第四話
「そんな酷い税制度を放っておいて良いの?」
エミィが尋ねる。
「パパは、間違っていると思うよ。だから、消費税に関する発言の場があったら、消費税減税、できれば、廃止をして欲しいと思っていると言ってきた。エミィちゃんが大人になる前にそうなったら良いと思っている」
「でも、パパ。政府は逆に増税しようとしているんだよね。どうして?」
エミィが尋ねる。
「どうしてだろうね。経済や税制度の問題点を全く理解していないか、そういう人たちに逆らえず仕方なくやろうとしているかのどっちかだね」
パパは困ったような表情で言った。
「だから、軽減税率とかやろうとしているのね」
ママも困ったような表情で言った。
「それがさらに問題なんだけどね」
「え、どうして!」
パパは少し考え込む。
「これもツッコミどころが多くてどこから話したら良いのか、いつも悩むんだけどね」
「これもフェイクニュースなの? いやねぇ」
「まず、消費税の問題に対して、政治家や官僚やマスコミの対応は、『低所得者対策』が必要だと言っているんだよ」
パパの言葉に、エミィとママはキョトンとする。
「低所得者が不利なんだから、低所得者対策をするのは良いんじゃない?」
ママが言った。
「エミィちゃんもそう思うかい?」
「多分ダメだと思う」
エミィは考えながら言った。
「どうして?」
「うーんとね。消費税の逆進性って、低所得者に不利で、高所得者に有利だから、えーとね。えーと」
エミィは悩みだす。
「良い線言っているよ」
「高所得者にもどうにかしないといけないから」
「偉いねぇ。エミィちゃん」
「また、エミィちゃんばかり依怙贔屓して!」
「小学生でここまで言えれば、すごいよ。
それじゃあ、軽減税率については、いったん棚上げして、低所得者対策についての問題点について考えようか。そうじゃないと、政府がやろうとしている軽減税率制度の問題点が分かり難いからね」
「そう言えば、さっきの消費税の逆進性も、『消費税の逆進性』の話より、ただの『逆進性』の話を先にした方が分かりやすかったんじゃないの?」
ママは気が付いて言った。
「さすが、ママ。良く気付いたね。数学の教科書的に説明するとそれが正しいね」
「数学嫌いなんだけど。別にいいや。それじゃあ、どうして『消費税の逆進性』の説明を先にしたの?」
「『逆進性』が消費税だけの専売特許じゃないことを強調したかったからなんだよ。あと、『消費税の負担率』の説明を先にしたかったからなんだよ」
ママはジト目でパパを見る。
「ま、そう言うことにしておいてあげる」
「いや、そういうことだから」
みんな笑う。
「低所得者対策と言うと、大きく分けると二通りあると言われているんだよ。一つが低所得者に、お金やらポイントやらを配る方法と、もう一つが軽減税率制度を生活必需品に適用する方法。ママは聞いたことがあるんじゃない」
「まあ、聞いたことあるけど、問題があるなんて聞いたことがないわよ」
「誰もその二つの方法に問題があるなんて説明している人は一人もいないからね」
「なんでパパは問題があると思うの?」
「そりゃ、正しい消費税の逆進性を理解しているから、自分の頭で考えれば普通にわかる」
「パパ。えらーい」
エミィが言った。
「エミィちゃん、ありがとう」
パパは喜ぶが、ママはジト目で見ている。
「まず一つ目の、低所得者にお金やらポイントやらを配る方法を提案している、政治家や官僚、マスコミがいるわけだけど、これの問題点はいたって簡単。例えば、所得がいくらの人たちまでお金を配るのか知らないけど、その配るお金はどこから来るの?」
「さあ」
ママは悩まず即答した。
「ママ、少しは考えてる?」
エミィがツッコむ。
「エミィちゃん。ナイスツッコミ」
「ママにばかりイジワルして~」
「まあまあ。普通に考えると集めた消費税から配るか、それ以外の税金で集めたお金で配るかするわけだよ」
「つまり、低所得者に配る分をどこかで補填するわけね」
「ということは、別の人たちがその分を負担することになる。すると誰に一番負担がかかると思う?」
今度はママも考える。
「結論から言うと、お金やらポイントやらを配られないギリギリの低所得者に一番負担がかかることになる。お金を配られる所得の人たちは、配られた分だけ、消費税の負担から逃れられるけど、配られない人たちにはまんま負担が残る。つまり、お金を配られた人たちは逆進性の不利な負担から逃れられるかもしれないけど、そうじゃない人たちには逆進性がそのまま残るんだよ。簡単に言うと生贄になる人たちの所得層が、お金をもらえる所得層からお金がギリギリもらえない所得層へシフトするだけなんだよ」
「なるほどねぇ」
「お金を配る方法だと、逆進性で発生する問題は、全然改善できないんだね」
エミィが言った。
「その通りだよ。エミィちゃん良く解ったねぇ」
エミィは喜ぶ。
「それじゃあ、軽減税率制度の方の問題は?」
ママが尋ねる。
「軽減税率制度を生活必需品に適用する方法は、いろんな意味で問題なんだけど……」
パパは少し考え込む。
「パパ。生活必需品って、何?」
ママはイジワルそうに尋ねる。さっきの仕返しで聞いたのだ。
「食料品と新聞だそうだよ」
パパはあっさり答える。
「え。どうして? それ以外にも生活必需品っていっぱいあると思うけど」
「さあ、政治家の皆さんが勝手に決めたことだからね。どんな根拠があるのかは不明だね。
僕の推測を言うと、食料品を生活必需品と決めても文句を言う人がいないからだと思うよ。そして、新聞を生活必需品としたのは、文句を言う人たちの口に蓋をするためだと思うよ」
エミィは可愛く笑う。
「いい加減な理由で生活必需品が設定されるのね」
ママが言った。
「そもそも生活必需品を軽減税率の対象にするという考えが間違いなんだよ」
パパがそう言うと、ママが驚く。
「そこもフェイクなの?」
「これは、たぶん誰か最初に勘違いした後、それがそのまま定着したんじゃないかと推測しているけど。本当のところはわからない」
「勘違いって、どうしてそんな勘違いをしたの?」
エミィが尋ねた。
「そんなことより、政治家が勝手に生活必需品を食料品と新聞に決めたから、生活必需品はこの二つだって言ったこと、納得いかないんだけど」
ママが言った。
「エミィが先に聞いたのに~」
「二人ともちょっと待って。うーん。話の筋からママの質問から先に答えるよ。エミィちゃんの質問もとってもいい質問だから、次にお話するね」
エミィとママは頷く。
「政治家は生活必需品とは、どういうものか定義していないんだよ。そのうえで、軽減税率制度の対象品目を決めたんだ。そして軽減税率制度の対象品目を生活必需品と呼んでいるわけだね」
「でも、洋服だって、生活に必要だし、お家だって、生活に必要だわ」
「それはそうなんだけど、例えば、車を考えてみようか。僕たちの住んでいるここは便利だし、最寄り駅も近いし、買い物するのに便利なお店も近所にある。この辺に住んでいる分には車は生活必需品とは言えないよね。だけど、最寄り駅まで自転車で三十分かかったり、買い物するのに、自転車で一時間かかるようなところに住んでいたら、たぶん車は生活必需品なんだよ」
「そりゃそうね。そもそも住んでいる場所やライフスタイルで生活必需品って変わるものだし」
「軽減税率制度の対象品目にするのに、人によって判断が変わっていたら困るでしょ。誰かが生活必需品を定義しないといけないわけだよ。だから、政治家が法律で生活必需品を決めて、軽減税率制度の対象品目としないといけないんだよ」
ママは悩む。
「そもそも生活必需品を軽減税率制度の対象品目にすること自体が間違いだから、これ以上悩んでも意味ないよ」
「それを言われると、身も蓋もないわね。でもなんとなく解ったわ。生活必需品は、人によって判断が変わるから、法律で決め打ちするってことよね」
「今の軽減税率制度の対象品目の決め方からすると、そう考えるのが妥当だということだね」
「それじゃあ、どういう風に軽減税率制度の対象品目を決めるのが正しいの?」
「その疑問は、さっきのエミィちゃんの質問に答えてからにしようね。順番だから」
「約束は守らないといけないわね」