秋根と冬根
「それじゃ行こうか」
俺は車に乗り込んだ。助手席に座る。運転手は近藤さん。俺はもちろん運転なぞできない。
ちなみに鈴鐘は後ろの席に座った。
車は発信した。近藤さんは黙々と運転を行っていると口を開いた。
「いやぁ〜天気がいいねぇ。絶好のドライブ日和だ。まぁ、あいにく向かうのは敵のアジトな訳だけど」
「そうですね。でも、近藤さんがいれば大丈夫でしょう」
冗談ではなく俺は本心からそう思っている。近藤さんは超強い。
あの科学者と名乗る男には負けてしまったが、あれはレア中のレアケースだ。
「近藤さん、本当にアジトに辿りつけるんでしょうか?」
鈴鐘が訊いた。
「大丈夫。今、千里眼を使いながら運転しているから」
すごいな。千里眼を使いながら運転するとか、チート過ぎる。
修行が嫌で家に隠れていた時、近藤さんの魔法、『千里眼』であっという間に見つけられたことがある。
「藤嶋くん、アジトには最低二人は敵がいるはずだから覚悟しておいてね」
「はい」
俺は端的に返事した。
入学して一ヶ月ちょいしか経っていないが、こんなに他人と戦うなんて思ってなかった。
これもマリー先生に授業で手を抜いていたのを見透かされたせいである。
こんな事なら松組に行けば良かったかもしれない。
まぁ、今そんな後悔しても手遅れなのだが。
「わ、私も戦います!」
鈴鐘はいつになく大きめな声でそう言った。
「ありがとう。助かるよ。だけど、戦いは基本的に僕ら二人に任せてね」
諭すような口調で近藤さんは言った。まぁ、近藤さんからしたら、今の鈴鐘の力は非力だと思ってるのかもしれないな。
「はい……」
車で移動し始めてからおよそ三十分後、ようやく到着した。
目に入ったのは古く錆びたコンクリートの建物だった。雰囲気はというと実に不気味で、まるでお化け屋敷という感じである。確かにアジトには最適かもしれない。
「さて入るよ」
近藤さんが促した。
「正面から入るんですか?」
俺は大胆とも言える近藤さんの行動に驚愕した。
「ああ、話し合いで解決できる可能性も少しはあるからね。二人は僕の後ろにいて」
近藤さんの指示どおり、後ろに付いて行ったら。鈴鐘はいつになく緊張しているようで、杖を強い力で握りしめていた。
近藤さんはドアノブをひねった。鍵はかかってないようであっさりとドアは開いた。
中は薄暗い。建物の中は様々な機械や工具が置かれていた。さらに壁にはところどころ赤い色の液体がへばりついていた。これはペンキ、いやまさか血か?
見た感じ、誰も人はいない。俺たちはゆっくりと奥に進んだ。
「止まれ」
いつの間にか近藤さんは白いローヴを纏った人物に拳銃を突きつけられていた。まるで気配を感じるなかった。
「分かった」
お手上げとばかりに近藤さんは手を挙げた。俺も合わせて万歳のポーズを取った。
「貴様ら何ものだ? 何しにここにきたか?」
声の感じからして女性っぽい。
「緑色の科学者さんに用事があったんだけどいるかな?」
「いない。帰れと言いたいところだが、この場所のことは忘れてもらうか」
次の瞬間、近藤さんは拳銃を目にも止まらない速さで奪い去った。
「物騒なもの持ってるなぁ」
「貴様……」
暗くてあまり見えないが、鋭い目つきを俺たちに向けてたのが確認できた。
「君たちは何をしたのかな? どうして魔法学校の生徒を誘拐した? どうして誘拐された生徒達は魔法が使えなくなった?」
「そこまでバレてるとはな。なら仕方ない。ただで返すわけにはいかない」
「ならこっちも抵抗させてもらおうかな」
二人から魔力の波動が感じられた。この感じはお互い臨戦態勢に入ろうとしている感じだ。
「お前ら、何をしている?」
誰かがドアに入ってきた。緑色の髪をした、白衣を来た女性だった。
「秋根。こいつらが私たちのことを嗅ぎつけてきた。今、こいつらの記憶を消そうとしたいたところだ」
あの科学者は秋根という名前らしい。
「そう。それは厄介ね。秋根。あとはお願い。私は寝るから」
そう言い、秋根は悠々と俺たちの横を通り過ぎようとした。
「待て。うちの生徒はどうして魔法が使えなくなった? お前は人体実験で何をしたんだ?」
俺は秋根の前に立ち塞がった。
「どいて、私は眠いの」
秋根は不機嫌そうな顔をしていた。おお怖。この人、美人だけど何か闇でも抱えてそうな感じがするな。
「そうはいかないわ。あなたには聞かなければ行けないことがたくさんあるの」
鈴鐘は秋根の顔に杖を突きつけた。こいつ、中々度胸あるな。
チッと秋根は舌打ちをした。
「冬根。こいつらまとめてぶっ倒してくれない?」
名前的にもしかして二人は姉妹だろうか。
「分かった」
次の瞬間、鈴鐘の横に移動していた。
「な......」
鈴鐘は唖然としていた。またもや全く気配を感じれらなかった。
「アイスブレイ……」
冬根は鈴鐘に対して魔法を使おうとした。
しかし、呪文を唱えきる前に、近藤さんが冬根の体を殴った。
冬根は顔をしかめて、近藤さんから距離を取った。
「いって......」
「悪いけど、君の相手は僕だよ。冬根さん」
冬根は鬱陶しそうにローブのフードを脱いだ。淡いピンク色の髪型で顔は冬根と似ている。やはり姉妹のようだ。
「秋根。ちょっと三人まとめては無理だ。この二人は頼んだ」
それを聞き、秋根ははぁ......とため息を吐いた。
「しょうがない。それじゃ、覚悟はいいかしら? 二人とも、実験材料にしてあげるわ」
そう言うと、秋根はスボンのポケットから何かを取り出した。
栄養ドリンクのようだった。グビグビと飲んでいる。
「まずはこれを飲まないとね〜」
呑気そうに秋根は飲み続けている。隙だらけじゃないか?
「フィジカビリティアップ」
俺は身体能力が向上する陽魔法を唱えた。
そして、一気に秋根の後ろに回り込み、蹴りを入れた。
しかし、後ろを向いたまま、俺の脚は秋根の手に掴まれた。
「中々いい蹴りだな。褒めてやるぞ」
あっさりと俺は投げられた。地面に体を打ったが、あまり痛みはない。というか着地場所に工具とかなくて助かった。
「藤嶋くん!」
心配そうに鈴鐘が叫んだ。
「すまない。大丈夫だ......」
「さて、飲み終えたし早速、実験を開始するかな」
ずんずんと秋根が近づいてきた。
「全く......科学者にはろくなのがいないな」
俺はなんの魔法を使うべきか模索し始めた。




