第二話
パパは食事を終えると、リビングにパソコンを持ってくる。
エミィとママもリビングに集まる。
「それじゃあ、早速、『逆進性』について調べるね」
するとコトバンクが検索された。
https://kotobank.jp/word/逆進性-476062
逆進性(読み)ギャクシンセイ
デジタル大辞泉の解説
ぎゃくしん‐せい【逆進性】
それぞれが逆の方向に進む傾向。例えば、消費税率が上がると低所得者ほど収入に対する食料品などの生活必需品購入費の割合が高くなり、高所得者よりも税負担率が大きくなるということ。
出典 小学館デジタル大辞泉
「わからないときは、ネットで調べると早いね~」
エミィが言った。
「ごめんね。エミィちゃん。ネットの情報が正しいとは限らないんだよ」
パパは申し訳なさそうに言った。
「人間のやることだから、間違えることがあるってことだね」
エミィちゃんが言った。
「え、エミィちゃん。そうだよ。偉いねぇ」
パパは嬉しそうに言った。
「そうねぇ。『それぞれが逆の方向に進む傾向』て、いまいち意味が良くわからないわ」
ママが言った。
「ママの指摘もナイスだね」
「『例えば』以降も、それぞれが逆の方向へ進む傾向の説明じゃないとおかしいのに、そうなっているようには読み取れないわねぇ」
「その通りだね。とまあ、これがフェイクだと判ったら、忘れてしまっていいよ」
「でも、収入に対して、生活必需品の購入金額の割合が、高所得者は少なくて、低所得者が多いから、低所得者の税負担率が高い、て逆進性の話をするとよく聞く話だけど」
ママが言った。
「エンゲル係数と逆進性の話がごっちゃになって、訳わからない話だね」
ママは絶句する。
「食費と生活必需品が、何気なく入れ替わっているところが、さらに絶妙に本当ぽく聞こえるフェイクだ」
「結局フェイクなんだぁ」
エミィが笑う。
「エンゲル係数ってなあに?」
エミィが尋ねる。
小学生には、あまり聞きなれない言葉である。
「それじゃあ、コトバンクに汚名返上させてあげよう。デジタル大辞泉の解説を採用しよう」
https://kotobank.jp/word/エンゲル係数-38103
エンゲル係数(読み)エンゲルけいすう
デジタル大辞泉の解説
エンゲル‐けいすう【エンゲル係数】
家計の消費支出総額中に占める食料費の割合。一般に、この係数が高いほど生活水準が低いとされる。
出典 小学館/デジタル大辞泉
「ふーん。そうなんだぁ」
エミィが言った。
「こうして調べてみると、パパが言った通り、エンゲル係数と消費税の負担する割合が混同しているみたいね」
ママが言った。
「それだけ、消費税にまつわるフェイクニュースが多いってことが分かったかな」
エミィとママは頷く。
「ところで、本当の消費税の逆進性ってどういう意味なの?」
ママが尋ねる。
「本来は『逆進性』の説明からするのが正しいと思うけど、先に『消費税の逆進性』についてお話するよ」
パパがそう言うとエミィとママはキョトンとする。
「消費税の逆進性について活字でちゃんと説明している参考文献が見つからなかったし、動画等でも丁寧に説明してくれている人がほとんどいないので、僕のオリジナルの説明になるよ」
「調べた結果じゃないんだ~」
ママが言った。
「小学生のエミィにはちょっと難しいけど、ガンバって聞いてね。最後にちゃんと解りやすくまとめるから」
消費税の逆進性とは、
年収[円]
と
(年間消費税支払額/年収)×100[%]
の二つの変数が、逆進性の関係にあることを消費税の逆進性という
「こんな感じかな」
パパが言った。
「パパ。フェイクニュースはダメよ」
ママが言った。
パパはコケる。
「フェイクじゃないって」
「でも全然意味わからないわ」
「そうだと思ったよ」
ママが剥れる。
「また、バカにして!」
「えーとね。ママが理解できない理由は簡単でね。逆進性って何なのか、知らないからなんだよ」
「どういう意味」
「逆進性って言うのは、消費税だけの専売特許だと思っている人が多いんだけど、そうじゃない。だから、消費税の逆進性とそれ以外の逆進性を区別する必要があるんだよ」
「うーん。余計わからないかなぁ」
ママが苦悩している。
「例えば、アマガエルとウシガエルの違いと言ったら、
アマガエルは、緑色で小さくて可愛いカエル、
ウシガエルは、大きくて獰猛で、日本の生態系を破壊する外来種のカエル
て感じにだよね」
「なんで、カエルの話になるのかわからないけど、そうね」
「でも、今の説明ってカエルを知らない人にしたら、意味わかると思うかい?」
「カエルの説明が必要なんじゃないかしら」
「その通りだね」
「あ、わかった。つまりいろんな種類の逆進性があるから、その一つが消費税の逆進性だって言っているのね」
「そういうこと、そして、他の逆進性と消費税の逆進性を区別する方法が、この二つの変数、『年収[円]』と『(年間消費税支払額/年収)×100[%]』というわけだよ」
「なるほど~」
ママが納得したが、エミィはつまんなそうにしている。
「ちなみに『(年間消費税支払額/年収)×100[%]』の『消費税』を『所得税』に置き換えたらどうなるかな?」
「そりゃ、『(年間所得税支払額/年収)×100[%]』てことじゃないの?」
パパは吹き出す。
「また、バカにして~。イジワル!」
「いやそうじゃなくって、この変数は何って聞いているんだよ」
ママは少し考え込む。
「知らない。知っている変数なの?」
「知っているはずだよ。『所得税率』だからね」
「あ……、そうか。なるほど」
「こう言うと、『(年間消費税支払額/年収)×100[%]』を消費税率って勘違いする人がいるけど、消費税率は、八パーセントで固定だから、変数じゃないよ。だから、この変数は消費税率じゃないからね」
「ふむふむ。確かにそうね」
「この変数には、名前がないから僕が命名するよ。この変数を『消費税の負担率』ということにするね」
「うん。わかったわ。つまり、所得税における所得税率に該当する消費税の変数を『消費税の負担率』て呼ぶわけね」
「正解! さすがママ。愛してるよ~。じゃあ、次は『逆進性』の意味を知らないとね」
「さっきのカエルの話で言うところの、カエル自体の意味を知るってことね」
「そういうこと」
x:変数
y:変数
F:関数
A:定数
F(x,y)=Aの関数が存在するとき
xの値が増加するとき、yの値が減少し、
xの値が減少するとき、yの値が増加することを
xとyは逆進性の関係にあると言い、関数Fを逆進性の関数と言う。
「て感じかな」
パパは説明する。
「つまり、逆進性は二つの変数を持つ関数だったのね」
「そうだね。そして、x軸y軸のグラフを描くと右肩下がりのグラフになる」
「だんだん解ってきたわ」
ママが言った。
「ここで『逆進性』の説明を踏まえて、もう一度『消費税の逆進性』を説明するとね」
x:年収[円]
y:消費税の負担率[%]
F:関数
A:定数
F(x,y)=Aの関数が存在するとき
年収が増加するとき、消費税の負担率が減少し、
年収が減少するとき、消費税の負担率が増加することを
消費税の逆進性と言い、年収と消費税の負担率は逆進性の関係にあると言う。
「となるわけだ」
「良く解ったわ」
ママが満足そうに言った。
「ずるいよ~。エミィ全然わからない!」
エミィが怒る。
「ごめんね。確かに小学生には難しいよね。エミィちゃんが中学生になったらもう一度勉強しようか」
エミィの機嫌が悪い。
「それじゃあ、エミィちゃんが分かるように説明するね」
消費税の逆進性とは、
低所得になれば低所得になるほど、不利であり、
高所得になれば高所得になるほど、有利である、
消費税の特徴の事を消費税の逆進性という
「わかったかな」
エミィは嬉しそうに頷く。
「初めからその説明で良くない!」
ママが抗議する。
「難しい方の説明をちゃんと理解していないと、逆進性の対策とか、正しく考えられないからね。大人はちゃんとした難しい方の説明を理解しないとダメ」
ママが拗ねる。