明石秋鹿
「マリー先生、ただいま戻りました」
現在、十二時十分。俺たちは職員室にいる。ちょうど今はお昼休み。
職員室でブラウン色の長い髪、ブルーの瞳という日本人離れした容姿を持つマリー先生は疲れた顔をしていた。
「近藤さん、ありがとうございました。藤嶋と鈴鐘もお疲れ様。それで犯人の場所は分かりましたか?」
近藤さんは頷いた。
「はい。少し遠い場所でしたが。今すぐにでも乗り込んで行こうと思います」
すると、マリー先生の表情が曇った。
「今からですか......私も行きたいんですがちょっと授業に出なくてはいけないので」
「そうですか。なら、私たちだけで行こうと思います。それで、車を貸していただけますか?」
「分かりました。ご用意します。ちなみに私の車は魔力で動かない車ですがよろしいですか?」
現在に車には魔力で動くものと従来のようにガソリン、もしくは電気で動くものでできている。
どちらでも動くものもあるが非常に効果である。
もちろん、魔力の方がエコであるが、魔力を使うのは疲れると言って、魔法使いの中でも後者の車を選ぶものも少なくない。
「はい、むしろそっちの方が助かります。戦いになったら少しでも魔力を使わないでおきたいですから」
まぁ、犯人のところに乗り込むならそういった場合もありえるな。
「分かりました。鈴鐘、お前はどうする?」
鈴鐘はマリー先生に質問されたが無表情のまま返事をした。
「どうすると言いますと?」
「これから行く場所は危険なところかもしれない。はっきり言って今のお前では近藤さんと藤嶋の足手まといになることもある」
「なるほど......やはり、藤嶋君は私を凌駕するくらいの魔法使いってことですね。なら、行かせてください。私は少しでも成長したいですから。魔法使いの成長の近道は修羅場を潜り抜けることだって教科書に書いてました」
ふぅとマリー先生はため息をついた。
「修羅場ねぇ......そうだな。魔力も魔法の質もどんな修行より、実戦で急成長するって言われているからな。近藤さん、二人を頼んでもいいですか?」
「ええ、もちろん。藤嶋君は自分で自分を守れるはずですし問題ありません」
近藤さんは自信満々で答えた。俺の方は危なくなっても自分でなんとかしろってことか。
「では、よろしくお願いします。近藤さん。それじゃ、一時前に校門の前で待っててください。鈴鐘は魔法の杖を持っていくように」
俺は一度、鈴鐘と一緒に教室に戻ることにした。席に付き、俺は焼きそばパンを取り出した。
鈴鐘は弁当を出した。
「藤嶋君、あなたはもう魔法の杖なしで魔法を使えるの? 一ノ瀬さんの家を訪れた時、確かに魔法を使ってたわよね」
昼ごはんを食べながら俺たちは会話を始めた。
「まぁな」
端的に答えた。
「腑に落ちないわね。どうしてわざと手を抜くようなことをしているの? メリットなんてなくない?」
こいつ、頭がいいのか悪いのか。デメリットの方が大きいだろう。
「分かってないな。例えば俺が主席でこの高校を卒業したとする」
「いいじゃない......」
心底、どうなるか分かってないようだ。
「すると、政府は俺は確実に国直属の魔法使いにするだろう。国直属の魔法使いはとにかく激務で危険だらけだ。今はまだ日本は戦争してないが、これからもしないとも限らない。俺は適度に生きていきたいからこそ入試で手を抜いた」
これこそまさに日本の社会の闇だと思っている。優秀な人材が激務やストレスで潰されていく。
俺はまったり適度に生きていきたい。
「それじゃ、面接中アークミー量を抑えたってこと? そんなことできるの?」
「ああ。そうだ。この学校の面接が魔力の量を測るものってことは大体想像がついたからな。面接室に入った瞬間、面接官が魔法を使ってるのを感じられたから俺はすぐに魔力を抑えた」
「なら、あなたの本当のアークミー量はどれくらいなの?」
「さぁ、分からないな。測ったことないから」
俺は嘘を言った。本当は自分の魔力を把握している。
「藤嶋君、鈴鐘さん。午前中、居なかったけど何をしてたの?」
突然、明石秋鹿が俺たちに話かけてきた。
この生徒は赤がった髪色と赤い瞳が特徴の生徒で、積極的な性格でクラスでも中心的な存在で男女ともに人気が高い。胸の戦闘力は鈴鐘よりも明石の方がはるかに上である。
あんまり友達がいない俺たちにも気を使ってくれるしな。そういえば、ぼっちの鈴鐘が明石と実技でペアを組んでいた。
「別に......何でもないわ」
「そんな〜何があったか教えてよ。二人でデートでもして授業サボってたの?」
「冗談にしても笑えないわ。ないわ。絶対にないわ。地球が滅亡するくらいありえないわ」
おいおいおい、そこまで言うか。
「授業そっちのけで手伝って欲しいことがあるってマリー先生に言われてな。俺と鈴鐘はそれに手伝った感じだ」
「手伝って欲しいことって?」
ふむ、何て答えたらいいだろうか。思いつかない。素直にうちの学校の生徒を退学に追い込んでいる犯人を探す手伝いをしているって答えたらいいのだろうか。
「生徒会のお仕事よ。私と藤嶋君、生徒会に所属しているから」
ほう、俺は生徒会に所属したことになったのか。知らなかったなぁ。
「そうなんだ! 二人とも生徒会に入ってるんだね! すごい!」
明石は素直に感心しているようだった。
「午後もその手伝いをしなくちゃならないの。それじゃ、明石さん。またね」
鈴鐘は弁当の蓋をし、教室から去っていった。
「鈴鹿さん、藤嶋君と仲がいいんだね。いつも、一人でいることが多いと思ったけど」
「別にそこまで仲がいいわけじゃない。明石の方が一緒に実技でペアを組んでるし、仲がいいと思うぞ」
すると、明石は浮かない表情をした。
「鈴鐘さん、誰も一緒に実技で組む人が居なかったから私が組んだの。誰も仲のいい人がいないと思ってたけど藤嶋君と仲がいいみたいで安心した。藤嶋君、鈴鐘さんのことよろしくね!」
何をよろしくなんだろうか。
「ああ」
一応、そう返事をした。
そろそろ一時近くになったので俺は校門へと向かった。




