虐待
「さて、二人とも行こうか」
俺と鈴鐘、そして近藤さんは先生から渡されたメモを元に、退学した生徒の自宅へ向かった。
北林を除く退学した四人の自宅へ訪れる。
目的は、魔法の力を奪った犯人のアジトを突き止めること。
そのために、近藤さんの他人の記憶を辿る魔法、『リメンバー』を使用する。
「最初は二年梅組の一ノ瀬栄吉さんのところだね」
一ノ瀬の家に向かう途中、鈴鐘は近藤さんにこんな質問をした。
「あの、近藤さんは普段どんなことをしているんですか?」
「んー? 警備とか護衛とかかな」
「そうなんですか。それと、藤嶋くんとはどんな関係なんですか?」
鈴鐘は無表情のまま、質問を続けた。
「友人、いやむしろ恋人かな?」
「......」
近藤さん、ギャグのつもりなんでしょうが、鈴鐘のやつドン引きしていますよ。近藤さんのことは尊敬しているがこんなスキンヘッドの男はさすがに恋愛対象に入らない。っていうか男は恋愛対象に入らない。
「あっははは! 冗談だよ!」
近藤さんはゲラゲラと笑い出した。
「俺と近藤さんは生徒と家庭教師っていう関係だったんだ。高校入学までに近藤さんから魔法を学んでいた」
そう聞くと、鈴鐘は不満そうな顔になった。
「そう......通りであなたはやけに魔法が慣れたように使えると思っていたわ」
「まぁ、でも梅組に配属されたってことは俺にはあんまり才能がなかったんだよ」
すると、近藤さんは顔をしかめた。
「藤嶋君、それは違うだろ? 君は才能がないんじゃない。才能がない不利をしたんだろ? なんとなく分かるぞ。マリー先生だってとっくに気づいているんだろ?」
近藤さんは核心めいたことを言ってきた。やれやれ、なんだって近藤さんに学校のことをとやかく言われなくてはいけないんだ。
俺は内心そう思った。
「あなた......何の目的があってそんなことを?」
鈴鐘はそう訊いた。
「悪いがお前には関係にないことだ」
俺は低い声で鈴鐘の質問を遮った。
「藤嶋君、君ってやつは......」
近藤さんが俺に近づいてきた。なんだ? まさかここで戦闘しようっていうんじゃ......
「近藤さん、もう少しでつきますよ。あのアパートですよね?」
俺は一ノ瀬栄吉の自宅を指差した。近代的なアパートの一室である。
「そうだね......」
俺たち三人はアパートのドアの前まで移動し。チャイムを鳴らした。
出てきたのは母親と思われる感じの人だった。年はおそらく四十過ぎくらいである。背は低めだった。それと何よりも気になったのが顔にアザができている。
それを見て、鈴鐘は動揺していた。
「一ノ瀬栄吉の母の一ノ瀬相子と申します。本日はよろしくお願いします......」
一ノ瀬の母は深いお辞儀をした。
「こちらこそよろしくお願いします。早速、栄吉君のところに案内させてもらってもよろしいですか?」
近藤さんの方は一ノ瀬の母を見ても顔色一つ変えず挨拶をした。
「はい」
とある部屋の扉の前まで案内された。一ノ瀬の母はノックをした。
「栄吉! 退学を取り消してくれるかもしれない魔法使いの方がいらしたわよ」
五秒ほど沈黙が続いた後、ゆっくりと扉が開いた。
「入ってください......」
出てきたのは不健康そうな顔立ちの痩せ型の男だった。顔の頰は痩せこけており、目にはクマができている。
この人が一ノ瀬栄吉か。やはり退学になったのはショックだったのだろうか。顔を見ているとそんな感じがする。二年で梅組ということはあんまり一年の時の成績は良くなかったのだろう。
まぁ、俺も梅組だが。
部屋にはたくさんのアニメのフィギアやポスターが飾ってある。
口には出さないものの、鈴鐘は不愉快そうな顔をしていた。
「それでは、どうか息子をよろしくお願いします」
そういい、一ノ瀬の母は去っていった。
「それじゃ、一ノ瀬君早速、魔法をかけさせてもらってもいいかな?」
すると、一ノ瀬栄吉は狂気に満ちた目をしだした。すると当然、カッターを取り出し鈴鐘に向かって刺しにきた。
「え?」
鈴鐘は驚きのあまり動けないようだった。
近藤さんは鈴鐘の前に立ち、素手でカッターを掴み、防御した。手からは血が流れている。
「一ノ瀬君......どういうつもりかな?」
「何が退学を取り消してくれるかもだ......こっちの気もしらねぇで! あの学校はクソだ! 俺は何もわからず突然退学にさせられて! 俺はヤッタ奴っていうレッテルを貼られて、他の高校に編入はおろか満足に街を歩けもしねぇ! これも全部学校のせいだ!」
俺は聞いていて全くの暴論だと思った。
「だから、あなたの無罪を証明しようとしているんでしょう!」
鈴鐘が叫んだ。
「うるさいうるさい! お前らもどうせ俺のことを馬鹿にしているんだろうが! 何が無罪を証明してやるだ、偉そうに! ここでお前らを殺ってやるぜ! あはははは!」
うーん、どうも頭がおかしくなっているようだ。これが教育システムの闇か。
やはり一ノ瀬栄吉の母にアザがあったのはこいつが原因か。
退学で自暴自棄になり、自分の母に暴力を振るっていたというところなんだろう。
すると、一ノ瀬栄吉の叫んだ声を聞き、母親が戻ってきた。
「栄吉! 何をしているの? やめなさい!」
「うるせぇ! ババァ! お前も殺されてぇか!?」
俺は一ノ瀬の言葉にイラっとした。よし、少し懲らしめてやるか。
「フィジカビリティアップ」
俺は陽魔法の呪文を唱えた。この魔法は自分の身体能力を倍増させる魔法である。かなり戦闘向きの魔法であるが、魔力の消費が中々激しい。
俺は一瞬で一ノ瀬栄吉の近くへと移動した。
「いつの間に!?」
一ノ瀬栄吉の顔面を思いっきり殴ってやると、壁のところまで吹っ飛びもたれ込んだ。唇からは血が流れ出ていた。
「痛って......」
続いて肩を蹴った。部屋の中央に飛ばされ、倒れこんだ。
「も、もうやめてくれ......」
一ノ瀬栄吉は後ずさりをした。
俺はゆっくりと一ノ瀬栄吉の元へ近づき、右手でやつの頭を掴んだ。
「もうやめてくれ? あんたは自分の母親にもこんな暴力してたんじゃないのか?」
頭を掴んでいる指の力を強めた。
「痛たた! 母さん! 助けてくれ!」
すると、一ノ瀬の母は土下座をした。
「どうか息子を許してください! 本当は優しい子なんです!」
やれやれ、母親も甘いようだ。
「近藤さん、二人にフェイントをかけてください。もうこいつの記憶だけ辿ったら退散しましょう」
俺の提案に少し不満そうな顔をしながらも、近藤さんは頷いた。
「そうだな......」
一ノ瀬栄吉とその母を魔法で気絶させた後、近藤さんはリメンバーで手がかりを探った。
「だめだ......これといって有益な手がかりは得られなかった」
「そうですか、なら次のところへ行きましょう」
すると、鈴鐘は突然、俺の肩を叩いた。
「なんだ?」
「あなた......少しやりすぎよ」
「まぁ、そうかもしれないな」
近藤さんは部屋に残った血を何かの魔法で消し、気絶している二人に何やら魔法をかけた。
「二人の記憶を書き換えておいた。これで二人の中では僕たちが訪れていないということになるはずだ」
「そうですか。近藤さん、ありがとうございます」
俺は頭を下げた。しかし、記憶を書き換えるとはとんでもない魔法をさらっと使えるもんだ。
「それじゃ、次の生徒のところへ向かおうか」
まぁ、あの親子のことなんてどうでも良かったが、一ノ瀬栄吉の母親に対する言葉には少しイラっとしてしまった。
あいつの事がフラッシュバックされたから。
俺達は一ノ瀬のアパートを後にした。




