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文学少女の恋分析

作者: KELP

 私には恋と言うものがよく分からない。


 とは言え、対人関係における好悪の感情はもちろん有るし、愛情がわからないなんて言うつもりもない。

 元々放任主義だった母が、ちょうど私が小学4年生に上がった頃、私が一通りの家事が出来るようになったのを期に、育児を理由に辞めていた仕事を再開し、両親が共働きになった事で、両親と接する時間は減ったけれど、両親のどちらかが必ず、毎日ある程度は話ができる時間を確保出来るように調整してくれてたし、夏休みなんかには、遊園地だとかキャンプだとか海水浴だとか、その年頃の子供が経験しておくべき遊びには、休みを合わせて連れて行ってくれた。まぁ、インドア派の私はその都度、アウトドア派でテンションの上がりきった兄に連れ回されて大変な思いをしたものだけど、それも良い思い出だ。何が言いたいのかと言えば、両親はきちんと愛情をもって私達兄妹を育ててくれているし、ガサツでデリカシーに欠ける部分も多々あって、物申したい事も多々あれど、何だかんだで兄も私を可愛がってくれている。家族が私に愛情を向けてくれている事を私も分かっているし、私からも相応の愛情を返しているつもりだ。

 思春期に入り、お互い高校生ともなれば、兄との間に微妙な距離感が出来るのは、まぁ仕方の無い事だろう。ラノベのブラコンシスコン兄妹じゃあるまいし、兄の生々しい性の部分なんて私は知りたくもないし、兄にしても妹のそう言うのは知りたくないだろう。……家事担当が私だから、家族の衣類を洗濯する時にあれこれ察する部分もあったり無かったりする訳だけども。兄のもだけど、両親も元気で仲が良いのは良いことだよね……。


 ともかく、家族仲も良好で、小学校、中学校と、特にいじめられたりすることもなく、無難に過ごし、先生にそれとなく受験先の上方修正を促されつつも、結局、中堅より少し上程度の地元の公立高校に進学した私にとって、目下の最大の悩みが、恋と言うのがわからない、と言うことなのだ。

 小中学校を山も無く谷も無く、真面目な優等生と言うレッテルをべったり大量に貼られながら無難に過ごしてきた私には、もちろん彼氏が居た経験なんて無いし、それ以前の問題として、誰かに告白した事も、誰かから告白された事も無い。

 高校デビューと言うのとは少し違うけれど、私も思春期真っ只中の高校生。興味の無いふりをしてみたところで、そのせいで周りから堅物化石扱いされてても、彼氏彼女と言うものに興味が無いはずもなく、恋愛と言うものに相応の興味も憧れもあるわけで、当然、その先のアレコレについても人並みには、な訳で、告白したのされたの、誰と誰が付き合ってるのなんて話が聞こえてくると、つい耳をそばだててしまうのはどうしようもないと思われる。

 いや、焦ってどうなる物でもないのは私だって理解してるつもりだけど、そろそろ焦るべき時期に来ているんじゃないかと思ってしまうわけで……。中学生の頃は、まだ私はそう言う時期に差し掛かって無いだけで、そう言う時期がくれば、何となく分かるようになる物なんだろう、と先延ばしに出来た。アイドルや俳優相手の疑似恋愛的な物でも、人を好きになる感覚が何となくでも分かっていれば、ここまで焦る事も無いのだろうけど、そう言うのすら心当たりが無いから、もしかしたらこれは致命的なのではないかと懸念してしまう。

 早い人だと幼稚園の頃に初恋を経験するらしいし、ありがちだけど、兄の初恋も幼稚園の先生だったらしい。振り返って私はと言えば……幼稚園の頃は絵本ばかり読んでた気がする。先生は女の先生だったし、そもそも、お遊戯とかを除いて、男の子と遊んだ記憶が……。小学校では当然女子グループ、私が所属してたのは比較的真面目で大人しいタイプの子の集まりだったから、男子との交流なんて行事の時くらいしか無かった。休み時間も図書室に行ってる事が多かったし……。中学の頃も似たようなものだ。ブスと言われることは無かったけど、特別可愛い訳でもなくスタイルが良い訳でもない、社交性に乏しい地味な堅物メガネ女なんて、思春期真っ只中(ヤりたいさかり)の中学生男子が気に止めるはずもない。

 改めて思い返してみると、交際以前に私はまともに異性と交流した事がない。多少でも話した事があるのは、家に遊びに来た兄の友達数名くらい。女の子の手料理で本当に感激する男の子も居るんだと、妙な感心をした記憶が……。うん、終わってるかもしれない。


 どうやら、今の私に必要なのは、恋愛云々を思い悩む前に、まず異性とまともに交流する方法を模索することであるらしい。とりあえず、笑顔の練習でもしてみようか? なんて思いながら、なんとなく指先を口元に当てて、少し口角を上げてみる。そこまでして、私はふと、我に返った。慌てて周囲を見回して、誰も見ていない事を確かめてから、ホッと小さく溜め息を吐いた。少し頬が熱い。

 今、私が居る場所は、自宅の自室じゃなく、学校の図書室。貸し出しカウンターの内側だ。期末試験の試験休み明け、長期休暇前の答案返却と試験の解説の為の登校日で、学校に来ている受験生が勉強出来るようにと言う名目で図書室を開けているだけだから、利用者なんてほとんど居ない。だから私もつい、暇に明かして愚にもつかない悩みで思い悩んでいた訳だけど。

 ふと時計に目を向けると、閉館時間間際になっていた。軽く頭をふって脳裏から悩みを追い出して、改めて図書室の中を見回してみる。少なくとも、貸し出しカウンターから見える場所には誰も居ない。時間的に、もう駆け込み利用者も居ないだろうから、念のために返却BOXの中を確認してからカウンターを出る。返却された本があれば、その処理をしてから書架に戻しに行くんだけど、今日は返却された本はない。閲覧室を回って、人が居ないのを確認しつつ、放置されたままの本が無い事を確認して、引かれたままの椅子が有れば、それを戻しておく。書架の細かいチェックは今日はしなくて良いから、本当にざっと書架の間を見て回って、最後に新規納入本の棚を見る。新規納入本と言っても、流石に今月は何も新しい本は無い。新規納入本のほとんどは、図書会議で決まった本の購入で、たまに誰かからの寄贈本が入るくらい。先生の話では数年に一度くらいの間隔で他所の図書館とかから古い本が回って来たりもするらしい。ちなみに新規納入本として読書離れの歯止めのためにって名目でラノベが入る事もある。さらにちなみに、数ヶ月前の図書会議で、LGBTへの理解を深めるためになんて名目でBL小説を推した剛の者が居たけど、流石にそれは却下になった。私は基本、濫読家だけど、BLモノはダメだった。これって片方女の子で良いよね? こっちの子の反応も感性も普通に女の子だよね?って感想になった時点で、きっと私には腐の適正は無かったのだろう。まあ、私が恋について悩んでいるせいもあるのかも知れないけど。LGBTについては、そう言う人達も普通にしあわせに暮らせる社会になると良いね、とは思うけど、自分がその対象になったら普通に無理と断言できる。そう言う子とも、友達付き合いまではできると思うけど、女の子との恋愛とか、キスやそれ以上のスキンシップとか、普通に無理だし、万が一にも、兄が彼氏を連れて来たらドン引きする自信がある。両親が実はそっちの人でしたとか言われたら、きっと人間不信一直線だ。……なんて、どうでも良い暴走をしかけた思考を改めて振り払い、一通りの確認を終えた図書室の明かりを消して、図書室に鍵を掛ける。鍵を職員室に返却したら下校するだけだ。昇降口で待ち合わせ、とかが有れば良いけど、もちろん私にはそんな予定も無ければ、誰かに待ち伏せされる心当たりも無い。って……



「お兄ちゃん?!」


「おお、遅かったな」


「受験生なのにこんな所で何して……」


「そろそろ帰るとこだろうと思ってな、気分転換の散歩がてら迎えに来た」


「散歩って……」



 兄の言い分に、私は呆れたようなのが声を出してしまう。地元の高校と言っても、おおよそ学校から最寄りの液まで徒歩5分、そこからローカル線で3駅、20分ほどで家の最寄り駅に着く。駅から家まで徒歩10分かかる。電車の待ち時間も入れたら通学には45分くらい見なきゃいけない。普通、散歩で済む距離と時間じゃない。まあ、心配して迎えに来てくれたのは素直に嬉しいけど。……まあ、うん。ラノベのブラコン妹みたいに兄にべったりとかは有り得ないし、スキンシップにしたって手を繋ぐのも微妙だって感じるけど、私はきっと、世間一般の基準から言えば、間違いなくブラコンだと言うのは認めざるを得ないだろう。今だって、呆れたように呟きつつも、口角が自然に上がってる。



「まあ、アレだ。家に着く頃にはもう暗くなる時間だしな。世の中、女なら何でも良いってトチ狂った野郎も少なくないし、通り魔とかも居ないとは言い切れないしな」



 ジトッと見つめると、兄は照れたように目をそらしながら、ポンポンと私の頭を軽く叩いた。セットが乱れるから頭にはなるべくさわって欲しくない気持ちと、兄に子供扱いされる安心感がせめぎあう。だから、思わず「むう」と唸り声を上げてしまった。



「お前ももうちょっと愛想よかったらなぁ」



 私の声を不満だと思ったのだろう。兄はそんなことを言いながら、「帰るぞ」と歩きだす。男からすれば、料理上手ってのはポイント高いんだぞ、とか、お前くらいの家族の贔屓目込みでも70点に届かない、そこそこ可愛いくらいの方が男からすると気兼ねが無くて良いんだとか、なんとも反応に困る、襲われる危険性が十分あるから気をつけろと言いたいのだろう、微妙な発言を繰り返しながら、この兄は、電車に乗ると私が痴漢に合ったりしないように、キッチリとガードしてくれたりする。


……私が恋愛に疎いのは、実はこの兄のせいなのかも知れない。

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[良い点] 分からないと言いつつ、考えようとしているところ。最後に、機会が兄によって減らされていることになっていることに自分の中で一応の原因らしきものを見つけたっぽいところ。 [気になる点] 主人公以…
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