第五話
「さて、今度はエミィちゃんの質問だけど、確か、『生活必需品を軽減税率制度の対象品目にするという勘違いをした』理由についてだったよね」
エミィは頷く。
「軽減税率制度っていつから考えられていたか知っているかい?」
エミィは首を振る。
「小学生には、難しいよね。ママはわかるかい?」
「え、私も良く解らないけど、外国の付加価値税でやっているからでしょ」
「そうだね。だけど、外国の付加価値税の軽減税率は、日本の物品税を真似たものだとされているんだよ」
「ええ! そうなの!」
ママの驚きように、エミィも驚く。
「そして、物品税で生活必需品を軽減税率の対象品目にしていたから、生活必需品を軽減税率の対象品目にするという間違った考え方が生まれてしまったんだよ」
「物品税を導入していたころから、間違っていたってこと?」
「いやいやいや。それは誤解だよ」
ママが機嫌悪そうな顔をする。
「何が誤解なの?」
「物品税と消費税は、まったく違う税制度だって知っているよね?」
「そりゃ、同じだったら、物品税を廃止して消費税に変えたりしないわよね」
「エミィは、『物品税』なんて全然知らない!」
「そりゃそうだね。それじゃあ、物品税から説明しないとね」
物品税をグーグルで検索してみると野村証券のホームページの証券用語解説集に説明があった。
https://www.nomura.co.jp/terms/japan/hu/A03149.html
証券用語解説集
物品税
分類:税金
間接消費税の一つで、奢侈品や嗜好品を中心に特定の商品やサービスに対して課される税。最終段階で消費者に直接課税する直接消費税とは違い、メーカーの出荷時に課税されるため価格にそのまま上乗せされる。日本では1940年に制定された物品税法によって、宝石、毛皮、電化製品、乗用車、ゴルフクラブなどが課税対象となっていたが、1989年4月1日の消費税法施行に伴い廃止された。
「やっぱり、エミィには良く解らないよ」
「そうだねぇ。僕が解説すると、消費税と同じような間接税だったんだけど。今の消費税と違って、贅沢品にだけ、課税されていて、品物ごとに税率が違っていたんだよ」
「そうなんだ。でも品物ごとに税率が違うんじゃ、税率を覚えるの大変そうだねぇ」
パパとママは苦笑する。
税率はメーカーが覚えていて、税務署に支払ってくれるから、消費者は覚える必要ないから大変じゃなかったんだよ」
「そうなんだ~」
「話を戻すと、物品税には軽減税率が適用されていたんだよ。まさに生活必需品に対してね」
パパが言った。
「あ、そうか! 物品税で生活必需品を軽減税率にしていたから、そのまま、消費税にも適用しようとしているってことね」
「ママ。正解!」
ママが喜ぶ。
「物品税は、そもそも贅沢品にしか課税していなかったから、生活必需品に対して軽減税率にするだけで上手くいったわけだ。だけど、消費税は、ほとんどのものに課税されるから、生活必需品に対して軽減税率の対象品目にしても逆進性の改善に役に立たないんだよ」
「なんで、物品税ではうまく行ったのかしら?」
「そりゃ、物品税には元から逆進性がなかったからだよ。贅沢品はそもそも、低所得者より、高所得者の方が多く購入するかね。生活必需品は低所得者でも購入する可能性が高いからそれを除外するというのは理に適っていたんだよ」
エミィもママも納得する。
「それじゃあ、お金を配る方法も、軽減税率を適用する方法も、逆進性を改善できないってわけね」
ママが言った。
「そもそも、政府は低所得者対策をしようとしているだけだからね」
「そっか。低所得者対策だけだと、高所得者が有利なまま変わらないからだね」
エミィが言った。
「その通りなんだよ。政府がしなければいけないのは、逆進性対策であって、低所得者対策じゃないんだよ。それなのに低所得者対策をやろうとしているから、間違った方向へ進んでいるんだよ」
エミィとママは溜息を吐く。