第七話
「それじゃあ、まとめだね」
エミィが言った。
「いや、まだあと一つあるよ」
「えー。まだあるの~」
エミィとママは言った。
「世界の三大珍味と言われている食材って知っているかい?」
「エミィ知ってる~。キャビア、フォアグラ、トリュフ」
「正解~。エミィちゃん、偉いねぇ」
「フランスでは、この世界三大珍味なんだけど、キャビアは標準課税なんだけど、フォアグラとトリュフは軽減税率制度の対象なんだよ」
「あら、不思議ね」
ママが言った。
「フランスでは、フォアグラとトリュフはキャビアより格下なのかなぁ」
エミィがそう言うと、パパは苦笑する。
「そんなことないよ。世界三大珍味だよ。ただ、キャビアは、フランスでは海外から輸入しているんだけど、フォアグラとトリュフは国産なんだよ」
「つまり、国内の産業保護のためにやっているのね」
ママが言った。
「ママ。正解! つまりね。軽減税率制度は、消費税の逆進性の解消だけでなく、国内産業の保護という観点から利用することも可能なんだよ」
「なるほど~」
「他に疑問点がなければ、そろそろまとめに行くよ」
エミィもママも同意する。
まとめ
①マスコミのニュースも人間が作っているので、間違ったことを伝えることがある
②消費税には、フェイクニュースが多い
③税制度はなるべくビルドイン・スタビライザー機能のある制度を利用すべき
④ネットで調べてもフェイクニュースしか見つからないこともある
⑤逆進性は、消費税だけの専売特許ではない
⑥逆進性は二つの変数を持つ関数であり、消費税の逆進性は、『所得』と『消費税の負担率』の二つの変数を持つ
⑦消費税の逆進性は、低所得者が不利であることだけでなく、高所得者が有利であることも理解する必要がある
⑧消費税の逆進性には、低所得者対策ではなく、消費税の逆進性対策をする必要がある。
消費税の逆進性対策とは、低所得者の消費税の負担率を減らし、高所得者の消費税の負担率を増やすことである
⑨生活必需品を軽減税率制度の対象にしても消費税の逆進性対策にはならない
⑩軽減税率制度には、自国産業を守るために使われることがある
「こんなところだね」
パパが言った。
「でも、これって、ただ単に事実を確認しただけだよね」
ママが言った。
「その通りだよ」
「最終的には、どうすると良いのかしら?」
「つまり、事実確認だけじゃなくて総括したいってことだね」
「総括と言うのか、わからないけど、現在、消費税の逆進性も放置したまま増税されそうな状況にあるわけよね」
「そういうことだね。ただ、軽減税率制度を適用することによって、低所得者対策がされていると考える人たちがいるのも確かだろうね」
「低所得者対策はダメで、消費税の逆進性対策をしなければいけないのに?」
「残念ながら、多くの人が消費税の逆進性対策と低所得者対策が全くの別物であり、かつ、低所得者対策ではダメダメであることを知っている人が少ないからね」
「それじゃあ、低所得者対策をやめて、消費税の逆進性対策をするようにしないといけないと、日本中に広めたら良いのかしら」
「消費税を廃止してしまえば、誤解を解消する必要もないよ」
「パパは、消費税自体を廃止した方が良いと思っているの?」
ママが尋ねる。
「消費税の問題点は逆進性だけじゃないからね。消費税は、当面は増税延期か凍結。できれば、減税、廃止へと持っていくのが日本経済にとって必要なことだね」
「消費税の逆進性を改善して、使い続ける方法はダメなの?」
「確かに消費税の逆進性を改善する方法として、贅沢品の税率を高くして、廉価品の税率を低くする。口で言うのは簡単だけど、実際にすべての品目に対して、贅沢品なのか、廉価品なのか、判別するのなんて簡単じゃないよ」
「確かにそうねぇ」
「それを判別するためには、統計データが大量に必要になるし、そして、その大量の統計データを分析することも必要になる。大分、コストがかかるはずなんだよ。そこまでして消費税を維持するのかい?」
「税金を集めるのにお金を使うなんて本末転倒ね。たしかに」
「それに日本は、財政問題なんて存在しないんだから、消費税のような悪税制を使い続ける必要がないよね」
「日本には財政問題がないって本当なの?」
「それは、エミィちゃんのこの前の学校の宿題でやったレポートをみてね」
「なるほどね。そのレポートを見させてもらうわ」
ママが言った。
「本当は、消費税の逆進性以外にも消費税の問題点があるんだけど、それを語り始めると、逆進性の話以上に長い話になるからなぁ」
「そんな長い話になるの?」
「そうだね。例えば、『「10%消費税」が日本経済を破壊する』藤井聡著の本なんか読むと良く解るよ。ママには読みやすいかな。ただ、エミィちゃんにはちょっと難しいけどね」
エミィが不満そうな顔をする。
「他にも良書がいっぱいある。むしろ、消費税の逆進性の話が前座レベルの分量になるね」
ママは、顔をしかめる。
「今日は、これ以上お話すると、エミィちゃんも消化不良になりそうだしね」
「エミィ大丈夫だもん」
「エミィちゃん。偉いね~。でも、パパもそろそろお仕事に戻らないと」
「パパ、忙しいのにごめんね」
「大丈夫。良い息抜きになったよ」
「それじゃあ、最後にエミィたちがどうしたら良いのか、まとめよう」
パパは少し考え込む。
「そう言えば、エミィちゃんの宿題の時も、考えて、まとめたっけ」
パパが言った。
「うん。今までのまとめだけだと、消費税が問題だらけの税制だってわかっただけだし」
「パパの意見を言うと、デフレ脱却するまで、消費税増税は、絶対に阻止しなければならない。可能であれば、増税を凍結し、減税し、いずれは廃止にした方が良い」
「でも大型の間接税ってなくても良いのかしら」
「それなら、物品税のような奢侈税を復活したら良いと思うよ。ただしデフレ脱却してから、すべきだと思うけどね」
「結局、デフレが一番悪いって事かしら」
「そのデフレを産んでいるのが消費税なんだよ」
「そうなの?」
「ま、その話は別の機会にね」
「パパ。奢侈税ってどういう意味?」
エミィが聞いた。
「エミィちゃん偉いねぇ。奢侈税とは、贅沢な物やサーピスに課される間接税のことを、奢侈税と言うんだよ」
「そうなんだ」
「じゃ、他に質問ないかな」
エミィもママも頷く。
「それじゃあ、パパは仕事に戻るね」
そう言うと、パパはパソコンを持って、書斎へ戻っていった。