死後の世界
暗い、いや、目が見えてないだけか
静かだ、いや、耳が聞こえてないだけか
動く事もできない、いや、最早私に肉体は存在しない
ここはどこだろう、いや、考えたくないだけでわかっている。ここは恐らく死後の世界、私は病院で薄れゆく意識を手放したのだからそうだろう、間違いなくここは病院では無い。
しかし思えば短い人生だった、いい事など一切無かったとは言わない、恵まれぬ環境で育ったとも言わない、ただ短いと言い切れる位には私は何もやり遂げてない、中途半端だ、親から貰ったこの命は全力を出し尽くす事もなく、ただいたずらに時間だけを浪費し燃やし尽くしてしまったのだ。
あぁ・・・もう一度人生があれば、あの時の選択を誤らなければ、きっとほとんどの人が一度は考えたであろう事、でも叶うはずも無い事を思う。
まあ今更こんな事を考えてもしょうがない、と過ぎた事を考えるのは止める。
それより今はどうなっているんだ?死した今恐らく五感は働かず肉体ももう存在しないはず、でもこうやって思考することは出来る。
「我思う故に我あり」なんて言葉があったが、なら肉体が無くとも今思考する私はここにいると言う証明になるだろうか。
しかし今居る死後の世界(仮定)とは何だろう?このまま永遠に思考する事しか出来ない虚無の世界?それとも天国か地獄かにでも向かっている途中か?もしそうだとしたらどちらだろう・・・犯罪こそ起こさなかったが、命を無駄に浪費したのは罪のうちに入るだろうか。
できることなら天国へと行きたいものだ。
「ようこそ」
突然声が聞こえた、中年くらいの男性の声。
驚いた、突然話し掛けられたのもそうだが肉体無き今も声が聞こえる。
(ここはどこですか?)
喋る事は出来ないがどこに居るかも分からない男に届くかも分からない意思を飛ばしてみる。
「どこだと思います?」
意地悪く男は言う、どうやら私の意思は男に届いているらしい、ただ質問に質問で返すのはタブーだろ、と内心思いながらも質問に答える。
(死後の世界・・・ですよね?)
「そうです!話が早くて助かります」
男は少し嬉しそうな口調で話す
「突然ですが貴方は人生に後悔、未練はありませんか?」
(人生に一切後悔や未練の無い人なんて居るのでしょうか?)
先程の仕返しとばかりに質問に質問で返す
「おやおや、質問に質問で返すのは感心しませんなぁ」
さっき自分で同じことをしているのを分かって言っているのだろうか、だとしたらなおタチが悪い
「まあ先程私も同じことをしたので答えましょう」
やっぱり分かってやってたのかコイツ
「確かに人生に後悔や未練を一切持ってない人はほとんど居ませんでした、何かしらやり残した事、やり遂げられなかった事、やってみたかった事があったみたいですな」
居ませんでした?この男は同じ質問を他の人にも何度かしているのか?
「そこで話しの続きに戻るのですが、もし、もし!人生をもう一度やり直す機会があるとしたら貴方はどうしますか?」
人生をやり直す?それが本当ならば後悔ばかりの人生だった私には願ってもない機会だが・・・
(本当に人生をやり直す事が出来るんですか?)
「ええ、出来ますよもう一度だけ、もう一度だけであれば」
もう一度だけ・・・もう遅いと思った事をやり直せる、機会が!
(やり直したい!許されるならば!チャンスがあるのならば!私は!)
「どうやら答えはもう出てるみたいですね、では人生をやり直すにあたり、この世界について知ってもらいましょう、冥土の土産にね」
この世界?下らない冥土ジョークはスルーし、話を聞くこととする。