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ウィザードオブバージン  作者: チャンドラ
16/18

疑問

 一ノ瀬栄吉の自宅を訪れた後、一年竹組の生徒、三年

梅組の生徒のところへ赴いたが、これといって有益な情報を得る事はできなかった。

 残るは一年松組の渋民平太しぶたみへいたという生徒のところのみだ。

「残るは一人ですね」

 俺は近藤さんに話しかけた。

「そうだね。もしこれで場所を突き止められなかったら正直、事件を解決するのは厳しいかも」

 あっさりと近藤さんは諦めムードなことを言った。

 すると鈴鐘は冷たい口調でこう言ってきた。

「藤嶋君、もし次の生徒で犯人の場所が分からなったら何か方法はあるの?」

「ない」

 あっさりと俺は答えた。

「そう」

 鈴鐘はため息をついた。こいつ、美人だが可愛げ気がないな。

 こんなんだからクラスで友達ができないんだ。俺もできてないが。

「まぁまぁ二人とも。やれるだけのことをしよう! 僕は明日からまた任務だから今日までしか手伝えないけど」

 近藤さんも忙しい中、わざわざ来てくれたんだ。近藤さんには感謝してもしきれない。

 かつての過酷な教育はさておき。


 やがて渋民の自宅についた。

 マリー先生のメモには在学中も一人暮らしで今もバイトをしながら一人暮らしをしていると書いてあった。

 俺はドアのチャイムを鳴らした。

 ドアが開くと身長は俺と同じくらい、余談だが俺は百七十センチである。

 髪は茶色のロン毛で優男という感じの生徒だった。どことなくチャラそうな感じに見える。

「入ってください」

 渋民に促される、リベングの方へ移動した。部屋の中は俺が住んでいる寮の広さと同じくらいでベッドや本棚、机といった最低限の家具しか置かれていないようだった。

「どうぞ、適当なところへおかけください」

 そう言われ、俺は座った。

 鈴鐘と近藤さんは正座した。俺はあぐらだが。あぐらは疲れるしな。

 渋民はキッチンで何かをしていた。

 三分ほどすると戻ってきた。

「どうぞ、お茶です」

 なんとわざわざお茶を淹れてくれたようだ。

「どうもありがとうございます」

 俺は渋民の心遣いに対して素直にお礼を言った。


 三人ともお茶を受け取ると、渋民が口を開いた。

「それで......僕の退学を取り消してくれるかもしれないということで、僕の話を聞いてもらえますか?」

「ええ、もちろんです」

 近藤さんは即答した。渋民は嬉しそうな顔をし、話を始めた。

「三週間ほど前、俺は特に目的もなく一人で帰宅していたら、突然何者かに襲われました。車に乗せられ意識があったのは、どこかの森の中にある施設、工場のようなところでした。俺を抱きかかえてくれたのは女性だったと思います。結構若めの女性。白いローブを着ていて顔は見えませんでした。手術室のようなところに運ばれ、注射をされてからは何も覚えていません」

 俺は渋民の話を聞いていて、他の生徒よりも襲われた時の記憶が結構覚えているように感じた。

 北林は襲われてから元の場所に戻されてからの記憶はまるでなかったと言っていた。

 俺は質問をすることにした。

「あの、襲われた時の時間と元に戻ったときの時間についてを訊いてもいいか?」

「うん、襲われた時間は確か四時半くらだったかな? 元の場所にもどってきたのは七時くらい」

 俺はこの話を聞き、少し疑問に思った。

「近藤さん、犯人が相手を襲ってアジトに戻り、人体実験をしてまた元の場所に戻る。こんな芸当を二時間半でできるもんなんですか?」

「そうね。確かに変だわ」

 鈴鐘も俺の意見に納得してくれた。

「おそらくは瞬間移動の魔法をつかったと思う。それを使ったのが運転手のほうか女性のほうか分からないがな。だから人体実験をしたのは二時間前後。一日以上拘束すると誘拐事件とみなし、学校側も動く。それを防ぐために不純異性行為に見せかけるために二時間ほどで人体実験を行ったんだと思う」

 淡々と近藤さんは自分の推理を述べた。

「それで......犯人の居場所は突き止められそうですか?」

 不安そうな顔で渋民が訊いた。

「それはまだ分からない。渋民君、君に魔法をかけさせてもらうね」

「え、はい」

 近藤さんは渋民の額に手を当てた。

「リメンバー」

 黒い魔法陣が発生した。魔法陣は渋民の頭を触れる。

 この魔法で渋民の事件当時の出来事を疑似体験できる。

 しかし、疑似体験できるのは渋民が意識のあるところまでである。

 気絶したところまでは疑似体験ができない。


 しばらく時間が立ち、近藤さんは魔法を解除した。

「場所が分かった」

 近藤さんはそういった。

「ほ、本当ですか! ありがとうございます!」

 渋民はお礼を言った。感無量と言った表情をしている。

「まだ事件は解決しているわけないけどね。君がギリギリまで意識を保っていたおかげだよ。君は強い。立派な魔法使いになれると思う」

 おいおい、ベタ褒めじゃないか。

 俺になんか、もっとやる気を見せろ! だの、こんなんじゃ一流の魔法使いには程遠いだの言ってくれた癖に。

「近藤さん、どうします? 早速、そのアジトに行きますか?」

 俺の提案に近藤さんは首を振った。

「いや、一度学校に戻ろう。ここからはかなり離れている。車で三十分くらいの距離だ。マリー先生にも報告したいし」

「分かりました」

 俺たち三人は一度学校に戻ることにした。渋民の家を出る前に渋民は再度、頭を下げた。

「どうかよろしくお願いします!」

「できるだけのことはする」

 近藤さんはそう言い、俺たちは去った。


 出来るだけのことか......

 過度に期待するなよという意味も含まれれているのだろう。

 もし犯人を捕まえても、渋民が魔法を使えるようにならなければ、退学が取り消されることはない。

 少し不安な気持ちを抱きつつも俺たちは学校へと戻っていった。

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