんでもないことになっていた。
ビーカーやフラスコは割れて、床に散乱し黒板は爪痕のようなものが残され、一部コンクリートが露出している。
至るところに血痕が付いており、人体模型や骸骨の標本もばらばらに散らばっており、目を疑う様な光景に今、この学校でとんでもない事が起きていることを理解した蒼太は、早くこの学校から逃げる為、陽太のいる教室に戻ろうとする。
その瞬間。廊下の端から空気を切り裂く様な悲鳴と、爆発音が響いた――。
蒼太は振りかえると、爆発音が聞こえた所から砂ぼこりが遅れてやってくる。
恐怖のあまり立ち尽くしていると、砂埃の中に青い光の様なものが見え、青い光が見える度に爆発音と悲鳴が響く。
青い光が見えなくなると、砂埃を裂くようにある人物が姿を表す。
「こんだけ斬っても死なないなんて、全く厄介だね」
そんな事を言いながら、本人はいたって気の抜けた様な顔をしながら近付いてくる。
その人物は、蒼太の前に立つと顔を覗き込む。
蒼太は顔をあげると、そこには蒼太の意識を狩り取った少年が立っていた。
「おっ、気が付いたんだ。さっきはごめんね。どうしてもああするしかなかったんだ。許して」
そう言うと、少年は手を差し出してきた。
いつの間にか蒼太は腰を抜かし廊下に座り込んでいて、蒼太はその手を取ると立ち上がり、パンツに付いた埃を払う。
目の前にいる少年は、相変わらず黒のロングコートを着ていて、コートは所々に血と埃で汚れていた。
「大丈夫?」
「う、うん。ちょっと驚いて腰が抜けただけだから。それよりあれはなに?」
蒼太が指を指す先――。
徐々に砂埃は収まり、全体が見えてくる。
そこには、廊下にめり込んでいる何かの姿があった。
辺りは血だまりが出来、壁や窓ガラスには血飛沫が大量に付いており、さながら地獄絵図である。
「あー。別に気にしなくていいよ。と、言っても気になるよね。あれは……、狐の妖魔だよ」
「妖魔? 何なのそれ」
蒼太は夢でも見ているのかと思い、目を擦るが見えるものは何も変わらない。
「言われてもわかんないよね。まぁ、詳しい事は後から説明するからさ。あれ、まだ生きてるみたいだし。すぐ終わるから、ちょっと待ってて」
少年は、そう言うと血だまりに沈んでいる狐の妖魔に向かって歩き始めると、懐から何かを取り出している。
少年は立ち止まり、取り出した物を空中に放り投げた。
それは、空中で留まる。
留まったかと思うと、青い光を辺りに撒き散らしながらくるくると回転し始め、少年がそれに手を伸ばそうとすると辺りに舞った光が集まり、姿を変えていく。
光の奔流が収まると、そこにはクリスタルの様に透き通った、青く輝く一降りの剣が浮かんでいた――。
剣の柄を握ると、少年は走り出す。
剣を上段に構えると、そのままの勢いで思い切り突き刺す。
《ガァハッ……! ギィアァァアァァァァァァアァ!?》
狐の妖魔から血飛沫が上がり、とんでもない悲鳴が聞こえる。
その声は空気を伝わり、蒼太の元へと届いた。
突き刺した剣を抜き出すと、少年は更に突き刺す速度を上げていく。
狐の妖魔は、痛みから逃れるため振り払おうと左腕を少年に繰り出すが、容易に切り上げられ宙を舞った左腕は、血を噴き出しながら廊下に転がった。
《オノレ……。ヨクモ……ヤッテクレタナァァァァア……》
狐の妖魔の言葉は、呪詛を呟くような低い声だった。
既に、かなりの血を失っているせいか息も絶え絶えである。
「へぇ、言葉を話せるとは。何人、人を食べたのかな?」
《ウルサイ……。ソンナコト、オボエテオランワ……》
狐の妖魔は口から血を吐き出している。
「そう、別にもう死ぬんだからどうでもいいか。人も帰って来ないし」
少年は無表情で言葉を返すと、また近付いていく――。
その頃。蒼太は、その信じられない様な光景を見て、濃い血の匂いにたまらず胃の中の物を吐き出してしまう。
一方、少年は返り血も気にせず、残った右手と尻尾も切り落とし最後に首を一閃する。
首を切り落とされた狐の妖魔は、何も出来ないまま自らの血だまりに沈んでいった。
少年は狐の妖魔に踵を返し、剣を持ったまま手首で回すとその刀身は短くなり、出した懐に仕舞う。
そして、血塗れのまま蒼太の所まで戻ってきた。
「ちょっと時間がかかった。あれは徹底的に切り刻まないとすぐ再生しようとするからさ。それにしても大丈夫?」
少年の目線の先には、先ほど蒼太が吐いた吐瀉物がある。
「ごめん。血の匂いが気持ち悪くて。どうしよう」
蒼太はどうしたらいいのかたまらず、少年に聞いてしまった。
「いや。気にしなくていいよ。一応、この学校は“異界状態”になっているんだ。この異界はあの狐の妖魔が作り出したんだけど、異界が解ければこの学校で破壊された物やあの狐の妖魔も消えて元通りになるからさ。 全て無かった事になるんだよ。だから吐いても消えるから。この返り血もね」
少年は自らの服を指差し、初めて笑顔を見せる。
蒼太はその笑顔を見て、心の底から安堵した。
「そういえば、君のお兄さんは? 理科室から二人とも別の教室に移動させたはずだけど。あの時は少し焦ったよ。まさか妖魔を気絶させる為に使った煙に二人が巻き込まれるとは思わなかったから。そもそも、何で夜の学校に入ってきたの?」
「あの、それは兄とコンビニに行くはずだったんだけど、たまたま学校の校舎を見たら青い光が見えて、兄が確かめようって言って入ってしまったんです」
蒼太は、正直に全てを話し終えると、少年は黙って首を縦に振り納得した様だった。
「そういう事か。でも、不用意に入ったら駄目だよ。今日みたいな事もあるからさ」
「すみません。もうしません……。あの、聞きたい事があるんですけどいいですか?」
「もちろん。これだけ見られたら秘密にする事も出来ないしね。君の心の中だけに置いてくれるなら話せる範囲であれば話すよ。君も、ちょっと変わった力を持ってるみたいだし」
少年は少し肩をすくめる。
「変わった力ですか?」
「そう、君には、妖魔を気絶させる煙が効いてなかったよね。だからあの時は無理矢理気絶させる事になっちゃったけど、普通はあの煙を吸ったら君のお兄さんみたいに意識を失うはずなんだ。でもそれが効かなかったという事は、おそらく君の中に何らかの力があるってことなんだよ。この煙は身体の中にある“妖力”ってものに反応して発生するタイプなんだ……。多分、あの時近くに妖魔が居たから妖魔の“妖力”に反応して作動したんだとは思うけど、そこに来た君達のうちお兄さんは、“妖力”が無かったから気絶して、君は身体の中にある“妖力”の内容量が多かったから、煙の効力を弾き飛ばしたんだと思う。無意識の内にね。あの煙は“妖力”の少ないものに対して効く物だから、“妖力”を持たないお兄さんには効果てきめんだったろうね」
少年はそこまで話すと溜め息をつく。
「でも、結局あの狐の妖魔は気絶しなかったからそれなりに“妖力”を有してたんだろうけど。それと君もね」
蒼太は話を聞いていて理解出来る部分が少なかったが、考え込んでいる姿を見て、少年は微笑んでいる。
「ところで、お兄さんは何者なんですか? あんな化け物を倒せるなんて普通の人じゃないですよね?」
蒼太は一番聞きたかった事を聞いてみた。
「僕の事? そうだね、僕は《異能者》って呼ばれてるんだ。人間なのに身体に“妖力”を宿す者。普通は人間に無い力だからね。僕の他にも《異能者》は沢山いるよ? おそらく君もそうだろうし。ちなみに僕の名前は霧山神斗。神斗でいいよ、君とそんなに歳も変わらないだろうし。それから、タメ口でよろしく」
少年。改め、神斗は饒舌に話す。
「わかり……わかったよ。 ボクは東雲蒼太。ボクの事も蒼太でいいよ。でも、ボクにも“妖力”があるんだね。第一、《異能者》なんて初めて聞いたよ」
お互いに自己紹介を済ますと、二人は顔を見合わせた。
「怖い? まぁ、それもそうだろうね。“妖力”があるって言われても、困るだろうし。でも、日常生活には何も支障はないよ。普段は使う事もないからね。それに、《異能者》って存在も表舞台で活躍する訳じゃないから。妖魔なんて存在信じないでしょ。普通の人はさ。人間は目に見えないものは信じないからね」
「そうなんだ……。じゃ、今までもこういう事はあったって事? もしかして、最近起こってる連続神隠し事件も妖魔の仕業なの?」
「そうだよ。犯人は僕がさっき倒した狐の妖魔。何人か引きずり込んで人を食べたみたいだから、それなりに力も付いたんだと思う。言葉も話してたし」
神斗は、しかめた顔をしながら最近起きた神隠し事件について話をし始めた――。
読んで頂き、ありがとうございます!
しかし、バトルシーンは難しいですね。(´;ω;`)
反省点が沢山見つかりました。
これからも、頑張って行きますので宜しかったら、ブックマークと評価の方もよろしくお願いしますm(__)m




